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詩 だし巻き


うん、うん、そうだよね
ばあちゃんは言いました
家へ帰る道のりでした
ばあちゃんが夏服を買ってくれると言ったので
一緒に歩いて買い物に行きました
今はその帰りの道のりでした
大きめのシャツを買いました
ばあちゃんがかわいいと言ってくれた
黄色いかわいいシャツなのでした
わたしは左手に買い物袋を持って
右手はばあちゃんと手を繋いでいました
ばあちゃんは最近少しだけ足が悪くなって
一人で歩くとよろけました
まだ杖は買っていません
なのでわたしが手を繋いで支えました
 
うん、うん、そうだよね
わたしは愚痴を話していました
ばあちゃんは静かに聞いていました
うん、うん、そうだよね
バイトの後輩がよくサボること
学校でいじめられたこと
ぶさいくな先輩に怒られたこと
うん、うん、そうだよね
わたしは愚痴を話していました
ばあちゃんは静かに聞いていました
うん、うん、そうだよね
ばあちゃんはいつも頷きます
自分の意見は挟みません
うん、うん、そうだよね
どんなにわたしが悪くても
どんなにわたしが悪口いっても
うん、うん、そうだよね
いつもわたしを肯定します
隣を車が通り過ぎました
 
急な坂が見えてきました
ばあちゃんちはこの坂の上にありました
わたしはばあちゃんと繋いでいた右手を離して
ばあちゃんの背中を押しました
足が悪くなる前より楽になったと言って
ばあちゃんは喜んでいました
やっとばあちゃんちに着きました
わたしは疲れたーと言いました
汗もかいていました
ばあちゃんがアイスを出してくれました
冷たいアイスを出してくれました
それはわたしの好きなアイスでした
わたしは急いで食べたので
頭が痛くなりました
ばあちゃんちはいつも涼しい
うちでは母ちゃんが駄目って言うから
八月以外は冷房はつけられないけど
ばあちゃんは好きなだけ冷房をつけてくれます
涼しい中、アイスも食べて汗が引いて
わたしは眠たくなりました
 
うん、うん、そうだよね
眠いと言うとばあちゃんは頷いて
黄色い毛布を出してくれました
五月に入って暑くなってきたから
もう仕舞っていた黄色い毛布を
わたしのために、出してくれました
それはわたしの好きな毛布でした
うん、うん、そうだよね
ばあちゃんはわたしの好きなもの
何でも知っているのでした
小さい頃、わたしはばあちゃんちに来ると
いつもこの黄色い毛布にくるまって
家族はだし巻きみたいねとよく言いました
ばあちゃんが本物のだし巻きを作ってくれると
だし巻きー、だし巻きできたよー
なんて、わたしを呼ぶのが恒例でした
うん、うん、そうだよね
わたしは毛布にくるまりながら
小さい頃の思い出を話しました
うん、うん、そうだよね
ばあちゃんは優しく頷きました
 
うん、うん、そうだよね
わたしがうとうとしながら話す言葉も
ばあちゃんは全部聞いてくれました
うん、うん、そうだよね
わたしはうとうとしながら話していました
ばあちゃんは静かに聞いていました
うん、うん、そうだよね
バイトのシフトが多すぎること
放課後いつも友達と遊んでいること
学校が忙しくて疲れていること
うん、うん、そうだよね
わたしはうとうとしながら話していました
ばあちゃんは静かに聞いていました
うん、うん、そうだよね
ばあちゃんの声は安心します
わたしはもっと眠たくなります
うん、うん、そうだよね
わたしはばあちゃんの隣で眠りました
黄色い毛布にくるまりながら

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