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抄~小説「薄氷の春」より

(これまでのあらすじ)
夫、娘、母親、それぞれとの関係性、あらゆる場面で閉塞感や絶望感を感じながら日々生活している主人公、本荘寛子(49)。
仕事を通じて出会った時田聡(37)に急速に惹かれてゆく。
お互いに既婚者であることや年齢差、仕事上の立場などから、現実には二人の間に何の進展もないが、その一方、夢の中では結ばれて愛を伝え合っている二人。
全て自分の妄想なのでは、と悩む寛子は占いにハマってゆくが..。
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妄想と呼ぶにはあまりにリアルな、彼のペニスが入ってくる瞬間の、膣の内側の感覚とか、愛してると伝え合うお互いの息づかいとか。
泣きながら、激しく愛し合った時には、私の肌からは嗅いだことのない匂いがした。
彼の体臭と混じり合った時の、私の肌の匂いかと感じた。


私は占いにはまった。
これが50女のイタすぎる妄想ではない、という確証がただ欲しかった。


鑑定師K先生
「お相手も、この出会いを大切なものと思っておられます。結ばれたいがために現状を動かしたい。でも人の目もありますし、現状は難しく、タイミングを図っているような状態です」

―夢で抱いてくれるのは、私の妄想ではない、ということでいいでしょうか?

「はい。お相手が想っているからこその夢、と解釈していただいていいと思います」


鑑定師Y先生
「え?ホントに恋愛関係ないの?」
が彼をみた先生の第一声だった。
―うん、何となくお互いの気持ちは分かるけど何にもしてない。
「いや、これは恋愛関係なるでしょう」
彼の何が見えたのかは私には分からない。

その後先生は、二人がいかに良い相性かを告げる。これは惹かれ合って当然だと、言葉もいらない、理屈ではない関係だと。

―でも、彼の家庭は壊したくないし。
そう私が言うと、でもね、と先生は声のトーンを変える。
「寛子さん、これまで妻として、母として頑張ってきたんでしょう?もう自分を解放してあげてもいいんじゃない?」

先生に私の何が見えているのかはやっぱり分からない。
でも私の目には涙が滲む。
包み込むようなあったかい声。

「こんなふうに言うと不倫を推奨するみたいであれだけど、しょうがないよ、これは。二人は出会っちゃったんだもん。出会っちゃったの、二人は」

お導き、であったとしても、出会ってしまった二人、であったとしても、それでもお互いに家族はいた。
家族からしたら、というか家族との出会いもまた、一面ではお導きであったに違いないと思っていた。

だから私は実際に彼とどうこうするつもりはなかった。

ただ夢で会えれば十分とも思えていた。

それが私の妄想でさえなければ。

―先生。
「はい?」
―ぶっちゃけ、彼は私を抱きたいと思ってくれていますか?

一回りも年上の女を。

「思ってますよぉ、だって好きなんだもん」

私はふーっと息をつく。
体の力が抜けたような。

―それだけで十分です。
その時の本心だった。
             





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