猫の保護活動者が「ねこホーダイ」騒動に思うこと
ねこホーダイの問題点をまとめようと思ったんですが、そこはOMUSUBI事業責任者に譲って、ここではちょっと別視点で僕が思ったことを書きます。
なお、僕は個人で猫の保護活動(捕獲、預かり、里親探しまで)をして20匹以上を新しい家族に譲渡したり、PETOKOTOで保護犬猫と迎えたい人のマッチングサイト「OMUSUBI」(お結び)の立ち上げに携わったり(現在の形に育てたのは後任のスタッフたち)してきた人です。
最初に言いたいのは、「みんな『殺処分』という言葉の重みに惑わされず、冷静に現状を知ってほしい」ということです。
■殺処分数は減少している
ねこホーダイを擁護している、もしくは「こういうサービスが必要なんです」と言っている人たちはしばしば「猫は2万3000匹も殺処分されていて〜」という話をされるんですが、いろいろ誤解があるように思えます。
そもそも猫の殺処分数は10年前の2012年、約20万匹でした。それが行政や保護団体、それを支援する企業や個人の力によって2万3000匹まで減りました。10年で10分の1まで減らしたわけです。
ただし、「殺処分数が減った」と言っても「預かる人が増えて保護猫のいる場所が保健所から移っただけ」という側面もあるので、問題が10分の1まで解決したわけではありません。
しかし、「猫の殺処分数を減らそうとみんなが頑張った結果、その数が減った」というのは間違いのない事実です。その前提を抜きにして「猫は2万3000匹も殺処分されていて〜」とだけ言うのは先人たちの頑張りに対してリスペクトが欠けているような気がします(僕をリスペクトしてほしいという話ではありません)。
そういう頑張ってきた人たちが「自分たちではもう限界なのでこういうサービスが必要なんです」と言うなら分かるんですが、現状、そうではない周縁にいる人たちが「あの人たちはもう限界なのでこういうサービスが必要なんです」と言っているように聞こえて、違和感というか全国の活動者さんたちの頑張りを実際に見てきた身としての腹立たしさがあります。
まあ、でもいったん冷静になりましょう。「殺処分数が減っているのは事実としても、殺処分されてる猫がいるのも事実でしょう?」という意見もあるかと思います。そうなんですが、殺処分数の中身を見てもらいたいと思います。
数年前から殺処分数は以下の3種類に分類して環境省から公表されるようになりました。
譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
引取り後の死亡
譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難
この分類も賛否はあり、特に1について治す方法はあったとか、私なら人馴れさせられたとか、自治体によって分け方が違うとか、ツッコミどころが多くて議論が続いてます。だから知っている人はモヤモヤするとは思いますが、今回は「殺処分に分類があることを知ってもらうことを目的にしている」ということで、どうかご容赦ください。
その分類によれば、「本当は譲渡されて幸せな一生を送れるはずだったのに、人間の都合によって殺されてしまった猫」という、一般的に想像される「殺処分された猫」は3に当たります。
その上で猫の殺処分数2万3764匹のうちそれぞれの数を見てみると、
1万2051匹
5358匹
6355匹
となっていて、2万3000匹のうち1万7000匹は成すすべなく死んでしまったか、殺処分せざるを得なかった猫です。つまり、みんなが想像する「殺処分された猫」の数は、実際には2万匹ではなく6000匹ちょっとなのです。
仮に議論のある1を加えたとしても、1万8406匹となり、2万匹を下回ります(念のため言っておきますが「実際はもっと少ないから殺処分は大した問題ではない」という話ではありません)。
■猫の殺処分は子猫が多い
そして、ここからがけっこう重要な話なのですが、殺処分されている猫のうち、1万3836匹は生まれたばかりの子猫です。実は「人間の都合によって殺処分されている猫」というのは、その多くが「生まれたばかりの子猫」なんですね。
なぜそうなるかというと、生まれたばかりの子猫は3時間おきにミルクをあげて、トイレをさせてといったお世話をしなければいけないからです。公務員である保健所の職員さんが24時間つきっきりのお世話をすることはできないので、やむなく殺処分ということが起きています。
でも、中には自宅に連れ帰ってボランティアでお世話をする職員さんもいらっしゃいます(職員さんだって殺処分したくないのです)。
ちなみに、その大変な時期にお世話する人たちを「ミルクボランティア」と呼びます。僕も何度かやっていまして、うちにいるホタテ&ポテトは初めてのミルクボランティアで育てた子たちです。
僕の経験不足から弱らせてしまいお腹で「がんばれ、がんばれ」と温めた子が、うちで大きくなって今ではトドのように横たわっています。
このミルクボランティアをやってくれる人がもっと増えると、人間の都合によって殺処分される子猫たちの数をよりゼロへと近づけることができるでしょう。
保護活動者の頑張りやそれを支援する人たちによって、状況は少しずつ良くなってきています。そこへ急に現れて「猫は2万3000匹も殺処分されていて〜」という話をするのは、現場で起きていることと少しズレがあるというのを理解していただけたら嬉しいです。
■飼育レベルの低さが殺処分を生む
殺処分を減らすためには、「ねこホーダイ」に頼る前にやるべきことがたくさんあります。いま頑張っている人たちを応援するというのも一つですし、飼い主一人ひとりが適切に迎え、育てることも大切です。
ここすごく重要なことなんですが、殺処分問題は活動している人たちだけが頑張って改善しているわけではありません。迎え方、育て方のレベルが上っているからこそ改善へ向かっている面も大きいです。
例えば、これは犬の話ですが、ある県の愛護センターで働く獣医師さんが殺処分を減らすための飼い方の改善ポイントとして、「まずは動物病院に行くことから」と話していたのが印象的でした。
動物病院に行くなんて当たり前のことでしょ?と困惑する人も多いと思いますが、噛み付く、飛びつく、吠えまくるなど、その地域では適切に育てられていないから病院に連れて行くことすらできない飼い主がたくさんいるそうなんです(これ悪いのは飼い主ですよ。犬ではありません)。
猫も同様です。近年、猫の「完全室内飼い」「不妊去勢手術」「マイクロチップの装着」が当たり前になりました。その当たり前ができていないと屋外で繁殖して子猫が生まれ、その子たちが子猫を産み……と野良猫が増える原因になります。
犬も猫も、基本的なことを改善して飼い主レベルを上げていくことが殺処分問題の解決につながっていきます。だからこそ飼い主のレベルを上げるどころか下げようとしている「ねこホーダイ」は、「殺処分問題の解決ではなく悪化につながる恐れがある」とみんなが危惧しているわけです。
インフルエンサーの皆さんも、「2万3000匹も殺されてる!ひどい!だから『ねこホーダイ』が必要!」ではなく、「みんな頑張って2万3000匹まで減らすことができました👏 よりゼロに近づくように適切な迎え方、育て方をしていきましょう」といった話をしていただけるとありがたいです。
■保護活動で野良猫は減らない
ところで「ねこホーダイ」はロゴの下に「のら猫ゼロを目指して」というコピーを掲げているのですが、なぜこのサービスが使われると野良猫がゼロになるのか理解できません。
けっこう勘違いされがちなポイントなのですが、「猫の保護活動」と「野良猫をゼロにする活動」はイコールではありません。例えば僕も猫の保護活動をしていますが、ゼロを目的として活動してはいません。人間中心の社会で長生きできない猫たちがいるので、安心して暮らせる場所を見つけてあげたいと思って活動しているだけです。
野良猫を減らす活動として、不妊去勢手術をして耳カットした猫を元の場所に戻すTNR活動が有名です。預かる余裕があれば戻さないで人馴れさせて譲渡します。が、TNR活動や譲渡だけで野良猫をゼロにするのはちょっと難しいです(TNR活動が無駄だという話ではありません)。
一時的に減らせても、他の地域から猫が移動して来たり、捨てられたり(犯罪です)して増えてしまうからです。ただし、離島のように物理的に新規の猫が入ってこない地域であれば、TNR活動だけで野良猫をゼロにすることは可能です。
もし本気で「野良猫」をゼロにしようと思うなら、「地域猫活動」をしなければいけません。地域を区切り、その地域にどれだけの野良猫をいるかを把握し、不妊去勢手術が終わっていない野良猫がいれば捕獲して実施し、他の地域から野良猫が入ってこないか、捨て猫がいないかを監視します。地域住民が一丸となって、継続的に取り組む活動が地域猫活動です。
ちなみに地域猫活動というのは正確には「野良猫をゼロにするための活動」ではなく、「野良猫の問題をゼロにする活動」です。地域猫活動で実際に成果を挙げている地域として磯子区(横浜)や国立市、台東区などがありますので、興味ある方は調べてみてください。
仮に「ねこホーダイ」が預かり先、譲渡先を増やせたとしても野良猫は減りません。猫は繁殖力が非常に強いので、入口を閉めなければ、出口をいくら広くしても入ってくるスピードに追いつかないからです。
■それ、本当に猫のためですか?
そもそも「ねこホーダイ」は「野良猫ゼロ」を掲げても「殺処分ゼロ」を掲げいるわけではありませんので、「猫は2万3000匹も殺処分されていて〜」というのは擁護派の人たちの意見です。ねこホーダイが自分たちの活動で野良猫をゼロにできると本気で考えているならかなりヤバいですが、さすがにそんなことはないはずなので、本当は何を目的にしたサービスなのかが気になります。
そう思って改めてサイトを見てみると、結局のところサブスクモデルの商材がたまたま猫だったというだけのような気がしてきました。商品の調達先や在庫管理する倉庫として保護団体のシェルターが都合良かったというだけで、冷静になって見てみると「猫のため」はどこにも見当たらないんですよね。だって猫のことを考えていたら、間違っても「面倒な審査やトライアル」「猫を手放したい」なんて表現は使わないですから。なんだか自分も含めて、みんな一人相撲しているだけのような気がします。
今のところ「保護猫」を免罪符に、アイデア一発の猫ビジネスを始めてみたら大炎上した、程度の低い話にしか見えなくなってしまったのですが、どうなのでしょう。どのようなオチになるのか注意して見ていこうと思います。
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