PEZY Computing の投資価値は冷却装置だけなのか(ただし冷却装置の省電力性能は極めて低い)

追記(2018年8月5日)

PEZY/ExaScaler の Gyoukou(Green500 5位)が ABCI(Green500 8位)の2倍の電力を必要とすることがわかりました.Green500 の順位が省電力性能を必ずしも示していないため,プロセッサなどだけでなく,冷却装置にも技術的価値はないと判断されます.

追記(2018年8月5日)ここまで

スパコン、技術開発に暗雲 助成金詐欺事件という記事が出ました.

本当にスパコン技術開発に暗雲が立ち込めるのか,投資家の判断,研究者の意見を参照すると疑問が残ります.研究者の意見は別のノート(Top500, Green500 の順位はもうスパコン性能の参考にならない,と順位リスト作成者は言い続けている)で示すとして,以下では,投資家の判断によれば PEZY Computing の技術力はスパコンランキング上位から来る期待より下回っていることを示します.つまり,PEZY Computing の技術開発が停滞しても,スパコンの技術開発に陰りが見えることにはなりません.

まず PEZY Computing, ExaScaler への投資を行ったと公表している日本アジア投資・サイバーダイン・富士通コーポレートベンチャーファンド の投資実行/引き上げ時期,ならびに関連するプレスリリースを示します.

2014年11月 日本アジア投資 ExaScalerへの投資実行
2015年02月 日本アジア投資 PEZY Computing への投資実行
2015年06月 富士通コーポレートベンチャーファンド ExaScaler に資本参加
2015年08月 サイバーダイン 株式会社ExaScalerへの業務提携及び出資に関するお知らせ 川崎市に、スーパーコンピュータとデータセンターを設置し、共同運用へ.
2015年08月 サイバーダイン PEZY Computing 社と業務提携を前提とする資本提携 主に小脳処理機能と学習型汎用AI(人工知能)の共同開発.出資額は数億円. 共同開発のメドは3年後.
2016年09月 日本アジア投資 ExaScaler への出資を引き上げ
2017年10月 日本アジア投資 PEZYへの出資を引き上げ
2017年10月 富士通 液浸冷却システムを用いたPCクラスタを販売
2017年12月 サイバーダイン PEZY Computing 社の株式は全て売却済,資本関係なしと公表.

PEZY Computing の技術を評価するときの指標として,スパコンのベンチマーク順位 (Green500, Top500) がしばしば参照されます.そこで,その順位の推移と合わせてみます.

2014年11月 Green500 2位 (Suiren)
出資 日本アジア投資 → Exascaler
2015年02月 出資 日本アジア投資 → PEZY Computing
2015年06月 出資 富士通コーポレートベンチャーファンド → ExaScaler
2015年07月 Green500 1位 (Shoubu), 2位 (Suiren Blue), 3位 (Suiren)
出資 サイバーダイン → Exascaler
出資 サイバーダイン → PEZY Computing
2015年11月 Green500 1位 (Shoubu)
2016年06月 Green500 1位 (Shoubu), 2位 (Satsuki)
投資引き上げ 日本アジア投資 ← Exascaler 
投資引き上げ サイバーダイン ← PEZY, ExaScaler (*)
2016年11月 Green500 3位 (Shoubu)
2017年06月 Green500 2位 (kukai), 7位 (Gyoukou)
投資引き上げ 日本アジア投資 ← PEZY Computing
2017年11月 Green500 1位 (Shoubu system B), 2位 (Suiren2), 3位 (Sakura), 5位 (Gyoukou)
Top500 4位 (Gyoukou)

ただし, (*) の時期は推定(PEZY Computing 関連のプレスリリースがサイバーダインから出されなくなった時期にもとづく).

富士通が液浸冷却技術をPCクラスタに応用することで価値を見出した以外は,Green500で1位を保っていても,投資家は PEZY Computing, ExaScaler への投資を回収しています.つまり,投資の観点から見たとき,スパコンのベンチマークの順位は企業を知るきっかけにはなっても,投資価値とは関係ないことがわかります.

当初サイバーダインは,データセンタの共同運用・人工知能の共同開発のために提携していて,PEZY Computing の技術に高い期待を寄せていたことがうかがえます.その後,投資家は投資の条件として会社の詳しい情報を参照することができるため,詳細に技術を評価し,PEZY Computing の持つ技術価値が当初の期待を下回ったため,投資を回収したとみることができます.

この例から,自らの資金を投資するために厳しく判断すれば PEZY Computing の技術はGreen500の順位から期待されるものより,実際は下回っていることが示唆されます.

投資やビジネスの観点からの技術力はなくても,PEZY Computing に(利益にならない)技術的価値はあるという考え方もあるでしょう.それについては,稿を改めて書きたいと思います.

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