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【研究紹介】目の前にない「笑顔」がもたらす効果

こんにちは!
今回のNoteでは、私が約1年間取り組んだ、修論研究について紹介します。
100名以上の方に研究に協力してもらったこともあり、論文よりもカジュアルな形で研究内容をシェアできればと思って、筆を取りました。

「どんな研究なのか」
「どうやってやるのか」
「どう生かされるのか」

の3章立てで、書いていきます。長いので、「どんな研究なのか」(つまり概要)の部分を読んでいただければ、正直十分かとおもいます。笑

どんな研究なのか

「非対面の相手の感情状態を視覚的に知覚することによる感情的反応に関する研究」というのが論文タイトルなのですが、
「目の前にいない人がうれしい気持ち・悲しい気持ちであること(だけ)が表示されているのを見たとき、自分もうれしくなったり悲しくなったりするのだろうか?」ということを研究していました。

目の前にいる人が笑顔であるとき、自分も笑顔になってしまうこと。悲しそうであるとき、悲しくなってしまうこと。
これは今までの研究でわかっています。相手の表情を、無意識にまねてしまって、後から相手とおんなじ感情が出てくるのだそう。
また、目の前にいない人とメールなどテキストを用いてやり取りする場合であっても、相手のテキストの雰囲気をまねてしまって、相手の感情に近づく、と言われています。

さらに、「今日〇〇があってね…!」と電話やメッセージを通じて相手のうれしい気持ちをうかがう場合も、自分までうれしくなってしまうことが知られています。相手の状況を理解し、気持ちを想像することによっても、自分の感情が相手に近づくようです。

ここで、「相手がうれしいらしい、悲しいらしいということだけを知った場合でも、相手の気持ちに近づいてしまうのでは?」というのが私がもった疑問です。
さらに「表情や言葉に限らず、絵文字のようなアイコンだったり花や涙のようなシンボルだったり、さまざまな表現が受け取った人の感情に影響できるのでは?」と考えました。

そこで、目の前にいない相手のうれしい・悲しいが視覚的に表示されているのを見たときに、自分自身にどのような感情的な反応が起こるのかを調べることにしました。

「私の感情状態を表している画像」を毎朝友だちにLINEで送り、友だちには自分自身の感情状態について答えてもらう、といった実験を行って、データを分析しました。

その結果、
**目の前にいない相手の感情状態(だけ)が表示されているのを見る場合にも、自身の感情状態が相手に近づく**
ことが言えたのです!
つまり、「理由はわからないけれど、〇〇さんは今日ハッピーらしい」と知るだけで、自分もちょっとだけハッピーになれるということ。
さらに、
**顔写真や絵文字のような、「表情」のある表現を利用して相手の感情状態を表示した場合の方が、そのような感情的な反応が大きいこと**
**相手との関係性が深いほど、そのような感情的な反応が大きいこと**

もわかりました。

どうやってやるのか

「どのへんが理系の研究なの!?」といった質問をよく投げかけられるので、具体的な研究方法についても少し触れたいと思います。

たくさん論文を読んで、研究の焦点(これは今まで世界中の誰もやっていないことでないといけません!)が定まったのち、まず仮説を立てました
例えば「目の前にいない相手のポジティブな感情が表示されているとき、それを見た人の感情もポジティブになる」みたいなものが仮説にあたります。
そして立てた仮説たちを検証するために、「実験」を計画・実施するのです。

私たちの行う実験は、「心理学実験」と呼ばれます。
薬品や微生物を用いるかわりに、友だちなどに「被験者」として参加してもらいます
今回実施した実験は2種類です。

1つ目は、先ほど述べたように、私(や他の共同実験者)の感情状態を表す画像を、毎朝LINEで54名の被験者のみなさんに送信するというもの。被験者のみなさんには、それを見ながら自分の感情(活気のある、陽気な、恐ろしい、など)を4段階で評価してもらいました。これを61日間続けました。
また、事前に私(や他の共同実験者)との関係性についての質問に回答してもらい、「親しさのスコア」を出しておきました。

2つ目の実験は、学校の実験室で行い、2人組の友達同士で参加してもらいました。
2人の被験者の方々には、互いの顔が見えない状況で、それぞれヘッドホンを着用して動画を見てもらいました。相手が何を見ているかはわかりませんが、相手が動画を見て「どのような感情状態になっているか」ということだけ、表示をしました。そして動画を見る前と後での、自分自身の感情状態を評価してもらい、その変化を見ました。
これを、総勢54名の方に協力してもらい、27回繰り返しました。


ポジティブ」「ニュートラル」「ネガティブ」という3種類の感情状態
顔写真」「絵文字」「シンボル」「言葉」という4種類の表現方法

これらのちがいによって、測定された被験者の感情状態が異なるかどうかを調べる、というのが次の分析のステップです。
ポジティブ感情15.5・ネガティブ感情12.0のように、数値として得られた感情状態のデータを、統計ソフトを用いて解析しました。

すると「ネガティブ」な感情を見た場合に比べて、「ポジティブ」な感情を見た場合の方が被験者の「ポジティブ感情スコア」が高くなること、などが見えてきました。
また1つ目の実験において、「顔写真」や「絵文字」によってポジティブな感情が表現される場合の方が、被験者がポジティブになる程度が大きいということがわかりました。
さらに、相手との「親しさのスコア」が高い(=相手と親しい)ほど、相手のポジティブな感情を見て被験者がポジティブになる程度が大きいということも言えました。

以上が主な研究の流れです。
扱う対象は「人の感情」というどちらかというと曖昧なものだけれど、自ら仮説を立て、実験を計画し、数値的なデータを取って分析・仮説検証をする。このステップが「理系らしさ」ではないかと思います。

どう生かされるのか

この章では、この研究にどんな意味があって、どのように社会に生かされうるか、ということについて少しだけ語ります。

目の前にいない人の感情、に興味をもったきっかけは、修士1年の時の留学でした。
家族や友だちと初めて離れて暮らし、大事な人たちの笑顔が自分にとってどんな力をもっていたかを知りました。みんなが今どのような気持ちなのか、それを知るためには、わざわざLINEを送るか、SNSの投稿を待つかしかできることはなく、孤独を感じました。

今回の研究の結果は、「目の前の友だちが何だか幸せそうにしているから、私までちょっとうれしくなってしまう」といったことが、物理的に離れた相手との間でも経験される、ということを示唆しています。
目の前にいない人の感情と同期し、その人が笑顔であるかどうかが「伺える」ようなシステムが作られればいいなと思っています。
離れて暮らす恋人がポジティブな感情である日には、朝起きると、自分の枕元に花が咲いている。そんな体験があったとしたら、素敵ではないでしょうか。

また、表情だけでなく絵文字やシンボルなど、さまざまな感情表現のもたらす効果に着目した、という点で、今回の研究には新しさがあります。
例えば、光の色や明るさ、また香りや手触りなどによっても、他の人の感情が伝達され、自身がそれに対して感情的に反応してしまうような世の中が、私の頭の中にイメージされています。

テクノロジーの発達によって、人の感情までもがデータとして取られることが可能になってきていることへ、不安や嫌悪を抱いている人も少なくないと考えます。
けれど、上手く正しくテクノロジーを利用すれば、より感情豊かな社会を作ることができると信じています。(と、現指導教員に3年間お世話になり、考えるようになりました。)
人と人との感情が触れ合うようなインタラクションを実現していきたいと思っています。

最後に

研究に協力してくださった108名の被験者の方々、
先生や研究室のみなさん、
この長文に少しでも目を通してくださったあなたに、感謝いたします。
ありがとうございました!

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