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”綺麗”と”綺麗ごと”のあいだをつなぐ~「町田くんの世界」

「綺麗」は濁りや穢れのないさま、
「綺麗ごと」は見せかけだけの体裁で実質が伴わないさま。

 年を重ねるにつれ、綺麗なものも「綺麗ごと」に見えてくる。
 特に選挙期間中である今は、実現が不可能そうな理想論を聞いては「そんなこと言っても現実はねえ」とツッコむ自分もいる。

 かといって、理想を否定してばかりいても、何も良くなってはいかない。

 「町田くんの世界」は、ちょっと斜に構えた子どもたちや、汚さに慣れてしまった大人たちが、町田くんという無心な男の子と出会うことにより少しずつ変わっていく物語だ。


 町田くんは、頭も悪いし運動もできないけれど、みんなに「キリスト」と言われるほどのお人よし。バッカじゃないのと言われつつも、町田くんはピュアなまま。
 そんな彼に親切にされた人は、少しずつ変わっていく。

 君は大事な人だよ
 君が好きだよ

 町田くんは "みんなに" そう言う。心から言う。
 でも、「みんなに好きだということは、優しいようでいて残酷だ」。

 町田くんが“みんな”を見なくなったときに、物語は大きく動き出す。

 町田くんによって周りが変わり、また、周りが町田くんを動かしていく。

 この映画は、誰かがやけになって事件を起こしたり、かといっていきなり世界が平和になったりしない。そこがいい。

 あくまでも日常という世界で、町田くんの世界で、ひとつの光が人々を照らし、影響し合って変わっていく。

 綺麗なことを愛する人も、綺麗ごとがあって仕方がないという人も、どちらも受け入れる優しさをもっている。

 優しくありながらも、「私は私でがんばろっかな」と軽やかに思わせる強さを持つ、不思議なファンタジーだ。

 心がダークサイドに落ちそうになった時にもう一度観たい…。笑

<Spark Joy!>

★主演の二人(細田佳央太、関水 渚)が「新人ー!?」と驚くほどすごく良い。鮮烈な魅力に溢れていて、この映画はこのキャストだから成り立ったんだなと感じられる。脇役もみんな良し。
 特に、前田敦子の演技とキャラが好み。「マジか」とか言ってぶっきらぼうでありながら、めっちゃあたたかい。こんな友だち欲しい。

★リアルとファンタジーの融合が絶妙。ファンタジーが嘘くさくならず、大げさすぎず、表現としてしっくり馴染んでいた。

★世の中からゴシップ記事がなくならない理由に同意。このあたりは劇場で。

★編集も非の打ち所がないほど好き…と思ったら、観たかったけど未見の映画「夜空はいつでも最高密度の青色だ」も石井監督が撮っていた。やはり観よう。

★主題歌、平井堅だったと最初気づかなかった。マッチしてます。

<Please!>

★「こうだったらもっといいのに」という箇所が思いつかない。全体的にすごく良かった。

<町田くんの世界>

公式サイト

監督 石井裕也
脚本 片岡 翔 石井裕也
音楽 河野丈洋
原作 安藤ゆき
キャスト 細田佳央太 関水 渚 岩田剛典 高畑充希 前田敦子 太賀

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