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「マーケティング」という単語を四字熟語に変換してみた

「マーケティング」という単語ほど定義が人それぞれな概念も中々無い。

私も私なりの「マーケティング」という業種が担う役割に対する強いこだわりがあるのだが、それを齟齬なく伝えるために、最近漢字に変換できないかと、思いを巡らせてきた。

そしてたどり着いた四字熟語がある。
「売上製造」だ。そう、マーケティングとはメーカー(製造業者)である。何のメーカーかというと「売上」のメーカーである。だから「売上製造」という漢字が当てはまる。

なお、本編で執筆する内容は基本的には幅広い業界で適用可能と考えるが、前提として私自身がIT業界が専門のため、インターネット関連事業における考え方が主軸となっている点はご了承いただきたい。

マーケティングとは売上を生産する工場を建設することである

「売上を製造する」

こうしてみると、漢字は非常に有能だ。字面を見ただけで直接的で勝手に自分でハラオチしている。

そんな話はさておき、何故、売上製造なのか。

米国マーケティング協会では、マーケティングを次のように定義している。

Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large(マーケティングとは消費者や顧客、パートナー、そして社会全般にとって価値のある製品をつくり、広め、供給し、流通させる活動、及び一連の慣行とプロセスである).

つまりは、よく「売る(売れる・売れ続ける)ための仕組みづくり」とも言われるが、その通りである。

売るための仕組みを作って、売れ続けるようにする。要するに売上を生産するための工場を建設することこそ、マーケティング活動であり、マーケターとはその工場長なのだ。

では、この工場を構成する要素、すなわちマーケターが担う役割を洗い出していこう。

■開発ライン
まず売る対象の「製品」が無くては何も始まらない。いわゆるマーケティングミックスの4Pでいうところの「Product」に値するものだ。なお、流通にも関連する「Price」と「Place」に関しては、往々にして新規事業を立案する段階で並行して考える事象であり、特に組織や役割が分断されていることも稀有なため、基本的にはProductの中身の一つとして考える。

マーケターが担保すべき内容は、ここでいう「製品」が消費者や顧客、パートナー、そして社会全般にとって価値のあるものに向かっているかどうか、ということだ。

それをしっかり判断し検証できるプロダクトオーナー(プロデューサー)の存在及び彼or彼女が意思決定に必要な材料を提示することこそが、この工場のコア機能である。

そして製品の精度を更に高めるには、優秀なエンジニアやデザイナー、要件を指示するプランナー、全体管理するPM(プロジェクトマネージャー)などの機能を揃えなくてはいけない。最終的な品質保証を行うQA(クオリティアシュアランス)も必要だ。


■営業ライン
価値ある製品が存在しているという前提で、その価値を消費者・顧客に届け伝えていく必要がある。その機能の一つとして、第一にまず私は「営業」を挙げる。

マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。
マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである

これはP.F.ドラッカーの名言として有名なフレーズであり、実際にマーケティングと営業を別で考える人が大半なのも事実だ。しかし、マーケティングを「売れる仕組みづくり」として捉えるのであれば、顧客に価値を最も直接的に伝え、販売することのできる営業機能は、(少なくとも2019年現在においては)まだまだ必要不可欠であり、マーケティングを構成する上で欠かせない1ピースであると考える。

事実、営業の仕組みづくりこそ発展目覚ましい領域であり、従来のフィールドセールスからインサイドセールスへと組織設計の優先順位も変わりつつある。より効率的な売り方を考えるにあたって、マーケターとしては最適な営業ラインを開発する必要がある。

なお、営業はいわゆるtoC向けメディアのマーケティングには、あまり当てはまらないのでは、と思う人もいるかもしれない。

しかし、ビジネスモデルの1つに広告収入を検討しているのであれば広告営業は必要だし、仮にユーザーからの購入/課金のみを収入源としている場合でも、例えばよりサービスの売上を向上させるために他企業とのアライアンスが必要になるかもしれない。それらも、この営業ラインという概念に含むものとしている。

■宣伝ライン
価値を消費者・顧客に届け伝えていく、二つ目の手法として挙げられるのが「宣伝」だ。

その中でも、特に広告は多くのマーケターにとって一番馴染みがあり、かつ一番熟練されている領域でもあり、ここで語らずとも、世の中に腐るほどの本やWeb記事が溢れているだろう。

ただし消費者の価値観の多様化に伴い、接触するメディアも多様化し、また広告に対するリテラシーも高まってきている中、宣伝手法として広告単体では限界が生じている。

そこで数年前からオウンド(SNSやバーティカルメディア)の活用や、直近では広報が与えられる影響範囲と担う責務が日に日に大きくなっていく中、これらの特性を全て把握し、組み合わせる力のある宣伝部長が必要だし、マーケターとしては、その舵取り役でなくてはならない。

■顧客管理ライン
価値を消費者・顧客に届け伝えていく手法の最後として挙げるのが「顧客管理」だ。

いわゆるCRMだが、ここでいう顧客管理とは、その中でも「既存」の顧客を指している。売上を継続的に産み出していく為の仕組みとして欠かせない機能である。

製品の価値というものは、実際に利用してからこそ、より理解が深まるものだ。その価値が何のサポートも無く伝わるのが理想ではあるのだが、現実問題、多機能であればあるほど顧客はその価値を理解することなく離れていってしまうし、情緒的価値はより形成の難易度が高い。

そして既存顧客に十分な価値を伝えることができなければ、ライフタイムバリューは限定的なものになり、結果的に儲かるサイクルに突入できない。

ニコニコ動画の下降トレンドは寂しい限りではあるが、ニコニコ超会議は代表的な既存顧客向けの価値提供機能である。

また成長著しいSaaS市場では、カスタマーサクセスという職種が設けられているのは、皆さんご存じのはずだ。

従来の企業はまだまだ既存顧客専門のラインを設けられずにいる。せいぜいカスタマーサポートセンターが置かれているぐらいだろう。マーケターは、既存顧客の離脱が減少することによる、中長期的な売上インパクトを算出し、その必要性を啓蒙していくと同時に、中身の最適化戦略を企てる必要がある。

なお、営業と宣伝は「CAC(一顧客獲得あたりのコスト)」を最適化するという意味では統合して管理する必要がある。

また一番上を開発部長ではなく、プロダクトオーナーとおいたのは、単なる開発責任だけではなく、価値の創造者であり、まず営業・宣伝・顧客管理の3つのライン長に正しい製品価値を的確に伝えることのできる立場でなくてはならない。

ここの疎通がズレると、どうなるか。やはり売上は思い通りに製造されない。

■データ分析ライン
さて大方、機能が揃ったところで仕上げにかかる。これら全ての精度を向上させる仕組みが必要だ。それが「データ分析」である。

マーケターは売上の生産に関連するあらゆる仕組みを作っていく。当然、感覚だけで物事を語っていたら各ラインでエラーが起きまくる。

意思決定には論拠が一定割合必要であり、また工場の生産性を確認する上でもやはりデータは不可欠だ。

理想は、何かしらのチャネルで顧客が初めて製品に接してからの全てのデータが極力1つのIDで統合されたDMPを構築するところからだ。これには行動ログのデータもそうだし、各種フェーズごとのアンケートデータも加わると、なおよい。

それらを元に、各ラインごとに、どこに課題があるのか、どういう施策がヒットしたのか、もしくは一連のカスタマージャーニーの中で、どこで顧客の期待値は上がったのか、下がったのか、を分析していく。また、これらを分かりやすく可視化するダッシュボード機能も必要だ。

そういう意味では、2018年に元年として日本にも広まったCX(カスタマーエクスペリエンス)の概念も決して新しいものでもなく、分析者によって属人化されていた概念が体系化されてきたものとして私は捉えている。

■人事ライン
マーケターは人事をも掌握する必要があるのだろうか。私の答えはYESである。

結局、これらを動かすのは「人」なのだ。それぞれの製造ラインに、より高性能な機能を搭載することによって、製造のスピードも品質もより一層高まる。(その分、コストも上がるが。)

要するに人事は売上に寄与する。売上に寄与するものであれば、その仕組みづくりはマーケターの仕事だ。各ラインごとの適性を正確に把握し、今の体制が良好かどうか定期的にメンテナンスを行う必要がある。

そういった情報を人事部長と適宜すり合わせながら、採用もしくは配置転換について示唆できる力がマーケターにはなくてはならない。

図では、人事の中に「広報」の機能も入れているが、これは採用に特化した広報活動であり、メルカリのmercanなどが有名な事例だ。

転職市場も活発化している中、企業の名前だけで採用できる時代は終わった。優秀な人材を確保するためには、会社としての価値を労働者に伝えていく努力をすること、それ自体も、現代のマーケティング活動において決して無視してはいけない。

■財務
売上を製造するために必要な機能をこれまであげてきたが、当然それらには費用が必要だ。会社のお金を捻出してくるのは財務なわけだが、この費用を捻出するにあたって、期待される売上の説明責任はマーケターにある。

売上を作るのに、自らこの機能とこの機能が必要です、というぐらいだから、それ相応の効果はマーケターが自覚しているべきである。

もちろん全てを直接的に紐づける必要性は無い。人事や分析、宣伝の中でも広報などは売上に対する直接効果が見えづらい領域だ。これらは全体の売上がいくらかの割合で向上するというのを経験則的に理解してもらわないといけないだろう。

直接的に効果が見えなくとも、それらの間接機能が事業の成長にどれほどのインパクトで連鎖するかどうかは、マーケターであれば感覚値を持って然るべきである。

■社長
仕上げには社長だ。

全ての社員がパフォーマンスを最大限発揮するには、社長がきちんと企業理念を社内外で浸透させ、それが実態として機能している状態が不可欠である。

理念が無ければ、自分たちは何を成し遂げるために仕事をしているのか、さ迷ってしまうし、

仮に理念が制定されていても、それがただの飾り物と化して、浸透していないとやはり皆、違う方向を向いてしまう。

これには特に人事での生産効率が落ちる。採用のミスマッチにおける負債や、そもそも採用コストが高くなる。やはり売上を製造する上での大きな障壁となる。

マーケター自身がビジョナリーである必要性は全くない。
ただ、ビジョナリーな企業ほど成長しやすいというのは私の考えだ。その為には、社長にその役割を担ってもらうよう動かすのも、またマーケターの責務である。

細かいところを深掘りしていくと、まだまだキリがないのだが(例えば特許を取得して売上を守る、全体のパフォーマンスをあげるためにオフィス環境の整備、など)、これが私の描く売上製造工場の全体構成図だ。

こうした売上を産み出していくための仕組みを作ること。それが、マーケティングであり、その責務を背負うのがマーケターなのである。

他の皆さんが四字熟語に変換するとどうなるのだろう

さて、散々マーケティングとはこうだ!と、いう持論を繰り広げてきたわけだが、あくまで自分が他企業のマーケティングを支援している際や、実際にどこかのCMOを担うことを想定した時に、大事にしている思想に過ぎない。

この定義をフレーム化して世の中に広めたいわけでもないし、マーケティング・マーケターのありたき姿というのは、マーケターの数だけあっていいと思っている。

それこそマーケターとは十人十色だ。

皆さんにとってのマーケティング像というのは、なんだろう。四字熟語に変換するとしたら。

漢字を四つしか使えないので、そこにその人のマーケティングの本質が浮かび上がってきて、非常に興味深い回答がいくつも生まれることだろう。

そうしたマーケターの集合体が出来上がり、切磋琢磨な議論が活性化すればするほど、マーケティングテクノロジーもどんどん進化し拡がっていき、結果として日本のビジネスが今一度世界に羽ばたくような仕組みにも繋がっていくのではないだろうか。

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あとがき

ここまで読んでくださってありがとうございます。

以降は少しあとがき的な感じで、自分で自分の記事を振り返ってるだけなので特に価値はないです。これまでの内容だけで投げ銭的に帽子に小銭を入れてやってもいいよ!という方がいれば、ポチッといただけると大変ありがたく思います。

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