#4【香港問題】香港デモを時系列順に追ってみた①(2012年〜

 今年6月に香港では逃亡犯条例(日本語名:2019年逃亡犯条例改正案)に反対する200万人規模のデモが実地され、日本のメディアでも取り上げられている。

 逃亡犯条例とは、今年香港議会で提出された議案であり、37の犯罪において別の場所にいる容疑者を中国本土・台湾・香港・マカオ間で引き渡しができるというものだ。

 2018年に起こった台湾妊婦殺人事件の容疑者が香港に居て裁けないことをきっかけに起こった事案であるが、この法案はある危険性をはらんでいる。
 万が一可決された場合、中国大陸から要請1つで中国政府にとって不都合な人物に嫌疑を掛け、引き渡し、資産凍結、差し押さえ等様々なコントロールが実現可能になるのではないかということである。
 
 実はこの法案がなくとも、中国公安が法外に強制連行を試みたことは過去に幾多とあった。
 中国首相・習近平の愛人関係を暴露するスキャンダル本の出版を試みた書店は、店主以下複数名が謎の失踪を遂げ(後に店長だけは開放された)、その後8ヶ月にわたって投獄され中国公安の監視下にあったことが判明した。(銅鑼湾書店店主失踪事件)

 これは一例に過ぎず、また中国は死刑執行の数が推定世界トップであり実数を明かしていない。つまり誰が死刑になったのかが公にならないということだ。
 
 こういった理由から香港人が不信感を募らせているところに、この法案が提出された。もしこの逃亡犯条例が議会通過した場合、中国政府に不都合な人物に嫌疑をかけて中国に連れ込み粛清させることが、白昼堂々と法の名のもとに可能になるのではないか。そんな憂慮をもって香港人が猛反発したのである。

 香港という先進国で、国の総人口の7分の1(200万人)が行進する近年類を見ない大規模なデモだ。そしてその中でデモ隊を率いたのが、周庭(しゅう てい)氏黄之鋒(こう しほう)氏ら若干23歳の学生アクティビスト達である。

 2人とも、高校生の頃より政治に対する活動をしており、学生アクティビスト団体・学民思潮を率いて香港で起こった道徳洗脳教育撤廃(2012年)のためのデモ活動を成功へと導いた。

 成人して間もない若者でありながら、2人は全てを懸けて香港のために戦う。自らの犠牲をもいとわない。
 2017年に黄氏は、2014年に香港で起こった大規模な座り込みデモ(通称:雨傘革命)を導いた政治犯として逮捕されている。21歳の頃である。
 周氏は2018年には香港立法会の補欠選挙に出馬表明したが、立候補禁止措置を受けた。周氏が所属する政治団体デモシストの主義が不適切と判断されたためだ。出馬する必須条件である「イギリス国籍放棄」をした後の措置だった。 

 筆者が彼らを知ったのは今回の逃亡犯条例がきっかけだったが、この若者たちが戦う姿は、もっと広く知られて評価されるべきではないかと思う。

 香港・中国間の「自由・政府のコントロール」をめぐる問題は世界的に重要なトピックであり人類全体にとって普遍的な内容を含んでいる。

 イギリスの植民地として西洋の影響をうけ、返還後も独自の文化と法治で時に中国共産党を牽制してきた香港。もし本当に香港人が危惧するような事態がおこれば何百万人もの言論・思想・表現の自由が脅かされるのだ。香港に直接的に関係のない人でも、この運動を知ることで得られるものは多いはずだ。

 残念ながら日本のメディアやネットの情報は、断片的である。日本語で得られる情報には限りがあり、既存の記事には正式名称やリソースが不明なものが多かった。

 今回この記事を書くにあたり、海外の複数メディアのインタビューや特集を参考に、ディティールにこだわった。読み手の今後の検索のし易さを考慮して、日本語表記がないものは、英語・香港中国語の名称を文中に使用している。
 では読んでほしい。

学民思潮 
学生デモと中国愛国心教育

 始まりは2012年。
 周氏は香港教育局が発表した、香港国内小中学校の新道徳カリキュラム・德育及國民敎育(Moral and National Education : 通称MNE)反対するため、黄氏が立ち上げた学生アクティビスト団体・学民思潮に参加した。2人が15歳の時である。

 德育及國民敎育とは、香港人の間で中国への帰属意識を高め、香港内の小中学校で道徳の新カリキュラムを必修化させることを定めた指針だ。

香港政府はこの道徳カリキュラムの目的を
・モラル意識の発達
・健やかで前向きな姿勢の育成
・自己認知
・思いやりと合理性ある判断力
・自我の発見
・実習

と定め、「国家主導で香港人の総合的なモラル育成に取り組む」と発表した。

 しかし教材には「中国の共産主義を賛美し、西洋諸国の政治体制を批判する」1つの政治的価値観を意図的に推奨する表現が含まれていた。

 特に問題になったのは、政府から教師向けのガイドラインとして配布された中国模式という道徳教材で、全34ページに渡って「中国を盲目的に賛美させる内容だ」と一部に感じさせる内容になっていた。

 中国模式の10ページ目では中国共産党一党制を「進歩的で無私欲的で団結的な執政集団」と表現し、アメリカをはじめとする西洋諸国の政治を「政治複数政党が争い、苦しむのは人々だ」と断定するかともとれる記載が盛り込まれている。
 中国政治システムの課題面を取り上げるのは34ページ中2ページ程度だった。

これに対して、香港国内での反対意見が続出した。

黄氏と周氏の学民思潮をはじめ、幼い子供を持つ親、そして教育関係者達が強く反対したのである。

②に続く。

銅鑼湾書店店主失踪事件関連記事https://www.bbc.com/japanese/36557277

13/07/2012 The Pulse : National Education
https://youtu.be/k_e8NqonP3c