見出し画像

人生はワンツーパンチ

その日は確か大寒だった。
暦の上で1年で一番寒い時期がスタートとなるその日、私は地域のコミュニティセンターでリズムに合わせて有酸素運動の指導を受けていた。

「365歩のマーチ」が鳴り響く室内には、市民検診でちょっと指導が入ってしまった男女数名。
お互いに何となく顔を合わせないようにしながら、目の前のインストラクターさんの動きに集中する。

♪人生は ワンツーパンチ
    汗かき べそかき 歩こうよ~♪

ワンツーワンツー運動しながら、汗をかく一歩手前くらいの、息がはあはあ上がるくらいの感じの時が脂肪が一番燃えやすいらしいとの説明を受ける。なるほど。

ふと見渡せば、同年代と思われる方は(きっと)いない。
曲の合間合間にインストラクターさんが一人一人にアドバイスをして回っているのだが、私の前に来ると「若いから大丈夫。どんどん動きましょ!」の一言で去っていく。
いや、年齢だけで判断しないでくれ。
超が付くほど運動音痴だし体硬いし。
腰痛もあるから思ったほど動かないんだっつーの。

そもそも、私が何でその場にいたのかというと。
普段家で測る血圧は特に高くはない私であるが、検診時に測定してくれた方も二度見三度見するくらいの、ものすごい数字を叩き出してしまったからだ。

根っからの病院ギライと白衣の人恐怖症が相まったとしか考えられない、なんて事情が検診医に通じる訳もなく、ここ数年のストレス太りもあり、私の姿を見るなり

「あなたね!この身長で(一昔前に流行ったミニモニサイズ)この体重とこの血圧!有り得ないですよ!!寝たきりになりますよ!!下手すりゃ死にますよ!!酒?間食?バカ言ってんじゃねーよ!!!今すぐ止めなさい!!死にますよ!!」って内容を、ごく薄いオブラートに包まれた言い回しで頭ごなしに怒鳴られた。

死ぬ死ぬ言われたので「はーい、分かりましたー、死にたくないですー」と笑顔で返し、診察後の保健師さんとの面談で「こんなん言われたんですけど」と言いながら、少しだけ泣いた。

優しくうなづきながら話を聞いてくれた保健師さんから、検診でヤバい数値を叩き出した方への指導のお誘いを受けた。
こりゃ何か悪いところが見つかるかも知れないな。
断る理由などない。二つ返事で了解した。

実はここ数年、目まぐるしく変わる義母の状態に振り回され、自分の検診なんて受けている余裕なんてなくて、
この状況で私の身に何かあったら誰が義母の面倒みるんだよ…。
という間違った正義感が「何も悪いところが見つからないように検診をパスしよう!」という結論を導き出していた。

しかし、去年の夏。
私のソウルは完全に参っていた。疲れ切っていた。
息子はある程度手がかからなくなって来たものの、問題は先の見えない義母の介護。
いつまで彼女に全てを合わせて自分のことを後回しに生きていかなきゃならないんだろうと、コロナ禍も相まって鬱々と塞ぎ込む日が増えていた。

楽になりたい。泣き出したい。
いつか今を笑い飛ばしたい。

この日々から逃れるためには一体どうしたらいいのかというところまで追い詰められた私の脳裏に浮かんだのは、検診で何か引っかかれば、それを理由に介護生活から逃げられるんじゃないかという、さっきまでの正義感何だったんだ?というような浅はかで邪な思考だった。

障害のある長男の子育てを経て、ようやく自分の時間が持てるようになるぞと思った矢先の介護生活。
それらをほぼ1人で支えていると、まともな考えが出来なくなる瞬間はいくらでも生まれるものである。

それから程なくして、細かく詳しく体の中を調べていただいた。
びっくりすることに、こう見えて(どう?)深刻な疾患などは見当たらなかった。
あの血圧何だったん?
はい、介護生活離脱作戦、失敗w

体重については筋肉は同年代よりも多めとのことだったが、その分脂肪もそれなりだった。
この落ちにくい脂肪をまず早急に何とかしなきゃならん!ということになり、食生活の改善と効率の良い運動をするようにとの指導が入ったのであった。

運動不足についてはまったく否定しない。受け入れよう。
でもその先の「間食や飲酒を止めろ」な提案は、なかなかキツいなぁと思ってしまった。日々のちょっとした子育て&介護のイライラを解消するためにはエネルギーが必要だ。
そのための甘いものやちょっとのお酒は正義であると思い込み、溜め込んだ脂肪にケリをつける時が、いよいよやって来たのだということか。

体操の後は栄養士さんからの講話。
糖質減らせ!というありがたいお話の中で、あんパンやアルフォート、日本酒なんかが悪者として例えられる。
どれも大好物すぎていたたまれない気持ちになる。
遥かにワンツーワンツー動いてた時間の方が楽しかった。

私の前に栄養士さんが回ってきた。
「これからはどうされますか?」
にこやかな笑顔に隠された圧力を見逃さなかった。
生半可なことを口走ったら消されるかもしれん。
よっしゃ!覚悟決めたろうじゃないか。

「間食止めます。その代わり、酒は止めません!」
呆気にとられる栄養士さん。くすりと笑った隣のおじさん。

あんパンよアルフォートよ、しばしのお別れだ。さよならなんかは言わせない。僕らはまた必ず会えるから。

次回の計測は1か月後。ビールを糖質オフに変え、白米をオートミールに置き換える方法を長女に伝授された。毎日こつこつワンツーワンツー動く時間を増やし、その日を待とうと思う。

ちなみに。 チーターには全く申し訳ないのだが、まだあのリズムに身を委ねる年齢ではないと信じたい部分もあるため、推しの曲に合わせてワンツーワンツーしていることを申し添えたい。

EASY COME,EASY GO!


#痩せろ
#市民検診
#血圧高め





































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?