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私の愛すべき、小さな世界。

拝啓、スモールワールズ様。

ラブレターなんて生まれて初めてなので、とても緊張してしまいます。できれば誰もいないところで、こっそりと読んで頂けたら幸いです。


本を読んでは浸っていたあの頃から十何年も経ち、
私はすっかり大人になってしまいました。


自分の世界を生き抜くことで、精いっぱいでした。再び本の世界に戻ってこれたのは、noteを始めてさまざまな文章に出会い、もっと書きたい、もっと読みたいと願ったから。


6つのストーリーを紡いだ短編集。

予想を越える展開が、
私の手をつかんでぐいぐい引っ張っていきます。

乾き切った土に水をやるように、
染み込んでいく言葉のひとつひとつ。

それぞれの世界で、
ごくありふれた日常で起こる出来事。
なのに、見事に惹きつけられて目が離せない。


言葉のかけらたちが余すことなく力を持って、
どれも欠かすことなく完成する世界。

そして、自由に生き生きと、繰り出される言葉たち。
まるで文字が群れをなして激流となり、私を絡めとって流れていくかのように、圧倒されました。

本って、こんなに惹きこまれるものだったでしょうか。




その中でも特に好きなのが、「花うた」です。


深雪の兄を殺して服役中の秋生と、彼と手紙のやり取りをする主人公、深雪

手紙のやり取りをするうちに、憎しみや怒りが同情に、そして愛へと変わっていきます。


どうして。

どうして家族を殺した人を、愛せるのでしょうか。



花うたの中で、犯人である秋生は、

小さなかけらが足りないだけで、ダメになるものなんてくだらない。」


と書きます。

それに対して深雪は、

でも、この世にあるものはみんなそうなんじゃないでしょうか。パズルの空白に、切り抜いた厚紙をはめ込んで色を塗ってもそれは「完成」じゃない。くだらないと切り捨てたら何も残らない。何もかも大事で、なくすと取り返しがつかないと思うと生きるのが恐ろしくなる

と返します。

この言葉に、あなたのいいたいことが詰まってるような気がします。


たった一つの小さなかけら。

たとえそれが欠けて別のものをはめても、決して同じものにならない。


なにもかもを大事にすると、たった一つをなくしただけで取り返しがつかなくなる。そう考えると、生きるのが怖くなります。

だけど、それを知ることが大事だと、あなたはいいます。


犯人である秋生は、深雪の兄をどうして肩をぶつかっただけで殺したのか、答を出すことができません。深雪の人生のピースをひとつ盗んで捨てた、と表現し、その理由がわからなくて葛藤しています。

深雪は、そんな秋生に少しずつ寄り添っていきます。お互いの足りないピースを埋め合うように。



眠ることをやめた夜。二人は鼻歌を歌って静寂を埋めます。1人は刑務所。もう1人は、ひとりぼっちのマンションの部屋で。ディズニーランドのパレードの歌、「バロック・ホーダウン」が夜に舞う。嘘のように音が空に弾んできらめき、そっと寄り添うように二人を包むのです。


失ったものは、決して元には戻らない。
しかし、ぽっかり空いたその場所には、何かをはめずにはいられません。


たとえ、ぴったりはまらないとしても、はめるものを探し続けることで、生きていくことができるでしょう。


二人で互いの欠けたピースを埋め合うことで、 
離れていても、心を、世界を共有できるのです。



たった一つ、欠けても崩れてしまう。
もろくて、小さくて、恐ろしい。

だけど光も幸福も、同じところにあります。
私たちはそんな世界で、どれだけ欠けても、生きていかなければなりません。


私事になりますが、

娘が起き上がれなくなったとき。
学校に行けなくなったあのとき。

私は、起き上がれない娘に起き上がるよう強要していました。

みんなと同じように、
当たり前に学校に行って欲しかった。
「普通」の人生を歩んでほしかった。
少しずつ崩れていくのが怖くて。
頑張れ、頑張れと。
でも、できなくて。

SOSさえ聞こえないほど、狂ったように常識にとらわれた。
ー娘さんは今までできていたんです、頑張らせてください、支えてください。
そんな言葉が、呪いのように私の手足に絡みついて離れません。本人も、私も、もう壊れかけていた。とっくに壊れていたかもしれない。起き上がることもできず、どんどん痩せていく娘を前にして、私の体は震えました。この世界でいったい何が正しいことなのか、と。 


そうして私は、彼女のピースを奪った。
笑顔を、奪った。
自由を、奪った。
居場所を、奪った。

普通ってなに?
常識から外れたら生きてだめなの?
考えは止まない。
答えはない。
罪は消えない。
悲しみも怒りも寂しさも、薄めることはできても、消え去ることはない。でもそれでいい。

同じようなピースで埋めても、まったく同じにはならないかもしれない。

それでも。
私は償い続けるだろう。

娘が、もういらないよ、もういいよ、という日まで、その頭上に傘を差し続けるんだ。



この小さな世界で起きる出来事たち。揺さぶられる感情。善悪。常識。不平等。曖昧さ。ここには闇もあれば、光もある。悲しみもあるけど、優しさもある。

私は私のスモールワールドで、一生生きていくしかない。
とてもとても、小さな世界。
そのひとつひとつを、丁寧に愛していこう。


私の小さな世界へ、愛をこめて。





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⬇️一穂ミチさんのnote

ここまで書いてふと調べたら、
なんと一穂ミチさんのnoteを見つけた。

しかも「スモールワールズ」収録の短編「愛を適量」のPVが見れる...!

父親役の光石研さんが小説から出てきたかのようなハマり役なので、本を読んだ方はぜひ見て欲しい。見てなくても、じんわりと広がるこの世界観が好きな人は楽しめると思う。


⬇️収録短編「魔王の帰還」コミカライズ

さらに同じく収録されている短編「魔王の帰還」がコミカライズされてた...!

小説とは違って、ちょっとコミカルな感じが青春ものみたいで楽しく読めます。第1話だけ無料。



⬇️みこちゃんの読書感想文企画へ参加しました。



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