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木造経験ゼロで設計した住宅兼店舗が、AWARDを受賞した話。

今日は、ちょっとしたご報告。少し前のことにはなりますが、

「住宅設計.jp」AWARDにて
準グランプリ/をいただきました!!

AWARD主催の高千穂シラス株式会社様は、シラス壁をはじめとした自然素材の住宅建材を開発・販売されている企業です。コロナ禍で苦しむ設計事務所の助けになればと、設計事務所の住宅作品を紹介するサイト「住宅設計.jp」を立ち上げられました。

今年はそのサイト内で、投票形式での設計AWRADを開催しておられたのですが、さんかくデザインラボの過去作「のっと接骨院」が多くの票を集めたということで、表彰いただいたようです。

実はこの仕事、ぼくがまだ木造経験がほぼゼロであったときに受けた話なんです。そこから、いかにしてプロジェクトを実現させていったのか、今回はそのエピソードについて書いてみようと思います。独立を控えている建築士やクリエイターのみなさんには何かヒントがあるかもしれません。


独立前に決まった大仕事

のっと接骨院は、ぼくが独立するタイミングで、同じく独立して接骨院を開業しようとしていた、世界一周時代の友人が依頼してくれたもの。「りょーじくん、独立するんしょ!?ちょうどよかった!うち設計してよ!」てな感じで軽く決まった住宅兼店舗(200㎡!)の大仕事。友人の潔さに、あっぱれ!ですね。2018年設計開始、2019年竣工なので、もう5年前。同時に、まだ5年かぁ、という感じも。

施主である院長(破天荒)と、ぼくも仲良くしてもらってるアルバイトの受付さん

さて、話には飛びついたものの、木造建築というものは前職で一度見たことがあっただけ。しかも、そのときは社長が一人で設計して、ぼくは施工の現場に2度ほど手伝いに行ったことがあったのみ。担当ですらありませんでした。

そんな中で受けた依頼。RC造と鉄骨造の経験しかなかったのですが、正直、最初は木造をなめていたのは否めません。RCと鉄骨がいけるなら、木造もできるっしょ!と。

しかし、勉強すればするほど、まったくの別物であることがわかってきます。最初は、柱をどういう基準で並べていけばいいのかすらわかりません。金物選定?なんだそれ。構造外注しようにも、木造の構造屋さんの当てもありません。これはヤバそうだ。

元々、独立したら住宅に力を入れていこうとは思っていたので、木造の勉強は必須。まずはしっかり学ぶところにフォーカスしました。(というか、それなら学んでから独立しろよという話ですが、、笑)やったことは2つ。他社に潜り込むことと、学べる環境に入り込むことです。

のっと接骨院1階:接骨院待合

他社に潜り込む

まずは住宅の設計・施工を主軸に据えている会社に潜り込みました。その会社は、静岡県の平成建設。自社で大工を育てながら設計も施工も行うスタイルで大注目されていた新興企業です。当時すでに、およそ300名の社員を抱えており、大手と呼べる存在になっていました。

社会人インターンは募集しておらず、受け入れたこともないという状況でしたが、大学時代の後輩の伝手で、一週間ほど入れてもらえることになりました。もちろん、勉強だけさせてもらいに来たとは言えませんし、入社を前提としたインターンです。

※設計者ではなく、大工になる(一通りの大工仕事ができるようになる)ことも可能性としては考えていたし、会社に属しながら自分の仕事をやるスタンスもありかもと考えていたので、嘘ではない、、!!

1つの現場に数日居たり、1日で複数の現場に連れて行ってもらったりして一週間を過ごしました。ぼくは新卒でゼネコンの現場監督をしていたので、現場の勝手は知れたものでしたし、引率の社員さんにも職人さんにも、技術的なことや仕様・納まり、仕事の方法論まで、根掘り葉掘り質問しまくり。写真も撮りまくり。独立したら知り得ない情報をできる限り集めておこうと必死でした。めちゃくちゃ熱心なインターン来たなぁと思われてたことでしょう。笑

その必死さが目に留まったのか、最終日には社長に呼び出され、予定外の個人面談。1時間以上話して、帰る前に入社時試験も受けておけとのことだったので、実はほぼ内定いただいた感じだったんですよね。結局、入社せず今に至るわけですが、感謝しています。

のっと接骨院2階:住宅LDK
のっと接骨院2階:住宅LDK
のっと接骨院2階:住宅書斎

学べる環境に入り込む

独立するにあたり、事務所をどうするかを悩んでいました。自宅でできないこともないけど、絶対だらけるし別で事務所いるよな~。プリンタとかの費用面も考えるとシェアオフィスにすべきかな~。などなど。

で、そのときに見つけたのが、建築士が集まるシェアオフィス。これはホントにたまたまなんですが、いろんな建築家のホームページを見ていた流れで、三澤文子さん率いるMs設計事務所のホームページも見ていたんです。すると、そのページの隅っこに、シェアオフィスのバナーが。

開いてみると、なにやらMsを卒業して独立した方々や、Msが主催する木造住宅の学校の方々が入居されているとのこと。なんだかすごく内輪な空気が漂っていましたが、そこは得意の特攻で!すぐに電話をかけて、面談を段取りしてもらいました。文子先生には「身内だけでやってるんだけどねぇ、、まぁ新しい風ということでよしとしようか」と承諾いただいたんです。

そうして入ったシェアオフィスMOK SOHOには、日経アーキテクチャでよく見ていたトヨダヤスシさんをはじめ、構造屋さん、温熱環境屋さんなど、木造住宅の専門家たちがおられました。建築雑誌もたくさん蔵書してありましたし、オフィスそのものは、文子先生の亡き夫、三澤康彦先生によるプロト住宅で、今まで見たことのない納まりがたくさん!生の教材です。

MOK SOHO:打合せスペースと共用書棚
MOK SOHO:共用キッチンの奥は事務所スペース

そして今思うに一番大きかったのは、木造住宅を専門にされている方々がどんな書籍やカタログを持っているのか見ることができたこと。ご本人たちに質問することもありましたが、聞いてばかりはいられないので、彼らが書棚に並べている本をそっくりそのまま購入しては読破していたのでした。

書籍から盗み倒してできた建築

そんなこんなで勉強と並行して、のっと接骨院の設計を進めていきました。

最も参考にしたのは、おそらく住宅建築の巨匠・伊礼さんによる「伊礼智の住宅設計」という書籍。使う材料や納まりについて、たくさん盗ませていただいています。こうした書籍がなかったら、建具枠や建具そのものを設計するなんて発想もなく、既製品ばかりを使っていたんだろうなと思います。

どなたかの本には「○○さんの設計が垢ぬけないのは、既製品の建具を使ってるからだよ。そこだけは譲っちゃいけない。」というセリフがあって、それ以降、あらゆる空間を見るにつけ、このことを実感します。

のっと接骨院は、書籍で学んだだけで実践経験のない小僧が、わからないなりに考え抜いた足跡が見て取れて、今のぼくが見ても感心するところがあります。それがこうして、5年経って、受賞という形で光を当てていただけたのは、とても嬉しいことです。

竣工3年後、世界一周仲間と。アオダモが映えてます。

今回の記事はこんなところでしょうか。またタイミングがあれば、建築の構成など詳細についても触れられればと思います。

なお、記事内では、勉強の賜物の受賞のように書きましたが、この受賞は実は、のっと接骨院のおかげさまだと思っています。接骨院のお客さんがたくさん投票してくれたようなので。笑 良いクライアントに恵まれました◎

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