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【シリーズ摂食障害Ⅲ・#5】 摂食障害と職業性ストレス

【シリーズ摂食障害Ⅲ・#5】 摂食障害と職業性ストレス
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の症状が、当事者の社会生活に与える影響について連載しています。前回から、「摂食障害と就労」というテーマについて論じていますが、今回は、摂食障害と職業性ストレスとの関連について触れます。

1.就労している摂食障害当事者と一般労働者の、職業性ストレスの相違


 前回の記事で紹介した論文(※1)では、就労している摂食障害当事者と一般労働者の、職業性ストレスの相違についても触れています。

 大阪市立大学医学部精神神経科の摂食障害専門外来を受診した、就労中の当事者と、一般の労働者の、一定の条件を満たす女性(患者群26名、一般労働者群44名)とで、職業性ストレスや抑うつ気分などを比較しました。その結果、患者群では一般労働者群と比較し、「物理的環境は良好」だが「身体負荷は高く」「仕事のコントロールは低く」「上司や同僚による社会的支援は少ないと感じ」「抑うつ気分は強い」という結果になりました。

 ちなみに、同大学の研究チームは別の研究(※2)で、患者群69名を就労前発症群46名と就労後発症群23名とに分け、対照群178名(各群とも35歳未満の女性)との間で、職業性ストレスの状況を比較しました。その結果、就労前発症群では対照群と比較して、「認知的要求が低く」「技能の活用度が低く」「仕事への満足度が低い」傾向が見られました。就労後発症群と対照群との比較では、「人々への責任が低く」「仕事のコントロールは高い」傾向がみられました。就労前発症群・就労後発症群ともに、対照群と比較して「自尊心は低く」「社会的支援は少ない」傾向がみられました。

2.これらの研究から考察できること


 記事で引用した2論文の研究は、限られたサンプル(関西の大学病院を受診した患者だけを対象とし、被験者数も少ない)における限定的な考察しかできないことを最初に申し上げる必要はありますが、働く摂食障害当事者は、職業性ストレスの受け方において、一般労働者とは異なる傾向をもつ可能性が示唆されます。

 患者群の「自尊心の低さ」や「社会的支援の少なさ」からは、職業場面での他者からのフィードバックを肯定的に受け取れず、その結果、周囲からの支援を得られたと感じにくく、職場で孤立しやすいこと、過剰適応から仕事を抱え込みオーバーワークとなること、などの可能性が考えられます。

 職場が摂食障害を理解し適切な配慮を行うこと、医療側は患者の身体状況だけでなく就労状況にも注目し、適切な診療を行うことが大切でしょう。一方で、病状への配慮としての勤務時間短縮や休職が、生活リズムを崩し症状(過食嘔吐など)を悪化させ、さらに自尊心を下げてしまう場合も考えられるので、とりわけ慎重な対応を求められることが示唆されます(同様の考察が論文でもされています)。

【文献】
※1 井上幸紀、岩崎進一、山内常生ほか 2010 摂食障害と就労 精神神経学雑誌112(8) pp.758-763.
※2 山内常生、井上幸紀 2012 働く女性の摂食障害 医学のあゆみ241(9) pp.91-96.

(つづく)

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