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合コンを生きがいにした女子大生たちのインモラルな日々について

大学時代、私は星の数ほど合コンをした。

幸運なことに、「わりと賢くて、お嬢様が多い」というイメージの大学に通っていたので、そういった誘いを受ける機会は多かった。商社マンや広告代理店、時には野球選手や芸人、某男性アイドルグループのメンバーとだって合コンした。

その話はまた後日するとして。

あんなあわただしい日々は、もう二度と訪れないだろう。
だからだろうか、思い出すインモラルのまわりには、どこか愛おしさすら漂っている。

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合コンが終わってMちゃんの家に帰ると、私たちは、決まって昼過ぎまで泥のように眠る。
二日酔いをやり過ごして、コンビニかなにかで買ったお弁当を食べて、また眠る。17時くらいになると、誰かが言う。

「やばい、もう五時だ」
「ほんとに?」
「今日の会、何時からだっけ?」
「六時半」

それから、私たちは少しだけあわてたふりをして起き上がる。
別に、多少遅れたってかまわない。だけど、油断していると一時間でも二時間でも経ってしまうので、ポーズだけでもあわてて見せることが肝心だ。

順番に、時には何人か一緒にお風呂に入る。

入浴が済めば、支度をしなければならない。

私たちは合コンの前になると、念入りに自分を作り込む。
乾かした髪の毛を巻いて、いつもよりずっと丁寧にメイクをする。それは一種の芸術活動だ。

肌が陶器みたいに見えるよう、ベースだったり、BBクリームだったり、CCクリームだったり、ファンデーションだったりを重ね、ふわっとパウダーをのせて。

鼻が低いと悩んでいるC美は、さりげなくノーズシャドーとハイライトを入れる。E子はアイプチで二重を作っている。

「今日の相手、どこだっけ?」
「●物産。前コンパした人の紹介」
「ああ、あの人」
「えー、私会ったことあるかな」

あわただしく準備をしながら、私たちはその日の舞台に向けて準備する。まるでステージに上がる前のバレリーナみたいに。

アイメイクは、自然に。でも、できるだけ瞳が大きく見えるよう、こっそり入れるインライン。マスカラで丁寧に下まつ毛を伸ばして、まぶたにはナチュラルなつけまつげ。

「ワンピこれでいいかな?」
「いい感じ、盛れてる」
「ピアスのキャッチどっか行っちゃった」
「昨日洗面台で外してなかった?」

近くで見ないとわからない茶色のカラーコンタクトで、瞳のうるうるは当社比1.5倍。リップは奇抜すぎず、でも血色がよく見えるものを。ぽっと上気したような頬をチークで作って、鏡の中に微笑んで見せる。

仕上げに、香水をワンプッシュ。

「今何時?」
「やばい、もう六時だ」
「タクる?」
「いや、大丈夫っしょ」

店のちょっと前から早歩きして、急いで来た感を出して。
スマホを見ると、『18時37分』。

「セーフ」
「あ、いた」
「どれ?」
「あの奥に座ってる人たち」

「「「「遅くなってごめんなさーい!」」」」


一次会は、イタリアン、フレンチ、個室居酒屋、焼き肉、エスニック。予約をするのは男性陣なので、いろいろだ。
二次会は、決まってカラオケ。朝まで騒ぐこともあるし、二時くらいにタクシーで帰宅することもある。タクシー代は、大抵男性に出してもらうか、どこでも帰れるチケットをもらう。もちろん、帰るのはMちゃんの家。

帰りにいつも寄るコンビニの蛍光灯に照らされる私たちの姿は、家を出たときの四割減くらいの完成度になっている。

「今日、どうだった?」
「Yさん、けっこうありだな」
「えー、確かに、Mちゃん好きそう!」
「でも、あそこでゲーム始めたのは微妙じゃない?」

にぎやかな反省会。運命的な恋なんて、一度だって生まれなかったけれど、でも楽しかった。同じベッドにぎゅうぎゅうに寝そべって、お泊り会みたいで。


あれだけ合コンをしていた私が言うのもなんだけど。
合コンって、べつに、素敵なものじゃない。

嫌なやつも、つまんないやつも、下品なやつもたくさんいた。

その場では「いいよいいよ、俺たち年上だからおごるよ」なんて言っておいて、後で「精算したら思ったより高かったから、口座にひとり●円ずつ振り込んでください」ってLINEしてきた男もいる。私たち、誰も振り込まなかったけど。

彼氏ができた子はほんのちょっとで、遊ばれたり、セフレみたいになっちゃうことの方が圧倒的に多かった。

C美は合コンに行き過ぎて、一限・必修の英語の単位を落とし続け、私が卒業する時にはまだ二年生だった。結局、単位は取れなくて、選んだのは退学だ。

Mちゃんは商社の一般職に就職したけれど、退屈すぎてすぐにやめて、キャバ嬢になった。

E子は、就職せずに男性からもらうお金で生活していた。真剣にその人と交際しているつもりだったらしいけど、腕に発疹ができて病院に行くと、梅毒とそのほか3種類の性病にかかっていることがわかったそうだ。

結局、私が学んだのは、人生はいろんなところで足を踏み外すことができるのだということだった。

だけど、もう一度大学時代を送るなら、きっとまた合コンに行く。

女の子の誰かが脱ぎ捨てたタイツを探す昼下がり。騒ぎながらお互いの髪を巻いていた夕暮れ。みんなですする蒙古タンメン中本も、六本木のつるとんたんも、なぜか愛おしい。

私たちは無垢だった。何度合コンに行っても、無邪気だった。懸命だった。エドガー・ドガが描いた踊り子たちみたいに。

だからこそ願わくは、次こそみんなが幸せになってほしいと思うのだ。
皆さんも私と共に、そう思ってくだされば、とても嬉しい。

(Edgar Degas, Danseuses dit aussi Groupe de danseuses Paris, musée d’Orsay )


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