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星語掌編集《ホシガタショウヘンシュウ》

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地球町《あおやねちょう》の道端で拾った、ちょっと不思議な掌篇を収録。短編や読み切りばかり載ります。
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あの額縁の向こうへ。‐小田原冒険譚‐

あの額縁の向こうへ。‐小田原冒険譚‐



久しぶりに有料記事を書いてみます。わたしにとって”死”とは?という重いテーマを扱っています。

現時点で感じることを小田原への小旅行の記録と重ねながらとにかく書きつらねていったものです。撮りおろしの写真が25枚ぐらいあります。良いエッセイになってると思います。「エルゴォの不思議なマッチ」のキャラデザを固めるまでのラフの経緯なんかもおまけで掲載してあります。損させませんよ!ぜひどうぞ。

もし

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≪有限会社‐別世界製作所≫

≪有限会社‐別世界製作所≫



「どっかで事件起きねぇかなぁ…」

雑居ビルの2階。突出し看板の上に雑に「蛙木探偵事務所」とガムテで張り紙。

蛙木草介《アギソウスケ》。ハンチングとサスペンダーが世界一似合う29歳独身──俺は、暇だった。

つぎはぎだらけの狭いソファに靴のままごろんと寝転がり大あくび。

正確に言うと、いかにも暇そうな顔をして「どっかで事件起きねぇかなぁ…」とかいう、全人類が一回は口に出して言いたい日本語を

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掌編「エルゴォの不思議なマッチ。」

掌編「エルゴォの不思議なマッチ。」

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星語《ホシガタ》掌編集*15葉目

(4500字/読み切り)

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「マッチだよ。マッチはいかが?」

月夜にシャンシャンと結晶降り積む、白く染まった”銀の町”。慌ただしい年末、今日はクリスマス。どこか遠く、コーディのブンチャカ言う音色に合わせ、不器用な縦笛の夜想曲が響く、がたがたの煉瓦道。

シルクハットの隅の埃を払い、袖も裾も引きずるほど長い煤けた外套には、た

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いま掌の中にないもの全ての話だと思う。電車に乗り遅れたら一本前の電車に乗ったであろう”私"には二度と会えないのと同じで、無くした物と同じ種類の物を買い直しても、同じような何かでしかなく、無数の選択肢を進んだ先、少しずつズレた世界の枝葉の突端で、忘れ物をしてまた違う世界に戻っていく

星、指し示すみち。

星、指し示すみち。

天井の低い田舎町。毎日どこか遠く、謎の光の道が星だらけの夜空を旋回し照らす。

「今日こそあの光の根元を探しに行く」

母は遅くなったら電話しなさいと軽く敬礼した。

空気を入れたばかりの、わたしの相棒の足取りも軽やか、秋の夜風を従者に、いざ出発。

星の瞬きを吸収しながら輪旋する、遠くの光を仰ぎ目指す。

(これは一体なんだろう…)

もし異世界の扉が開きそうとかだったら…。世界を救う展開だ。ワ

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一年前に書いた掌編「庭師は地平に林檎の苗を」の登場アイテム、青と翠の水時計の話。多分私の世界観の創り方みたいな何かが語られてるんではないかと(自分ではよく分からない)3000字程度ですし写真も多いですよ!是非どうぞ


時溜りの水時計。http://mm404.hatenablog.com/entry/2019/08/21/153357

掌編「慧ちゃんがいなくったって」

掌編「慧ちゃんがいなくったって」

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星語《ホシガタ》掌編集*14葉目

(731字/読み切り)

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「ドーナツとか、食べてないよ?」
電話口で、口をもごもごやりながら。

「今日は空がピーコックグリーンだったよ!」
曇り空の下、遠くの町から変顔の自撮りが送られてくる。

俺の彼女はすぐにバレる嘘をつく。バレる。というより、隠す気がないのだ。

そして彼女に視える今日の空はたしかにピーコックグリーンなんだろう。

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少女は花を飾るように。

少女は花を飾るように。

深緑、幾千の時降りつむ常盤の森。神域、屋久島の白谷雲水峡に行った。友人が選んでくれた、緑と橙の髪どめを正装がわりにつけて。

光の帯漂う清流。竜の通り道のような苔の大空間。踏みしめるたび感じた。神はいるのだ、と。

慈悲深い自然に包まれ《ありがとう》と声をかけながらの行軍。

(御守が欲しいな)

──小石をひとついただけないだろうか?

神に問う。

こういうのは神域から無断で持ち帰ってはダメだ

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掌編「最後の竜、ディディ・クー」

掌編「最後の竜、ディディ・クー」

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星語《ホシガタ》掌編集*13葉目

(2033字/読み切り)

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いつから逃げ続けている。何から逃げ続けている。

賭けて駆けて架けた先には、何があるのか、道はあるのか、続いているのか、ここはどこだ。そうだここは旅の途中───。

────水没した”ビルヂング”遠く立ち並ぶ中、ギザギザにアスファルト折れた、橋脚《きょうきゃく》の背の上。

昔々”コォソクドーロ”って呼ばれ

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我の執筆環境。

我の執筆環境。

「わたしの執筆環境」というタグに、もちだみわさんが参加されてまして、なんだかわたしにはそれがとてもカッコよく思えて。そうか、わたしのスペックか…スペック?……ん?と

よく考えたら、どういう性能のなにpcとか、全然知らなかった。

というわけでPC事情がいまいち分からない状態での参加ですので、わたしは参加タグはつけないことにしました。こちらが参加テンプレートだそうです。なるべく沿って書いていきます

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掌編「西からの使者、空に。」

掌編「西からの使者、空に。」

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星語《ホシガタ》掌編集*12葉目

(4352字/読み切り)

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空は夜でもなく昼でもなく、なんというか“灰”だった。

遠くの方で、ゴゴ…と不穏な音が響く。

西の空だけがまるで大きな蛍光灯を消し忘れたような、うるうると不気味な白さのまま、ずっと沈みもせず、満ちもせず、欠けもせず、ただ往来のわたしたち、虚無、空っぽの横顔を薄暗く照らしていた。

───買い出し用のリュック

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掌編「歪なクッション」

掌編「歪なクッション」

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星語《ホシガタ》掌編集*11葉目

(3355字/読み切り)

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チクチクチク、チクタクチク…。

気づけば、どこかの寒々しい暗闇の中、肩にショールもかけず、小さな蝋燭の灯りに目を凝らしながら、───何かを必死で縫っていた。やたらとちいさな…10㎝あるかないか。ぐらいのなにか。

今様色…?紅色…?いや、もっと彩度が高い……猩々緋《しょうじょうひ》色…?の何か、一部が丸かっ

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ドラゴンと食パンサンドイッチ。

ドラゴンと食パンサンドイッチ。

ひと月ほど学校に行けなくなった事がある。夢を諦め、都落ちしたいい大人。自分に出来る事を探し直そうと選んだ学校だった。

臥せって臥せって、ある日の事、唐突に「高円寺の大家さんに会いに行こう」九州から新幹線に飛び乗った。(なんで急に…)金の心配をしつつ、ごんごん後ろに田舎町が飛んでいく。胸が高鳴った。

連なる山の尾根尾根はまるで並走するドラゴンの背。私は途中からずっと通路に出て、抜きつ抜かれつ、光

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【短編】8月31日、切符を拾った。03

【短編】8月31日、切符を拾った。03

≪*夕方編*≫

***sideおおきな”わたし”***

西へ、西へ、西極《さいはて》へ…と雲たちが帰っていくような夕暮れ時だった。

「なるほど…」
「多肉ちゃんと朝顔が…」

お姉さんは、ただ、聞いてくれた。そして分かったような事も一言も言わずに「ジュースは体が冷えますから」とポットのお茶を分けてくれた。

真緒とまお。わたしとワタシ。おおきなわたしとちいさなワタシ。どこかのお姉さんに優しく

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