私がパンに惹かれた理由

パン教室に通って半年ほどになった。
街中の雑居ビルの一角、ガラス張りのドアの取手には「押す」と書いた黄色の色画用紙が貼ってある。
揃いのエプロンをつけた妙齢の女性達は、皆それぞれ綺麗にメイクをして、素朴なのに華やか。
彼女たちが教室の講師である。
習うのは、ドライイーストを使った手ごねのパン。
材料の計量から、温度管理、生地のこね方、また温度管理、発酵の具合、生地の丸め方、再び温度管理、めん棒の使い方、成形の仕方まで付きっきりで習う。
合間には協力して洗い物もする。
焼きたてを味見する時にはコーヒや紅茶を淹れ、ランチマットを敷いて白いお皿に盛り付ける。
傍らで「おいしい?」なんて聞かれたりして、とてもアットホームな雰囲気だ。

私は一人で食べていくには困らない職業で、本を読んだり映画を見たり、料理をしたり、たまに友人とお酒を飲んだりすれば全く不自由がないと思っていた。
それでも、パン教室に通うようになって、驚くほど癒されている自分がいた。
私は多分、孤独を感じていたと思う。
家族と疎遠な自分に、人より清廉で勇敢であることを求められる仕事に、きっと疲れ果てている。

一生懸命やってる自覚はあるけど、力の抜き方がわからない。

パン教室に通うようになって、穏やかな時間を過ごし、今までの自分じゃない自分でいられるようになった。
気分的には、自分が二人いるみたい。
平日になればまた「お仕事モード」に切り替わってしまうのだけど、ゆるい自分を見つけられたから、いつかは二つの自分が融合するかもしれない。

何にせよ、趣味というか、自分が楽しいと思えることを持つことは大切だ。
人生を鮮やかにしてくれるし、生きる目的もできる。

ここのところ休みの日は毎週通ってるので、そろそろ次のステージへ行けるかもというところ。
冷凍庫は作ったパンでいっぱいで、少しずつ解凍して食べるのが休みの朝の楽しみ。

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