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ポリアモリーを描いた恋愛ドラマ 『Trigonometry』(BBC Two)(2020)

一対一の「モノガミー」の恋愛関係がデフォルトとされている日本や北米、ヨーロッパ大陸で暮らしている方は、複数人で関係性を築いていく「ポリアモリー」の恋愛を描いたフィクションドラマを観る機会はなかなか多くはないのではないでしょうか?

そんな状況のなか、2020年にBBCで公開されたドラマ『Trigonometry』がとても良かったので、視聴からかなり時間が経ってしまいましたが紹介していきます。

あらすじ


小さなカフェレストランを経営するGemma (Thalissa Teixeira)と、ボーイフレンドのKieran (Gary Carr)は安定したカップル。しかし救急隊員として夜間シフトもこなすKieranとGemmaはすれ違いの生活が続いています。そんな生活にけじめをつけるべく、KieranはGemmaにプロポーズしたいとは考えているものの、バイセクシュアルでもあるGemmaは「結婚」という概念を疑問視しており、なかなか切り出すことができないKieran。

そんなすれ違い生活に加え、住宅事情が厳しいロンドン。二人は、しぶしぶ空き部屋を貸し出す決断をします。そこへやってきたのが、オリンピック出場経験もあるシンクロナイズ選手のRay (Ariane Labed)。Rayが入居してくることで、彼ら2人だった生活に変化が起こっていきます。

結婚式にて、幸せそうな2人だけど


ポリアモリーという関係性は、百人百様で一般化はできないでしょう。このドラマはこのポリアモリーという概念を理解する入り口になってくれそうなドラマかなと思います。少なくとも、自分にとってはただ単に言葉で説明された概念を読み込んだりするよりも、スゥっと自分の中に入っていて腑に落ちると思うから。ストーリーテリングのパワーをまさに感じた現象でした。

以下は半分ネタバレを含む内容ですので、ご注意を!




ここからはネタバレあり


1話から4話にかけては、主にRayの視点で物語が進んでいき、3人の距離感が縮まっていく過程を丁寧に描いています。

3話ではRay がキーランとジェマ2人に対して抱く特別な感情に気づき、そこからなんとか逃れようとします。

4話ではキーランとGemma の結婚式、ハラハラであっという間の60分です。3人以外の人たちからの視点も入っており、キーランとジェマの晴れ舞台である結婚式をぶち壊さないでと挙動不審なRayにキツい言葉を投げかけるジェマの親友がなかなか良い味を出していました。

5話では3人それぞれの混乱と葛藤。一旦は二人の元を去ったRayですが、 この5話の最後に家に戻って来るのです。

そこから周りからの目、3人の均衡が崩れそうになる試練など挟みつつも、3人一緒という関係に真摯にいようとする3人。

その姿勢の描き方に心を動かされました。


でも、このドラマで心をつかまされたのは、Gemma, Kieran, Ray3人の初めてのベッドシーン。

ほんの数秒しか映らないんだけど、それぞれ違った肌、絡み合う3つの体、それらの魅せ方が、とーっても美しかったの。


”authentic”と言えばいい?


個人的には6話でのRay のお母さん(フランス人)がRayの誕生日に泊まりに来るエピソードがじ〜んと来た。お母さん視点のカメラワークが良かった。お母さんは娘と過ごしたいのに、当の娘はGemma とKieranと楽しそうにはしゃいで。お母さんは「歓迎されてない」「あなたは変わってしまった」と悲しんでしまう。

でも最終的にお母さんは " Je t'aime " で全てを包み込む。

キャストについて

Rayを演じたフランス人女優Ariane Labed(アリアン・ラベド)、調べたら有名な女優さんだったの。観てないけど観たい映画リストに入っている映画2つに出演していた!

ギリシャ映画のAttenberg (2012) (Athina Rachel Tsangari)

あとはThe Robster (2015)(Yorgos Lanthimos) *この映画がきっかけ?でAriane はYorgos と結婚。彼はThe Favourite (2018)の監督!


視聴可能なサイト

イギリス在住者であれば無料で視聴できるBBC iPlayer ではもう観れなくなってしまいました。現在はApple TV+Amazon Video (一話ずつ、または全話まとめて購入のオプション有) から有料ではありますが視聴可能です。


これまでにポリアモリーを描いた映画


『それでも恋するバルセロナ』(ウディ・アレン、2008)でもアバンチュール的ではありましたが画家の男、その(元?)妻、そして旅行中だったクリスティーナとしばし3人での恋愛模様が描かれていました。

ポリアモリーとChosen Family


このドラマをただエンターテインメントとして消費するだけではなく、もう一歩踏み込んで考えてみたい。

モノガミーという関係性が当たり前な社会に暮らしてきているなかで、ポリアモリーという関係性は特段新しい概念ではなくて、キリスト教の影響が濃い西洋的な概念であるのだということ。ポリアモリーを一概に否定して捉えることは、かつて西洋諸国が(社会的にも法律的にも)同性愛を否定し、差別してきた考え方にも通じているのではないでしょうか。

そして今や、2024年、同性愛を違法とする国や同性婚を認めない国は人権を認めない国として、非難される立場にあります。

婚姻制度・血縁関係に縛られない密接な関係性という点では、クィアコミュニティで語られることの多い「Chosen Family」という概念とも親和性が高い。社会の規範とされているものごとへの批判的な問いかけを実践している、まさに「クィアする」営み、それが今の時点でのポリアモリーの立ち位置、なのでしょうか。


新書777ポリアモリー 複数の愛を生きる (平凡社新書) | 深海 菊絵 |本 | 通販 | Amazon 

上記の本は2015年出版とのことで、ポリアモリーに関して新しい本がないか見てみたら、2023年には評論家の荻上チキ氏によるポリアモリーに関するルポルタージュ、という本が出ていました。日本の現状に沿ってアップデートされているのかな?




ポリアモリー、モノガミー関わらず、当事者以外の人たちが彼らの関係性に口を挟むことはとても慎重にならなければなりません。これは自分の経験からも学んだ (年の差カップルに対する世間の偏見、白人×アジア人カップルに対する世間の偏見、いわゆるハーフの子どもたちに対する周りの反応など) 

例えば自分の子供たちが将来ポリアモリーな関係にあることを親である私に伝えてきたら、私は何も言わずに受け止めてあげられるだろうか…?

さらに言えば、もし自分のパートナーが、ポリアモリーな関係になりたいと私に持ちかけてきたら、どうする?…

ドラマを鑑賞した後に、そんなことを考えてしまいました。

ロンドンらしさを楽しみたい方にも、おススメです!


参考サイト

BBC Two - Trigonometry 
https://www.theguardian.com/tv-and-radio/2020/mar/15/trigonometry-ariane-labed-thrupple-watch-them-having-sex

Trigonometry - watch tv show streaming online (justwatch.com)

クィア理論の制度化・規範化を考える ―David Halperin “The Normalization of Queer Theory”― 島袋海理

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