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デンマークでのデザイン授業レポ#3:インサイトを得るために用いる3つのスタンス

昨年デンマーク工科大学に留学していたときに学んだことをまとめています。

第3回めは、質的調査におけるマインドセットについてです。

デザインプロセスにおいて重要な、観察やインタビュー等の質的調査(リサーチ)。良いインサイトを得るために、ユーザーに憑依しろという話はよく聞いていましたが、新たなコツを学びました。

それは、質的調査によって得られた事実に対して、3つのスタンスで向き合うということです。(参考: Qualitative Inquiry in Everyday Life: Working with Everyday Life Materials

Obvious - Obvious:明らかな事柄の解像度を上げ、さらに明らかな事柄を発見しようというスタンス。ある事実が、どんな要素から構成されているかを考える。

Hidden - Obvious:隠れた事柄を明らかにしようとするスタンス。ある事実を見て、その背景やメカニズムを解き明かそうとする。

Obvious - Dubious:明らかに思える事柄を疑ってみようとするスタンス。事実に対して、当たり前と思ってしまっている事柄を見つけ、逆の発想にチャレンジする。


授業では、質的調査の練習として、IKEAで人々がショッピングカートを使っている様子を観察するというフィールドワークを行いました。

そこで得られた一つの事実について、それぞれのスタンスを用いて改めて考察してみました。

事実:駐車場に持ち出されたショッピングカートがひとりでに動いてしまっている。車に荷物を積んでいた人が、慌てて駆け寄り、引き戻している。

これに対し、「Obvious - Obvious」のスタンスをとると、例えば
・駐車場の地面は平らではない
・カートが風に煽られている
・人は荷物を車に詰めこむことに必死である
というようなさらなる事実が見つかります。すると、客にとっては、カートを手に取ってから、欲しいものを入れ、会計をし、自分の車に詰めこむまでがカートを用いる体験であるということがわかります

Hidden - Obvious」のスタンスをとって、カートが転がってしまうという事実を見つめると、
・IKEAのカートは、店の外で使うことを想定されていない
ということが考察されます。それから派生して、雨が降ったときに、カート上のものが濡れてしまう等といった今見えていない事柄が想像されます

Obvious - Dubious」のスタンスで、「転がっているカートを引き戻す」という当たり前に見える行為を疑ってみると、
・カートを止めようとするのは、まわりに車があるからである
という事柄が見え、車とカートがぶつからないような、あるいは車とカートがぶつかっても問題が起きないような設計というものが求められるという発見が得られます

具体例のように、3つのスタンスを意識することで、ユーザーまわりの事柄だけでなく、ものともの、ものと状況についてのインサイトも得ることができます。とてもSocio-technical的な課題発見につながりそうです。(Socio-technicalとはなにか、についてはこちら
とことんユーザー目線を追求することは大事なのでしょうが、ときに一歩離れて、得られている事実に対してさまざまな角度から見つめることもしていきたいと思います。

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