ショートストーリー「Rとの遭遇」

 カンカンカンカン

 私は急いでいた。山矢やまや探偵事務所に就職してから、こんなに走って出勤したことはないかもしれない。

 探偵事務所の階段が長く感じる。
早く、早く山矢さんに伝えなきゃ。

 ドン!
「はぁ、はぁ、はぁ」
「なんだ、田橋たばし。朝からずいぶんと慌ただしいな」

 山矢さんはいつも通り、窓辺のデスクでコーヒーを飲みながら、無表情で煙草を吸っている。

「山矢さん、これ、見ました?!」「これって、なんだ」
「山矢さんのことが記事になってます!」
「記事?」

 これは重大なことだ。この事務所のことが記事になるなんて。

 そう、ここ山矢探偵事務所は普通の探偵事務所と少しだけ違う。常識だけでは考えられない、不思議な存在、異形のものを相手にする所。奇妙な問題を解決する探偵事務所なのだ。

「これです。見てください。山矢さんのこと、詳しく知ってる人じゃないと書けません」
「どれ」

 山矢さんは私からスマートフォンを受け取って、記事に目を通した。そして、煙草の煙をゆっくり吐いて、ふっと小さく笑った。

「山矢さん! 何笑ってるんですか! バレてますよ。この事務所のこと! 山矢さんこれ、そっくりですよ?! いつ見られたんですか?」
「そんなに似ているか? 俺はネクタイはあまり緩めないが」
「いいえ、戦闘のときと大将のお寿司を食べるときは少し緩めています」
「そうか?」
「はい。私だって一応探偵事務所の職員なんですから。そのくらい見てます。これそっくりですよ? 大丈夫なんですか?」

 山矢さんは煙草をもみ消して、次の煙草に火をつけた。

「Rだろ」
「え?」
「記事書いたやつ、Rだろ?」
「あ、はい。そう書いてあります。知ってるんですか?」

 煙草の煙をゆっくり吐く。

「知っている」
「あ、お知り合いなんですか?」「あぁ、古い仲だ」

 なんだぁ。知ってる人だったのか。朝から私もちょっと焦りすぎたな。

「知ってる人なら良かったです。山矢さんの特殊な体質がバレたのかと思いました」
「特殊な体質ってなんだ」
「だって、山矢さん普通じゃないですから」
「普通だろ。そのへんの中年と同じだ」
「こんな中年そこらへんにいたら大変ですよ。あー、でも良かった〜。走ってきたから喉乾いちゃった。山矢さんコーヒー淹れますか?」

 山矢さんは自分のコーヒーカップをのぞき、「あぁ、頼む」と言った。私は自分の紅茶と山矢さんのコーヒーを淹れる。

「どんな人なんですか?」
「ん?」
「このRって人」
「あぁ、そうだなあ。一筋縄ではいかない……という感じだな」
「ふーん……山矢さんでも、ですか?」
「だから、俺は普通の中年だ」

 山矢さんには不思議な知り合いがたくさんいる。私もいつか、このRという人に会うことがあるのだろうか。

 いつか会えたときは、Rという人と協力関係なのか対峙するのか、まだわからないな、と思った。

 こんな私でも少しは山矢さんの役に立てるよう、今日できることを頑張ろう。


《おわり》


あるさんが、山矢探偵事務所シリーズの山矢を絵に描いてくれました!!私のイメージぴったりすぎてびっくりです!!めちゃくちゃかっこいい!!!

山矢探偵事務所を読んでくださったことのある方は、ぜひ見に行ってみてください♡私としてはイメージぴったりなんですが、みなさんはどうかなー(^ー^)

あるさん、ありがとうございました\(^o^)/



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