80年代マイ・ベスト・ディスク

TAKING HEADS「True Stories」(1986) 

 スリリングにリズムギターが絡み合う初期、世の中で一番ファンキーなサウンドだと思う中期も大好き、というかトーキングヘッズのアルバムは全部死ぬほど素晴らしいのだけれど、あえて一枚を選ぶとなると、この7th。バーンが監督した同名映画の副産物的として扱われがちなアルバムだが、曲のクオリティは一番高い。「ラブ・フォー・セール」のあまりにも強烈なギターリフで幕を開け、切なく美しい「シティ・オブ・ドリームス」で眠りにつく。テックス・メックスやカントリーまで飲み込んだアメリカ郊外住人のための音楽。かつてニューヨークでひりひり張り詰めたビートを叩き出していたバーンが、このアルバムでは笑顔を浮かべて、リラックスして歌っている。
 ちなみに映像作品もOKだとすれば、やっぱり「ストップ・メイキング・センス」。当時の僕は映画館で3回見て、1万円以上するビデオを購入してからは一日一回必ず見ることを自分に義務づけていた。ラストでいつも感動する。あんな病的な曲なのに観客がみんな笑顔で踊ってるんだよ!


XTC「Waxworks/Beeswax」(1982) 

 出会いは高校生の時、日参していた御茶ノ水の貸レコード屋ジャニスだった。82年までの全シングルを集めた「ワックスワークス」と、そのB面を集めた「ビーズ・ワックス」。個別にもリリースされているらしいが、僕が手にしたのは2枚組になっているものだった。とにかく一曲目の「サイエンス・フリクション」の暴走するポップセンスにやられた。ふざけたブレイクにやられた。その時期、ノイバウテンなどのインタストリアル系サウンドにハマっていたのだが、「もうこんな七面倒くさいもの聴いてられるか!」と言う気分になったのを覚えている。曲は年代順に並べられているため、パワーポップから濃厚なブリティッシュサウンドへと変わっていくバンドの進化に驚かされた。いや、最も驚かされたのは「ビーズワックス」だ。B面集のはずなのに、なんでこんなに名曲ぞろいなんだ! ほとんどの曲がボーナストラックとしてCD化されている今と違い、当時はなかなか聴く機会のないシングルのB面に、惜しげもなく名曲を投入するXTCに畏れすら感じた。


JAMES WHITE&THE BLACKS「Sax Maniac」(1982) 

 立花ハジメに影響されてアルトサックスを買った。参考にしようとサックスがカッコいいバンドを探していてジャニスで見つけたのがこれだった。ジャケットのデザインも、裏ジャケに載っているメンバー写真も、お水っぽい下品さに溢れていて気に入った。リーダーらしき男のリーゼントと履いている蛇皮の靴のなんと下品なことよ! 聴いてみるとジェームス・ブラウンを不良グループが演奏しているかのような暴力的なファンク。うわ、なんだこれは? と一発でハマった。特にシャウトというより怒鳴り散らしているだけのようなボーカルと、めちゃくちゃに吹いているとしか思えないサックスが最高だった。当時、ジェームス・ホワイトに関しての情報は少なく、彼が伝説的コンピレーション「ノー・ニューヨーク」に参加していたコントーションズのジェイムス・チャンスと同一人物だということを知ったのは、かなり経ってからだった。猛烈なスピードでドライブするコントーションズも死ぬほどカッコイイが、選ぶならば水っぽさがイカすこのアルバムだな。


THE JAZZ BUTCHER「A Scandal In Bohemia」(1984) 

  バウハウスのデビッド・Jが参加していることと「モノクロームセット好きにオススメ」のコメントを頼りに買った一枚。ネオアコとサイコビリーを横断するようなサウンド、全編に漂うとぼけたユーモアが見事に僕のツボ。かくして、この奇妙な名前の男は、僕のフェイバリット・アーチストとなった。「マインド・ライク・ア・プレイグループ」の童謡のような弾き語りに突然入る音痴のコーラスなんて、たまらない。そして何よりメロディの美しさ。ネオアコ最高の名曲と僕が信じて疑わない「ガールフレンド」を聴くたびに胸に溢れてくる甘酸っぱさといったら! 僕はどうしてもB級センスのものに惹かれてしまうのだけれど、ジャズ・ブッチャーには、B級だからこそ持ちうる美しさ、切なさを感じる。
 1988年にクリエイションに移籍しているが(アラン・マッギーは「オアシスでもうけた金で、俺はジャズ・ブッチャーのアルバムをリリースし続けるのさ」と言ったとか)、やはりそれ以前のグラスレコード時代がB級っぽくて、好きだ。


THE THREE O'CLOCK「Sixteen Tanbourines」 (1983)

 80年代中期にアメリカで起こったサイケデリック・リバイバルのムーブメント、ペイズリー・アンダーグランドの中核的存在だったスリー・オクロックのファーストアルバム。確か「ポッパーズMTV」で「ジェット・ファイター」のプロモーションビデオが流れたのがファーストコンタクトだった。その曲は子供番組の主題歌みたいだったし、ボーカルのマイケル・クレシオがあどけない美少年だったせいか、アイドルバンド風のクリップだったのだが、妙に気になってこのアルバムを聴いてみた。バーズ直系のけだるい爽やかさにあふれたギターサウンドと、ルックス同様に甘い少年声のボーカルが不思議なマッチングを見せていた。飛びぬけて個性的というわけでもなく、それほど好きだと意識していなかったのだけれど、気がつくとウォークマンでヘビーローテーション。その歌声とメロディがどっぷりと体に染みこんでいた。このアルバムを聴いていると、昼間っからワインを飲んで酔っ払ってるような明るく幸福な酩酊感に浸れる。個人的な春の定番の一枚。

※「BUZZ」(ロッキング・オン)2005年5月号の「80's SPECIAL! 麗しの80年代大図鑑」特集に書いた原稿。

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