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モノローグでモノクロームな世界

第九部 第三章
三、
 神代真飛は、憑き物が落ちたように、どこか、からっとした笑みを浮かべ、地上へと戻るエレベーターまでケイを送ってくれた。
 上昇していくエレベーターの中で、ケイは彼から聞いた話、そして、『アレグロ・バルバロ』に隠されていた暗号を反芻した。

 あの映像に隠されていた色の暗号。
それを、TheBeeに打ち込む。そうすれば、TheBeeの共鳴装置は止まると彼は断言した。今は、それにかけるしかない。
共鳴装置が止まれば、すぐに人々が催眠状態が解けるかどうか、それが問題だ、と神代真飛は話していた。これほどまでに長く催眠状態にあった者が、果たして原因が止まったからといって、すぐに催眠から目を醒ますのか、そして、催眠が仮にすぐに解消されたとして、どういった影響がでるのか、誰にもそれはわからない。
 だから、そのためにワームから情報を発信する必要があった。まずは、君達のような壁の中にいて催眠の真っただ中に居ながらも、色を認知できる存在に真実を知ってもらう。そして、壁の中にいる真実を知った人々と、ワームが協力体制を取る事で、催眠が解けた人々を導いていく。
 新しい真を創るための鍵なんだ、君達は。と、彼はそう言い長い告白を締めくくった。

エレベーターは上昇を続ける。
四角い箱が辿り着く場所は、アレグロが辿り着いた壁の先の未来だろうか。
それともハナが辿り着いたどこまでも濃い闇が続く世界だろうか。

あの映画にこの世界を変えるきっかけが仕込まれていたなんて、壁の中に暮らしていた時分ならば、気がつきもしなかったし、仮に分かったとしても、信じることもできなかっただろう。
だが、気づいてしまった。知ってしまった。
この世界が偽りだらけだったことを。
そして、たとえ、終わり方を間違えていたとしても、もう偽りの世界で生き続けるのは、耐えられない。
 だから、神代真飛から受け取ったパンドラの函を開くのは、ミハラケイ自身の意志だ。
ただ、函の底に一握りの希望が残っていることを願って。

『バイバイ、アレグロ。
君と見た景色は、とても綺麗だったよ。』

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