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ビジュアルメモリーズ 第6話「カニがいっぱいホタテいっぱい」

前回までで、インターネットが今ほど家庭に普及していなかった時世にあってネトゲ文化に市民権をもたらした初代『PSO』の2000年と、時代をさらにさかのぼって世紀末シネマティックサスペンス『July』をテーマに、ドリームキャストが発売された1998年末を振り返った。

今回は名作ぞろいの1999年の中でも、ゲームの舞台をこの目で見たくて北海道へ一人旅したほど特に思い入れが強い作品『北へ。 White Illumination』の記憶にアクセスする。本作の生い立ちには当時の北海道経済が大きく関係している。

北海道経済の活性化を託されたギャルゲー

『北へ。 White Illumination』は、1999年3月にハドソンからドリームキャスト用に発売されたトラベルコミュニケーションゲーム。北海道を舞台にしたいわゆるギャルゲーだ。同年8月には続編という名のファンディスク『北へ。Photo Memories』が、2003年にはプラットフォームをPlayStation 2に移して『北へ。~Diamond Dust~』がリリースされた。その後もアニメ化やコミカライズといったメディアミックスで作品化されるくらいには人気を博した傑作である。

しかし、本作が単なるギャルゲーなら20年近い時を経てここまで記憶に生き続けることはない。『北へ。』が当時異色だった理由は、ギャルゲーが地元企業や旅行代理店といった各機関と連携して大々的にPR活動に乗り出した開発背景にある。

当時の北海道経済は氷河期と言われるほどに低迷しており、地元では道内の活性化を図るべく「MOVE ON北海道=北からの声かけ運動」という企業主体のキャンペーンが、新聞社やテレビ局によって計画されていた。

ここにいち早く目をつけたのが、当時本社を札幌に置いていたハドソンだった。ゲーム体験をとおしてユーザーに北海道の魅力を伝えようと、ドリームキャスト発売以前からキャンペーンに協賛。その一環として本作の企画がスタートしたという経緯がある。つまり、『北へ。』は後から地域活性化に乗っかったギャルゲーではなく、凍りついた地元経済を救うために生まれたギャルゲーといえる。

いつのまにか北海道に恋してしまう魔法

ゲームの内容はトラベルコミュニケーションというジャンル名が示すとおり、高校2年生の主人公が夏休みの2週間を利用して親戚の住む北海道を旅行するというもの。プレイヤーは赤レンガの名で親しまれる旧道庁や、札幌のシンボルともいえる時計台、異国情緒あふれる小樽運河、ラベンダー畑が広がる富良野など、実在する観光スポットをめぐる中で8人のヒロインに出会い、忘れられない夏の思い出を作っていく。

そして冬休みには親密になった女の子に再会するため、なにより大晦日に大通公園のイベント「ホワイト・イルミネーション」で告白するために、バイトの貯金を切り崩して再び北へと舞い戻る。旅に出会いはつきもの。青春が紡ぐロマンスを繊細に描いている。

こうしたゲーム性や開発背景から、『北へ。』には観光スポットのほかにも、実在するショップやレストランが実名で多数登場する。まだ“聖地巡礼”という言葉がいまほど一般に普及していなかった時代だったが、ゲームで描かれた舞台や背景画像に登場するお店の数々を直に訪れたファンもいたのではないだろうか。筆者もその一人だ。

リリース直前には声優と一緒に北海道旅行ができるツアーが組まれたり、定番のお土産である生チョコレートに本作のロゴステッカーが貼られたりもした。ちなみに本作のクライマックスを飾る「ホワイト・イルミネーション」とは、大晦日の夜にイルミネーション・カウントダウンで年越しのキスをした恋人たちは、永遠の幸せが約束されるというもの。しかし、実は全国有数の破局スポットして名高いことは言わないお約束だ。

特筆すべきは、ギャルゲーとはいえ観光促進ツールという生い立ちゆえに醸し出す独特の世界観と作風。そして何より色褪せないのが、ぶっ飛んだ歌詞のオープニング曲だ。「カニがいっぱいホタテいっぱい」「北へ行こうランララン」といった出汁のたっぷり取れそうなフレーズと、雄大な北の大地を彷彿とさせる旋律がいつまでも脳内に再生される。

ヒロインが観光スポットや地域食材を紹介する際の台詞が妙にCM臭いのもご愛嬌。しかも主人公の食事シーンでは、グルメマンガ並の饒舌な食レポをとくと拝める。こうした特徴からファンの間では、観光ガイドのお姉ちゃんとチョメチョメするちょっと大人の旅ゲーとして愛されている。あと残念ながらエロゲではないので本番はない。


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