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まずは知ることから始まる。#創作大賞感想

世の中には知らないことが多すぎる。全てを知ることは無理がある。それは仕方がないこともある。でも、知ろうとすることは大事だと思っている。何事も、まずは知ることから始まる。

たなかともこさんの「それでも諦めない。」は、PICS(集中治療後症候群)と呼ばれる症状に苦しむサバイバーと、それを支える家族、まわりの人々、医療者の現実を書いた物語だ。
PICSと言われても、何それ?という方が多いのではないだろうか。医療現場で働いていた私も、「言葉も概念も知っていたけど、ここまで詳しいことは知らない」状態であった。お恥ずかしい限りである。やっぱりまずは知ることから始まる。

何事も同じだと思う。PICSに限らない。自分の知らないところで、どこかの誰かが何かで苦しい思いをしている。そのことを知り、想像し、自分にできることを考えるきっかけになる。そのためには、知識や情報を発信してくれる人の存在が必要で、情報が広がることで人々は支えあい、痛みを共有し、何か力になれることはないかと探すことができるのだ。昨今の情報網の発達は、もちろん悪い面もあるが、良く使えば人々の助けになる。まずは知ること。どこかで苦しい思いを抱えて生きる人がいる、ということに想像をめぐらすこと。正しい知識と情報を得て、自分にできることを探すこと。そうやって想いと行動が巡回することで、世界は少しでも良くなるのではないだろうか。誰かに寄り添おうとする気持ちが、うまれるのではないだろうか。

「それでも諦めない。」は、小説であり、ドキュメンタリーだ。医療現場を知る作者だからこその、小説というかたちの情報発信だと思う。そして、最後はしっかり小説らしい楽しみも待っている。そんな遊び心と、いやこれはファンタジーなんかじゃない、きっと遠くない未来のお話だ、と思わせてくれるラストはうまい。

きっと読んだ人の中に何かが残るであろう、素晴らしい小説をありがとうございました。

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