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【シリーズ摂食障害Ⅲ・#7】 摂食障害当事者が「求職」で困ること

【シリーズ摂食障害Ⅲ・#7】 摂食障害当事者が「求職」で困ること
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の症状が、当事者の社会生活、とりわけ就労に与える影響について連載しています。記事のベースとしているのは、日本摂食障害協会による「摂食障害患者の就労実態調査と社会復帰支援」報告書(以下、報告書)です。今回は、当事者が求職する際に困ることについてまとめます。

3.当事者は求職でどんなことに困るのか


 報告書によると、「摂食障害のために仕事探しに困難があったか」との問いに、58.7%の人が「困難があった」と回答しています。

 困りごとの内容では、「どんな仕事が向いているかわからない」とした人が過半数、「長所についてアピールするのが苦手」「履歴書の書き方に迷う(闘病期間など)」「条件について話し合う際、病状や通院について話すか迷った」とした人が4割以上、「体型から摂食障害ではと言われるのではないかと緊張した」が3割弱だったのに対し、「面接で闘病期間について聞かれ説明できなかった」「仕事探しについて家族の理解を得られなかった」とした人は、いずれも数%に留まっています。

4.「どんな仕事が向いているかわからない」


 自分の職業上の関心や適性が分からない、ということについて、報告書では、若年発症・闘病による経験不足による影響を示唆しています。その上で、治療者の関わり方(体重の回復だけでなく、社会参加の困難にも焦点を当て津)や、摂食障害特有の心理(対人不安など)や当事者の相談の仕方(いろんな人の意見を聞いてみる)などにも触れられています。

 若年発症や闘病による社会的経験不足は、思春期・青年期に好発する慢性精神疾患(統合失調症など)では、しばしば指摘されます。また、摂食障害に特徴的な「内的知覚の障害」(就労などの社会的な判断をするための内的情報にアクセスしにくい)や「症状中心性」(あらゆることが体重・体形と関連づけられ、現実検討が妨げられる)、「自己評価の低さ・対人不安」なども、職業選択を難しくすると考えられます。もちろん、低体重や排出行為などによる体力低下も、職業選択の困難に深刻に影響するでしょう。

 私の経験の範囲では、摂食障害当事者の方は、「動物」「食物・栄養」「対人援助」などの偏った職業選択をしがちであるように思われます。そこには、「人が信じられない分、犬や猫に癒されていた」から、「人一倍食事にはこだわってきた(ゆえに知識がある)」から、といった動機が潜んでいるようです。そのこと自体は尊いと思うのですが、狭い経験の範囲で職業選択をせざるを得ない、摂食障がい当事者の“困難”をも感じます。

5.「どう伝えたらいいのかわからない」


 これはコミュニケーション技術の問題(履歴書を書いたり採用面接を受けたりした経験が乏しく適切な方法を知らない、経歴の空白期間をどう説明するかアイデアがない、など)と、心理的問題(自信がなく不安であるなど)と、両者が関係すると思われます。確かに、非当事者では、新卒社会人への学校でのキャリアガイダンスなどで求職のスキルやマナーを学びますが、当事者にはそのような機会が乏しい、という事情もあるでしょう。報告書でも、医療関係者に望まれる支援として、適性の把握など職業選択への援助や、履歴書の書き方・面接の受け方の練習などがあげられています。

文献
日本摂食障害協会 「摂食障害患者の就労実態調査と社会復帰支援」報告書

(おわり)

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