林檎帽子と1

『ファンタジー創作談義』補遺。

7月20日、つくばで開催されたSF大会「なつこん」で、ひかわ玲子先生の「ファンタジー茶話」のお手伝いをさせて頂きました。今回の内容は「ファンタジー創作談義」です。私にとっては人様の前で話すなど初めてで、どうなることかと思いましたがお陰様で盛況でした。足をお運び下さった皆様に感謝いたします。

テーマとキャラクターについてデビュー作「裏庭で影がまどろむ昼下がり」を例にあげてお答えしたのですが、この件については何年か前にブログに書いたものが詳しいので、創作談義の補遺としてここに転載しておきます。


google+ブログからの引用_____________________


 私は「小説の神さまが降りてくる」タイプの物書きではない。デビュー前の数年、ほとんど「小説」の体を為したものは書けなかった。書けてもプロットの必要ないショートショート程度の長さのもの。それ以上の長さにするにはどうしたら良いのか解らない。白い原稿用紙、一行も書かれていないワープロ画面を前に途方に暮れるばかり。月日が経ち、私は自分が「小説を書けない人」ではないかと思い始めていた。けれどやはり自分のアイディアを小説の形にしたかった。アイディアだけはたくさんあったからだ。

 幾ら待っても小説の神さまが来ないのなら、自分から探しに行こうと思った。

 何をしたかというと、積み木を積むようにひとつずつ小説の要素を積み重ねてプロットを作ってみることにしたのだ。

 まずテーマ。それからそのテーマに向いたキャラクター。必要とされる舞台。小道具。テーマは全体として提示すべきことであるが、章ごとにその章で提示すべきことを決めて行く。そしてどういう終わりにしたいか決める。用意した要素を積み重ねながらそのラストに向かう道筋を探した。演繹と帰納をいっぺんにやるような感じである。そうすると全体の長さに対してストーリーを割り振ることが出来るようになった。

 中長編のプロットを建てられるようになったのである。

 実質的なデビュー作となった「裏庭で影がまどろむ昼下がり」はこの手法を始めた頃に書いたもの。最初に決めたテーマは「どんな人間にも愛される価値がある」だった。

 このテーマに必要なキャラクターとしてテル・ラナクルズが設定された。犯罪王になることを夢見てボスのコカインをくすねる性悪なガキである。この悪ガキを100%愛してくれるのはいったい何者か? という自問への答えが、ブロラハンのハーパーだった。人間なら誰でも無条件に愛さずにいられない寂しいモンスターである。この二人を設定したとき、物語はもう出来たも同然だった。私はそれを「キャラクターが内包する物語」と呼んでいる。テーマに適したキャラクターを設定することによって、ほんの少し小説の神は私に微笑んでくれたのだ。

 プロで仕事するようになって十年が過ぎ、今では必ずしもこの手法でプロットを作っている訳ではないが、迷った時には初心に立ち返るようにしている。小説の神さまはなかなか微笑んではくれないものなのである。

_____________________________ココマデ


創作談義の場でお話ししたように、私の出身であるウィングス小説大賞には応募用紙に「テーマ」を書く欄があります。その欄に何を書くか悩まれる方もおられるようです。あまり難しく考えず、その作品の芯になるものをテーマに据えればよいと思います。ファンタジーの場合、世界設定やモチーフが先に立ってしまいがちですが、テーマはもっとシンプルなものです。ファンタジーに限らず、どんな種類の創作物にも共通して当てはめられるものがテーマなのです。テーマとは普遍的なものです。なぜなら読者は人間だからです。人間にとって普遍的なものでなければテーマである意味が消えてしまうのです。例えば「ドラゴンにとっての常識」をテーマにしたとしたら、「すごい」とは言われるかもしれませんが読者の共感は得られないでしょう。そういった物はテーマとしてではなく、モチーフの部分で使った方がより効果的です。

ノウハウ的な意味ではテーマを意識することにより登場人物の行動にブレがなくなりなり、書くときに迷いが少なくて済むのです。テーマは難しくはありません。シンプルな、この作品で読み手に伝えたいことをテーマに決めればよいのです。