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UXデザイナーが「建築」の本を読む

一冊のすてきな本に出会いました。
堀部安嗣さんの「建築を気持ちで考える」。
堀部さん自身が影響を受けた建築物に関する解説・考察や、堀部さん自身の建築哲学について述べられた本です。
ふだんUXデザイナーとして働く私ですが、「デザイン」について改めて考えさせられました。

紹介されていたさまざまな建築事例のうち、とくに気に入ったものが二つありました。

一つ目は、スウェーデン・ストックホルムにある「森の墓地」です。

「森の墓地(スコーグスシュルコゴーデン)」はアスプルンドという若手建築家によって1915年に設計された墓地で、現在世界遺産にも登録されています。私自身も一度訪れたことがあるのですが、死が怖いという感情が薄れてしまうような、あたたかさのある場所でした。

雄大な自然が為せる技、と思っていましたが、堀部さんによると、「死に向き合う人々」のことを徹底的に考えたデザインによるものだそう。

例えば、

・建物の天井や椅子などは、極力エッジが排除されており、ゆるやかな曲線からなっている
・待合室には大きな開口部があり、人々の目が自ずと中庭に向くようにさせている
・幾何学的なモダニズム様式、北欧らしいシンプルさを取り入れつつも、柱などに一部装飾を取り入れている

などの工夫があるそう。中でも一番感動したのが、折れ曲がったベンチのデザイン。

座った人たちが自然と向き合い、思いを共有できるように、このような形になっているそうです。


二つ目は、フィンランドにある「パイミオのサナトリウム(療養所)」。巨匠と呼ばれるアアルトによる設計です。

こちらも、病気の人々に寄り添う、優しいデザインが特徴だそう。

・天井は明るいアップルグリーンの色をしている
・天井と壁の堺は、角張っておらず、優しい丸みを帯びている
・手すりはグレーに塗って、手垢が目立たないようにしている

患者さんの気持ちを少しでも明るくしたい、というアアルトの気持ちが感じられる工夫です。


どちらの事例も、人々の「気持ち」が考え抜かれている点、デザインのちからで、人々の行動を作ったり、人々の感情を変化させたりしている点がすてきだなと感じました。


さらに、堀部さんの建築哲学が語られる後半で、はっとさせられた箇所がこちら。

365日、元気なときもあるし病めるときもある。希望に満ちあふれて前向きなときもあれば、失意のなかにいるときもあるでしょう。住宅はそのような住まい手のさまざまな心身の状況を受け入れなければなりません。

この一節を読んで、有名デザイン本「悲劇的なデザイン」で紹介されていた事例を思い出しました。
「◯年前の投稿です!」といってFacebookが勝手に、亡くなった人の画像をタイムラインに流してくる、という話。Facebookのような日常的に使われるサービスには、さまざまなユーザーの状況や感情状態が存在するのです。
UXデザイナーとして、一つの行動・心理シナリオを想定して体験設計をしてしまいがちですが、さまざまなユーザーの気持ちを想像しようと改めて思わせられました。

こんなふうに、「人に寄り添うデザイン」について「建築」から多くの学びが得られました。
ずっとずっと昔から、建築家は人のことを考えて建築物を作ってきたのですから、それだけ知見や思想が蓄積されているのでは、と思います。
建築の本、おすすめです。


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