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デンマークでのデザイン授業レポ#2:モノが人々の間に溶け込んでいくプロセスについて

昨年デンマーク工科大学に留学していたときに学んだことをまとめています。

前回は、Sociotechnical Designという授業で習った、Sociotechnical Designという概念そのものについて共有しました。今回は同授業から、モノ(テクノロジー)が人々にどのように受け入れられ、また変化するかというプロセスについてです。

Sociotechnical Designの分野においては、モノが人々の生活や社会に溶け込んでいくことを、Domestication(日本語では「順化、飼いならすこと」)と表現します。

このDomesticationには、4つのフェーズがあると考えられています。その4つがこちら。

Appropriation(充当):モノと人が出会い、モノが人によって使用され始めるフェーズ
Objectification(対象化):ある特定の人の特定の状況において、モノが目的をもって使用されるフェーズ
Incorporation(取り込み):その人が、モノをこの状況でこの用途で使用するものだと認識し、それが習慣化するフェーズ
Conversion(転化):その状況・その用途を多くの人々が認識し、モノが新たに意味づけられるフェーズ

最初のAppropriation(充当)というフェーズでは、人は新しいモノを目にし、その用途を解釈し、そして使用を試みます。「充当」という言葉は、デザイナーによって定められた用途をもったモノに、人がユーザーとして割り当てられる、という状況を意味しているのでしょう。

次のObjectification(対象化)においては、ある特定の状況化で、個人がそのモノを意識的に使用します。前フェーズとちがうのは、個人が〇〇のため、という目的をもって、モノと向き合っているという点です。モノが明確に使用の「対象」になっている、と言える段階です。

Incorporation(取り込み)の段階では、前述の使用状況や目的、それに伴う行動が、個人の中で繰り返され、あたりまえになっていきます。個人の生活の一部にモノが溶け込んでくる、という意味で、「取り込み」と表現されるのでしょう。

最後のConversion(転化)の段階では、個人の中で認識されていたある用途が、まわりの人々にも広がります。こうして、モノが新しい用途をもって、人々に新たに意味づけされていくのです。このとき、モノの形自体が変わっていく場合もあります。「転化」という言葉からは、ある意図をもって作られたモノが、人々によって変わっていくというニュアンスが感じられます。

この4つのフェーズは必ずしもすべて完了されるわけではなく、また行ったり来たりを繰り返すこともあるようです。


さて、ここからは私見ですが、InstagramにおけるDomesticationのプロセスを考えてみました。

Instagramは写真を撮って友達に共有するアプリ、として世の中に出されました。人々は友達とのつながりの中で、自分の撮った写真を公開することを始めてみました。これがAppropriation(充当)の段階です。

Objectification(対象化)の段階として、きれいな写真で溢れたタイムラインから、行ってみたい場所を探す人々が現れました。「どこの写真?」とコメントを残したり、スクショで保存したりという行動を取りはじめます。

そして、彼女たちは、行きたい場所を探すためにInstagramを開くという行為を日常的にするようになるのです。Incorporation(取り込み)の段階です。

ついに、Instagramは位置情報を残せる機能や、他の人が投稿した写真を保存できる機能をリリースしました。こうしてInstagramは、行きたい場所を探すことのできるアプリ、という価値も認識されるようになります。これがConversion(転化)の段階です。


Domesticationだとか、それぞれのフェーズの名前だとか、用語に価値はないと考える方もいるかもしれません。しかし、用語を理解していることで、Instagramのようなケースを分析的に考えることができると思います。そして、過去や現在のケースについて理解を深めることで得られた知見が、未来のものづくりに生かされるのではないでしょうか。

今回の内容が、どのようにモノが使用されているかを見つめて、それを新たなデザインに落とし込もうという意識を高めることにつながればいいな、と思っています。

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