くりだし続ける視点。どのタイミングでも、同じものを。
『専門料理』『料理王国』を毎月読んでます。トップランナーのシェフが創っている料理や、考えていることを惜しみなく披露してくれています。業界では有名な、超ありがたい雑誌です。いつも読んだ後、創作意欲が沸き立ちます。そして次の行動は?というと、料理人のライフワーク「新しい料理を考える」です。
「おっしゃー!新メニューでこれアレンジしてやってみよう!」
って雑誌を読んだ後によくなります。でも「待てよ」、と僕の中で新しい料理を生み出す時、いつも一番気をつけていることがあります。今日はそのことについて、読者さんと一緒に考えていきたくて筆をとりました。
料理人、クリエイターは常に、新しいアイデアを考えていますよね。僕もそうです。いつも「ひらめき待ち」です。料理人にとって、新しい料理を考えることは、「クリエイティブな自分の力」を存分に発揮できる「1番楽しい仕事」です。そして、だからこそプレッシャーがかかり「1番頭を悩ませる苦しい仕事」でもあります。
でも差し引いて一つ言えるのは、飲食の仕事をしていて「1番情熱がのる瞬間」って言ってもいいんじゃないでしょうか?
今日は。そんな情熱があるからこそ陥りがちな盲点の話です。少しグサッとくることを言うかもしれません。いや、そこをあえて狙っていきます。
なぜか?と言うと、新しいメニューを考えるときに、「この視点が抜けると大変なことになる」からです。おせっかいかもしれませんが、これはお店を経営していくには、超重要なことなので言い切っていきます。先に結論から言うと、
「同じものをくりだし続けられるか?」
です。僕は新メニューを考える時ここの視点が抜けていないか?常に自分に問いかけています。
料理のアイデアを考えている時、「目の前のその一皿のことだけ考えている状態」になる傾向にあります。
クリエイティブモードに入り、アイデアを出そうとしている時、アーティスト思考になります。つまりその瞬間、目の前のことに「集中」している状態です。まずはそうしないと、無限にひろがる思考の世界から、なにかをひっぱってこれません。
でも忘れてはいけないのは、食べてくれる人全員が同じ体験ができてこそ初めてメニューとよべること。つまり
「一人一人どのタイミングでも同じものを」繰り出し続けることができるのか?
ここが抜けるとアイデアは、ただの自己満足になってしまいます。
斬新なもの思いついたとしても、
時間をかけて試作して、究極の一皿にたどり着いたとしても、
実際に食べてくれるお客さん一人一人に同じものを届けることができなければ、極端な言い方するとその斬新なアイデアは無意味です。ここを強く認識していくことがメニュー開発には大事だと思います。
どのタイミングでも最初に狙った感動をくりだし続けていかないとそのメニューの本当の成功とは言えない。「そんなん当たり前でしょ」と思われるかもしれません。でも時として人は、自分の都合の悪い部分はみないようにできているので、気付かない間にその傾向があります。
例えば、洋服のデザイナーさんなら
どれだけ、最初のひらめき、デザイン性が素晴らしいものだとしてもそれを実際に商品化するときに
「指定の素材が安定して手に入らない」
とか
「この指定のプリントをいれるには特殊な技術が必要」
とかで
形にするのに問題がでたら、その発案がどれだけ斬新なデザインだとしても、実際に世に出ることはありません。イメージ的にはこれに近い感じです。
もう少し、飲食店目線で具体的な問題とチェックポイントをあげると
マネジメント方向、マーケティング方向、この2つをクリアできるか?です。
まずマネジメント方向は、お客さんが見えている料理人なら、みんな考えていることだと思います。 この完成度のものをいつでもどのタイミングでも出せるのか?と言うオペレーションの視点です。仕込みに時間がかかる割にはアシが早かったり、直前の調理の工程が複雑すぎて全体のリズムを崩してしまわないか?などです。ここを考慮してそのアイデアが素晴らしいか?どうかを決めないと、結果的に、一つ一つの料理が同じクオリティを保てません。それでは、お客さんによって満足度のばらつきが出てしまいます。
2つ目のマーケティング方向がけっこう抜けがちな視点です。それは、想定している出数を現実的にコントロールできるか?という「発信」目線です。想定している出数より下回れば、仕込みも食材の鮮度も変わります。そこが変わってしまったら最初に想定していた感動は薄まります。そもそも試作の時は、届いたばかりの食材、作ったばかりのソース、下準備したばかりのパーツで作っているのでそこでのクオリティと、営業でメニューが走り出した時のクオリティは違うかもしれません。コース料理オンリーでやっている業態ならこの問題はないですが、アラカルト中心のお店の場合は、ここが満足度に直で影響します。
この2つをクリアして初めてその新メニューの成功につながります。
お客さんからしたら目の前に出されたお皿がすべて。
最初にその料理を思いついただけで、良い気持ちになっていたら要注意です。その時点ではまだ誰にも、なにも届けてません。
今「そこにある」料理に感動したか?ここがお客さんからしたら本質的に一番重要なわけで、料理のアイデア自体にはそんなに力はありません。だから雑誌や本でレシピだけみて「おっ!」と思っても
その有名シェフのお店では、そのレシピのメニューを同じクオリティで「くりだし続けることができるシステム」と「そのメニューを求めるお客さんの数」。この2つが揃ってるからこそ成り立っているんだということ。これを忘れてはいけません。
そこまでは、雑誌や本に書いてないですから、「くりだし続ける」視点。ここ重要と思いました。
終わり。
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