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長期間就労する精神障がい者の加齢変化について、追記

長期間就労する精神障がい者の加齢変化について、追記
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 先日、精神障がい当事者の雇用について、連携して支援にあたる各立場から概要を解説する、障害者雇用に馴染みの薄い企業の方や、医療従事者に向けたシンポジウムに登壇・発言しました。そこで話題になった、働く精神障がい当事者の加齢変化と対応について、記事にしました。今回はその追記です。


 いま、日本は高齢化率29%超えの「“異次元の”高齢社会」です。因みに「高齢化率」にカウントされる、操作的に定義された“高齢者”とは、65歳以上の男女です。ちなみに、高齢化率の高まりによって、「高齢社会」の呼び名は変わります。

・高齢化率7%以上:高齢化社会
・高齢化率14%以上:高齢社会
・高齢化率21%以上:超高齢社会
・高齢化率28%以上:まだ名付けられていないので、便宜的に“異次元の”高齢社会
※“異次元の”としたのは、何か施策をぶち上げる時に“異次元の”を連発する現政権への、若干の皮肉を込めています。

 高齢化の急伸が、日本の社会の活気を削ぐのではないかと危惧されていますが、私自身はそのようには考えていません。日本の高齢化は、ひとえに寿命の延伸によっているのですが、単に“命を永らえる”だけでなく、健康で暮らせる期間(公衆衛生の言葉でいうDALYs、俗語で「健康寿命」)も延びています。同じ65歳でも、50年前の高齢者と比較し、今日の高齢者は健康で体力も保たれています(歩行能力向上などのデータから)。健康で元気な高齢者は、若い世代と共に、社会で一定の役割を担うことができるはずです。

***

 働く精神障がい当事者の、加齢に伴う変化や機能低下にどう対処するか。この問題を考えるには、高齢者の健康寿命の延伸に関与する要因を理解することが、助けになるでしょう。その要因は、科学的に充分に理解されているとは言い難く、怪しげな通説を含めて、数多の説が流布しています。その中で最近、「教育」の果たす役割が強調されています。何かを学ぶこと自体が認知機能を補助し、学んだ内容が間接的に心身の健康の維持向上に寄与する(健康づくりのリテラシーが高まる)、と考えるのですね。

 認知症発症の主要因として、異常たんぱく質の脳内蓄積の悪影響(アルツハイマー病なら、アミロイドβの異常蓄積)が想定されていますが、異常たんぱく質の蓄積量と、認知症発症率や重症化率とは、必ずしも比例しないのだそうです。異常たんぱく質蓄積から認知機能低下を保護する“認知力の予備”があることが想定され、その認知予備力の形成に「教育」が関与する、と考えるのです。一説には、認知症発症の全リスクに占める、教育(の不足)の割合は、7%にものぼると試算されています(引用文献参照)。

 ひるがえって、働く精神障がい当事者の加齢変化・機能低下も、教育の充実で改善できるかもしれません。生活習慣病予防に必要な正しい知識を身につけ実践する、介護について情報を得てサポートを得る。それを当事者自身が実践することが難しければ、正しい知識を持った支援者が、適切にアドバイスしケアする。この地道な取り組みが、いずれじわじわと効いてくるように思えてなりません。精神障がい当事者が、職場で、社会で、長く活躍し続けられることを願っています。それが、”異次元の”高齢社会・日本のニーズにかなってもいるのです。

引用文献
The Lancet Commissions  2020  Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet 396. pp.413-446.

(おわり)

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