見出し画像

パワーポイントでは伝わらない、理屈を超えた感情

とある企業とB Corp認証取得に向けたアセスメントを行った。その企業は、経営者発信でB Corpの取得を目指している。初回のアセスメント結果はというと、よく見積もっても高い点数とは言えない……

企業の規模は小さくないので、社内の制度や方針の文書ひとつ変えるだけでも何階層もの承認が必要だ。

合格ラインに到達するため、取り組みやすくて点数が高い項目を見繕っては何度もBIAを見返したが、希望しているスケジュールでは「うん、きびしい」というのが正直なところだった。

一通りアセスメント結果の説明を終えたあと、私は担当者に、「さすがにこのスケジュールは……ねえ……」といかにも担当者の声を代弁するかのように言った。

しかし、「大丈夫、もちろんきびしいけど。もともとやるつもりで計画はたてていたので、予定を早めるだけです」と担当者。

「あとはどう効率よく社内で承認を得るかなので、もう一度これからやること細かく教えてください」とのこと。

……!

たしかに、担当部門以外の部門の方とのヒアリングのときも、ハードル高めなBIAの説明だったけれど、「いまはできてないけど、これからどのみちやることになるからね」と、みなさん前向きに受け入れてくれた。

これはあくまでも私個人の感覚だが、B Corp認証の取得は、いや、ESG、サステナビリティの活動は、経営者や担当者の強い想いでスタートはするもの、いざ具体的にアクションを進めていく段階になると、周りの理解と協力が得られずに足踏みしてしまうことが少なくない。
経営者が言っているからやらないといけない、株主に求められているからやらないといけない、規定で決まっているからやらないといけない、やらないといけないんでしょエンジンを原動力としている反応を多くみてきた。

もちろん、こちらの会社も、やらないといけないんでしょエンジンを使ってるとは思うけれど、ふんわりと、会社と社員のみなさんが同じ方向を向いているなぁと感じられる。(勝手に弱腰になっていた自分が恥ずかしい!)


先日、WWDが主催するサステナビリティ・サミットのセッションのなかで、パタゴニア本社でメンズ・ライフ・アウトドア製品のグローバル・プロダクト・ライン・ディレクターを務めるマーク・リトルさんが「わたしはミッション・ステートメントを信じている。このように言うと、かっこつけてるように思われるかもしれないけど、本当なんだ。原動力の秘訣みたいなものなんだよ」と言っていたことが印象に残っている。

BIAの新基準にはパーパス&ステークホルダーガバナンスが設定され、パーパスドリブンであることがこれまでよりも具体的に求められるようだけど、多くの企業は、パーパスもガバナンス体制も整っているにも関わらず、社員が一つの方向に向かっていない状態に直面しているんじゃないだろうか。

では、ミッション・ステートメントが社員の原動力になっているパタゴニアはどのようにして今日のパタゴニアとなったのだろう。歴史を遡っていくと、社員との反乱があった時代もあったようだ。

ここではパタゴニアがどのようにしてオーガニックコットンへ移行し、全社員の意識の変化を起こしたのかが綴られている。

が、別の記事でまとめられたものがわかりやすかったのでそちらを引用する。

たとえ向かうべき方向は良いとしても、冷静に現場のオペレーションを考えれば、旧来型のビジネスの方がずっと効率的なのだ。しかも、顧客は必ずしもオーガニックコットンの製品を望んでいるわけではない。当然コストは高まるが、その分顧客が高い金額を支払うかどうかは約束されていないのだ。

シュイナードはこのような方向性と効率性の矛盾に直面し、これはパワーポイントのプレゼンテーションでは解決し得ないと判断した。

机上の議論だと、どうしても細部の理屈に視点がいってしまう。なぜ自分が全てを短期間でオーガニックコットンに変えるべきと考えたのか、その必要性を体感して腹落ちしてもらわなくてはならないと考えたのだ。

そのために、シュイナードは、コットン生産の現場に社員が「ロケに行く」という施策を打ち出した。毎年4〜5回行われたこの見学ツアーは社員に大きなインパクトを与えた。コットンの生産現場で嗅いだ悪臭、化学薬品による目のヒリヒリ感、吐き気、そして見ただけで有害さを感じる土の様子...... 五感を通じて体感したことの全てが、社員にコットンの限界を感じさせるものだった。

コットン畑のツアーの体験者が増えるにつれて、パタゴニアの社内で変化が起こり始める。今まで受け身だったオーガニックコットンへの切り替えにより積極的になり、オーガニックコットンの価値を正規取扱店、顧客に伝えていく独自の取り組みがはじまった。この施策の必要性を多くの社員が体感した瞬間、パタゴニアの動きは加速したのだ。

パタゴニアの大転換を成功に導いた、創業者の意思決定とこの一手

そう、パワーポイントじゃあ伝わらない、理屈を超えたもはや感情なんですよね……!

アセスメントを行った企業は、研修や評価といった具体的な施策はこれからだけど、経営者が自らの言葉でメッセージを届けることで社員も同じ方向を向けているのだそう。

理屈で固められた施策の積み上げよりも、感情レベルの腹落ちの一手をつくっていきたい。

そういえば、世界中のみんなのヒーロー大谷翔平選手がドジャースに移籍した理由のひとつも「ゴールを共有できていること」だったっけ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?