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【死海文書】ラ・リーガ、暗黒期の様相

欧州リーグ開幕が迫っている。

プレシーズンも終わりに向かい、各チームが仕上げにかかっている中、心配になるチームが二つある。

レアル・マドリードとバルセロナである。前者は守備が崩壊しており、後者は明らかに攻め手を欠いている。

暗黒期がチラついている、各チームの現状を見ていきたい。

①インテンシティが低すぎる

レアル・マドリードからいこう。

プレシーズンここまで5試合を追ったがフェネルバフチェに5-3で勝つまで、さかのぼれば2019年5月13日の対ソシエダで敗れてから6試合90分間で勝ちきれていなかった。

要因は様々あるが、①プレッシングの遅さ②DFライン統率のルール不足③個人技依存、この辺りが軒並み出てしまっている。

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①プレッシングの遅さ

相手がボールを保持している際に、ただ獲りに行くだけではなく、獲ったボールがゴールに直結するよう相手の位置を誘導→ボールの周りに味方を適正配置→獲った瞬間からカウンターないしは崩しのパターンが開始、が望ましい。

レアルはこれがほとんど見られなかった。

特にアトレティコ戦では、前半完全に押し込まれる展開が多く、前線からのプレスも効果的にハマらなかった。

パスと個人技で簡単にかわされて運ばれ、攻め立てられ、相手の後手を踏みつづける。ゴール前でさえボールホルダーがプレー選択を切り替えられるタイミングで簡単に飛び込み、間を通されて失点するなど、意図が感じられない守備が続く。

これがプレシーズンを通して見られた。相手は怖さを感じずにボールを回せていた。

②DFライン統率のルール不足

注目したいのは、ジエゴコスタの1点目である。

まずアトレティコの攻撃から右SBオドリオソラが追走。ボールを取りかけて転倒する。

この時点で遠目に映る逆サイドのマルセロは戻り切るか迷っている。ファウルの判定待ちをして止まっている時点で若干物申したいのだが、結局アトレティコは攻撃を再開。

オドリオソラが追いつかないのはもう仕方がないとして、両SBがネガトラ時に戻りきれていないにも関わらず中がケアが不十分だった。CBの間にアンカーを入れて急造3バックにするか、その時間がなければその付近を守る動きか、どちらかを選択すべきだったとは思う。

カゼミーロ不在の影響は否めないが、フェリックスがフリーで受けられる状況はマズかった。ケアが間に合わず、DFは実質CBの2人しかいない。アトレティコは波状攻撃が可能な状態で侵入した。失点して当然である。 

レアルは守備時の動きが自動化されていないと感じる。攻撃で両SBが上がっていたということは、ウイング相当の選手が下がって穴を埋める動きが当然必要である(偽インテリオールの動き)。しかし、その動きが見当たらない。

中がフリーであったシーンにいたってはフェリックスのフリーランを見逃している。未遂とはいえ一瞬プレーを止めておきながら、それでも中がフリーになっているいうことは間に合っていないのではなく、ケアする守備要員がそもそも居ない・任されていないということだ。

③個人技依存 

アセンシオがアーセナル戦で同点弾を決めたシーン。このシーンがプレシーズン中に決まった片手で数えられる程度の崩しパターンの一つである。

プレシーズン中の試合で攻撃の印象に残ったのはトッテナム戦で特に多かったバイタルからのミドルシュート。

クロースは精度が段違いだったが、それ以外は特に脅威に感じなかった。実際トッテナム戦では、シュート22本に対し枠内はたった2本しかない。攻撃シーンで成功した崩しの数は特に少なく、基本的にヴィニシウスの縦突破かイスコの個人技に頼る始末だった。右サイドからも幾度となくクロスを上げていたが、高精度フライパスの処理に明け暮れているプレミア勢にはほとんど効果がない。

1人止めてしまえばフォローもないので相手は防ぎやすかったろう。

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攻めと守り両方においてオプションの数が乏しく、戦術的な工夫もない。

攻撃は各個人の技量に任せた力技が目立ち、守備はゾーンディフェンスを装ったオールコートマンツーマンである。プレスが弱いので意味がないのだが、各人で任された仕事の範囲を超えない「優等生」が多すぎた。

点で戦っているチームが、ラインとレーンで戦っているプレミア勢に自力で勝てるはずもない。

全体的にインテンシティが低すぎた。

②中盤の創造性欠如

バルセロナに移る。

こちらはそもそもトップレベルを想定した試合が今日までチェルシー戦とアーセナル戦しかなかった時点で、プレシーズンの組み方が正直なっていない。

データがどうしても少ないのだが、戦績だけで見るとそこそこ悲惨である。ジョアンガンペール杯はアーセナルに2-1で勝利したが、2019年5月5日にヘルタに敗北してからヴィッセル神戸戦まで4試合勝利がなかった。

4-0のリバプール戦のショックが国王杯と最終節に響いた昨季から、根本的な問題が解決していない。

バルセロナの攻撃スイッチである5~10メートルのショートパスを縦に放り込み、そこから流動的に組み立てて崩す動きが見られない。これは2年前からブスケツが担っていた役割でもある。それが完全に封じられた試合が、日本で行われた楽天カップのチェルシー戦である。

猛然とプレスをかけ合う両チームが激突する中で個人的に注目していたのは、グリーズマンが点を決めるかどうかよりも、ブスケツとジョルジーニョの攻撃起点対決である。結果としてものすごく玄人向けの試合はチェルシーが勝つわけだが、その中でもジョルジーニョはとんでもないレベルで立ち回った。

中盤からの創造性がモノを言うバルセロナの攻撃陣にとって、正確なポジショニングとパスワークは命のはずだった。

しかし、昨季のアルトゥール獲得までに行ってきた得点直結型の選手に偏った投資のツケが、ここにきて回ってきている。

前線からプレスを猛然とかけても、かわされてから後方まで押し込まれた時にうまく立て直せない。

後方を前線とつなぐ中盤の役割が機能せず、ブスケツ1人が下がって受けても次の縦パスまで2、3手が欠けている。

後方のフォローが少ないのはチーム全体のバランスが前線に偏っている証拠である。

アーセナル戦でもそうだったが、中盤からロブパスを放つか、オーバーラップした選手を使って前線深くに送ってから、相手エンドラインのギリギリ奥までえぐり、リターンパスから得点しようとするパターンを何度も試している。

だがそれ以前に、アタッキングサードに侵入したときから崩しが始まり、相手が意識していないうちに作ったスペースを刺すという動きが、元来バルセロナにはできるはずだ。

なぜやらないか。
できなくなってしまっているからだ。

そもそもバルセロナフロント陣がいよいよ危機感を受け止め始めたのがリバプール戦、解消しようと動き出したのは国王杯決勝なのは疑いない。

まずリバプールにCLで衝撃の逆転劇を演じられ、チーム全体が前がかりになった試合で、投資した前線に力が宿れば勝てるはずだという期待は粉微塵になったろう。2季連続の大逆転負けは流石のクレたちも怒り心頭だった。

何より、シーズン開幕前のメッシが公約として掲げていたCL奪還を、17-18シーズンと全く同じ形で獲り逃がした。最悪の形での敗退である。

そのダメージを負ったまま臨んだ国王杯、内容もボロボロだった。

試合終了間際のキーパーとの1対1、ガラ空きのゴールへの長距離ループの2発が決まっていればあわや4失点である。

中盤のパスワークは一見すると機能しているように感じたが、バレンシアは終始高いインテンシティを保ち続け、バルセロナが迷ってワンタッチしようものなら即座に刈りにきた。

V字にパスを交換しつつワンツーを繰り返し、ポジションを流動的に変えるバルセロナが見られなくなって久しい。ブスケツがジョルジーニョに上回られるシーンが見られ、いよいよ中盤全員が世代交代を完了する必要が出てきた。

結果としてチームの重心を前線から中盤へ移行させ、チーム全体として底上げと代謝を行う補強が必要だと判断された。

デ・ヨングを獲得しつつカンテラ叩き上げのリキ・プッチを積極起用して同時に試したのはこのためである。

守備は下部組織からムサ・ワゲを昇格させ、さらにメッシとのホットラインを形成しつつも年齢が心配なアルバの後釜を、22才のジュニオール・フィルポで補強した。移籍解除金(値札)を約230億というネイマール価格の設定から本気の様相が伺える。

これが噛み合えば即成功となるが、バルセロナは普通のクラブではない。「美しく勝つ」という独特のクラブDNAを中盤から復活させようとすれば、外部からきた選手は適応に時間が必要だ。

それが1試合で済むのか、1年になるか
数年になるかは定かでない。

③プレミア勢に対し戦略が不利

プレミアリーグが過去例を見ないレベルで競争力を高めているのは周知の事実だろう。

18-19シーズンは終わってみればCLとELの決勝をプレミア上位4チームで締め、CL王者がプレミア2位、EL王者が3位という驚異の戦績だった。

それでいて来シーズンの優勝オッズは昨季国内3冠のマンチェスターシティ(1.44倍)が1位である。どう考えても強すぎる。

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国内の技術レベルを高め、今になって超長距離ロングフィードを含むダイナミックなサッカーに焦点が当たっているなど、そういった流行全ての火付け役は、グアルディオラに集約される。

あの天才がイングランドサッカーに持ち込んだ戦術は、的確な位置どりと味方同士の正確な距離を保つことで初めて成立する。

その上でそれらの戦術の目的は「相手の中盤の背後にいかにして回るか」という1点のみに収斂されている。つまり前線からのブレスはかわして当たり前、その後の中盤からのプレスと、かわした前線からの後方からのプレスをどういなすかが争点になる。

もともと欧州トップクラスのフィジカルを持つ選手がダイナミックなサッカーを行なっていたリーグに、その混戦を利用しつつも時にかわしながら戦う手段が「輸入」された。

これによりプレミア勢は、技術とパワーの2通りで高次元の戦いをするようになる。

さらに、その最先端のサッカーを攻略するため、対抗馬であるリバプール監督のクロップは、前線はパスコースを切って、後方はボール奪取と高精度ロングフィードの一撃で沈めにいく守備的戦術を敷き、それを実戦で極限まで高めるなど純度のある対抗策を練る。

それらに追走するチェルシー、トッテナム、そしてアーセナルもいる。

無数の選択肢を持つ相手との研鑽が日々行われ、攻略に試行錯誤を重ねている強靭なリーグと化している。

そんな戦術最先端のリーグに属しているチームに対し、リーガは今転換点と言える。
組織の戦い方から個人の戦い方へシフトして天下を取った14-15年、MSNを形成していたメッシとスアレスは32歳、BBCに至ってはロナウド移籍、ベイルは去就不透明(2019/11/7: 結局残ったが、使われてない)である。

前線の攻撃の速さは国内で相当の強さを持つが、組織力を極限まで高めつつ、フィニッシュに個人のひらめきを混ぜてくるプレミア上位勢には太刀打ちできない。

戦術的な進歩が明らかに追いついておらず、今から追い越すにはあまりに差がある。

バルセロナはネイマール、レアルはアザールなど、誰がどう見ても強い選手を前線に投入することが策になっており、前時代的な戦略に依存していると言わざるを得ない。

個人に依存する戦略は寿命が短い。新たな戦略的な波が来なければ、ジダンだろうがバルベルデだろうが関係ない。何の戦略を敷いているのかさえわからない今の状況では、CLどころかELレベルでも確実に競り負ける。

アトレティコが相当な圧力で7点をぶち込んだ試合は、昨季2位と3位のチームの実力差がそのまま出ている。

さらにリーガ王者のバルセロナはEL王者チェルシーに質で負けた。国内競争力がレアルとバルセロナの質に伴い低下しているラ・リーガだが、何年もかけて積み上げた戦略の研鑽に、一朝一夕で勝てるとは思えない。


こうなると恐らくリーガ自体が競争力を持ち直すには、トップ層の実力が安定する必要がある。

場合によってはこれから長く低迷する可能性を
考えておいたほうがいい。


まとめ

リーガのトップレベルに属するチームが戦術的に転換点を迎えない限り、ラ・リーガは国内競争力を低下させていく。CLでの対抗馬を国外に見出したとき、本命はプレミア勢であるものの、最先端を走る2チームに引っ張られているプレミアリーグの現在地は、リーガのそれとは比べ物にならない。

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