アナスタシアの話

これはネットに書いていいかどうかわからないのですが、もう3年以上たつし、時効かなと思うので書きます。
当時ツイッターでよくわからない(本当によくわからない)感じで絡んでくる男の子がいて、共通のリアルの友達がおり、生活圏も近かったのでお茶に誘われたりしていたのですが、タイミングが合わず、会ったことない状態でした。彼の名前を仮にバタやん、とします。
ある日バタやんからDMがきて、週末に長野に石を拾いに行かないか?と誘われました。意味がわからなかったのですが、ちょうど予定が空いてたのと集合場所が近所だったので行くことにしました。長野の山でコーヒーを淹れて飲もう、準備していくから!ということで、ハイキングみたいな感じかな、と考えていました。
他の友達も誘うということで、実際に行ってみるとワゴンにバタやんの他に同じ歳くらいの男女が乗っていました。女の子の方はクララといって、整体の仕事をしているそうでした。男の子の方はタケチョフといって、バタやんの昔の同僚で写真関連の仕事をしているそうでした。たぶん竹中とか竹下とかいう名前なんだと思うのですが、奥さんがロシア美女なので、タケチョフと呼ばれていました。2人とも私と同じようにバタやんに突然石拾いに誘われ、なんとなくついてきたとのことでした。しばらく話してみてわかったのですが、クララは見た目は落ち着いていますがバタやんに負けず劣らずハチャメチャな感じの人で、2人でずっと小学生みたいなネタで笑っていました。タケチョフは恐妻家であることをいじられつつも常識人で、脱線しがちな一同を軌道修正するような役でした。
タケチョフの運転でみんなでおやつを食べながら長野を目指しつつ、いろんな話をして過ごしました。石拾いというのはそもそも、長野の山で黒曜石に混じってガーネットが落ちていることがあり、それを拾いに来たこと。場所はネットの情報しかなくてだいたいしかわからないから、とりあえずそれっぽい場所で拾うつもりであること。拾ったガーネットはバタやんの彼女の誕生日に指輪に加工してプレゼントしたいこと。ロマンチックだけど無計画、まさにバタやんそのものだなあと面白かったです。唐突BGMがタケチョフのiPhoneのメタルになったり、ロシア民謡になったり、ほんとに和気藹々ってこういう感じなんだな、と思ったのを覚えています。
愉快な車内とは裏腹に長野に近づくにつれ雨模様になっていき、目的地(と思われる水辺)につく頃にはコーヒーどころではなくなっていました。せっかくだからと石を拾うものの、寒いし泥だらけになるし、黒曜石しかないしでみんなのテンションがしだいに下がっていき、最終的にはブーブーとバタやんに対して文句を言いながら、くる途中でみかけた茶屋みたいなところに雨宿りにいきました。
その茶屋はなんでこんなところで?という感じの場所にありましたが、ドライブ客がくるのか普通に営業していて、私たちはキノコそばとか山菜そばを食べて機嫌を直していました。ふと横のお土産コーナーをみると、地元の人が掘ったらしいガーネットが!しかも500円で!売られていました。バタやんは迷わず買っていました。
あんまりロマンチックではないものの当初の目的を果たした私たちは、やっぱり場所が適当なのがよくなかったんじゃないの〜などといいつつ、雨に濡れて寒いので、近くの温泉施設を目指します。
温泉施設につく頃には雨にもすっかり上がり、お風呂に入って売店でおやきでも買って帰るか、という雰囲気になりました。おやきには色々種類があったので、タケチョフは奥さんに何味がいいかきいていました。すぐ返信があって、「カボチャでいいんじゃない」と書いてあったので、なんで上からなんだよ、とみんなに突っ込まれつつ、アナスタシアは日本語勉強中だから、てにをはがおかしいんだよ!とフォローしていました。アナスタシア、というのがタケチョフの奥さんの名前でした。タケチョフはカメラとかレンズとかの性能について会社のブログでコメントする仕事をしていてたまに被写体にアナスタシアを選ぶので、みんなアナスタシアの顔を知っていました。
途中でバタやんが運転を代わったりもしましたがあんまりにも怖かったので、タケチョフの安全運転で無事東京に戻り、みんなでステーキだったかハンバーグだったかを食べて解散となりました。全員と初対面だったにもかかわらず、かなり楽しく、ハチャメチャな2人にはともかくタケチョフにはお世話になったなあ、次会ったらお礼をいわないとな、と思いました。
それから半年ほど経った年末、バタやんから忘年会のお誘いを受けました。主催がバタやんの友達で、冒頭に書いたリアルな友達とも知り合いとのことでしたが私にとってはまったく知らない人たちの集まりだったので、特に忘年会で忘れることもないだろ!と思ったのですが、なんとなく参加しました。
ピーコックで買い出しをして、主催のカメラ屋さんに集まった面子はカメラ屋さん、クララ、石を集めてる女の子、美容師のルイージ、バタやん、バタやんの彼女、私でした。石を集めている女の子は名前を忘れちゃったのですが、なんか石にハマってしまったらしく、仕事を辞めてニュージーランドに行くとのことで、石とニュージーランドとどんな関係があるのかよくわかりませんでしたが、いろんな人がいるなあと思いました。ルイージは美容師とのことだったのですが、髪型がイマイチだったので、この人には頼みたくないなあと思いました。タケチョフはいませんでした。タケチョフどうしたの?とバタやんに聞くと、なんか連絡取れないんだよね、、、とゴモゴモ言っていました。ケンカでもしたのかな?と深く考えずに、忘年会が終わって帰りました。クララがなかなかカメラ屋さんから出てこなかったのですが、トイレかな?とこれもまた深く考えずに帰りました。
それからさらに数ヶ月経って、バタやんと2人で表参道でお茶をすることになりました。みんなは元気?と聞くとバタやんは歩きながら、タケチョフが消えた、と答えました。
長野に行ったあとのある日、バタやんとタケチョフは会う約束をしていて、タケチョフが遅刻してきたそうです。アナスタシアのプリウスで自宅から移動しているはずのタケチョフが全然違う方向から電車できた。しかも昼に食べたと言ってるラーメン屋は移動経路上にはない。バタやんは以前からタケチョフは話を盛るな〜と思っていたらしいのですが、なんかおかしいなと思い、アナスタシアの写真を画像検索してみたそうです。アナスタシアはx-videoのキャサリンでした。会社のブログに載っているどのアナスタシアも、全てキャサリンでした。
バタやんは、最初は気づかないフリをしようと思ったのですが、会社のカメラブログに拾い物画像を載せるのはまずいと思い、他の人には黙っているから、それだけはやめろと伝えたそうです。それからタケチョフは電話もメールも繋がらない、音信不通になってしまいました。
クララや私には黙って置くつもりだったけど、忘年会のあと、おかしいと思ったクララに詰めよられて話してしまった、だから私にも伝えておく、と。
タケチョフ本人に連絡が取れないからなぜそんなことをしたのかわかりませんが、バタやんと一緒に働いていた数年前から、アナスタシアは存在したそうです。そんな何年もの間、誰もいない阿佐ヶ谷のアパートで、x-videoのキャサリンの画像を加工し、興味もないロシア語を勉強し、Facebook上何度もロシアに行ったことにする。そんなことに時間を費やしつづけていたんだ、と考えるとそら恐ろしくなりました。

あれから3年過ぎ当時のことを文章にまとめてみると、あれは本当にあったことなのかなあと思います。この話はバタやんからしか聞いていないから、全てバタやんの妄想かもしれません。もし本当に、アナスタシアがタケチョフの妄想だったとしても、長野で石を拾っていたあの日、私にとってはアナスタシアは確かに存在したし、アナスタシアを作っていたのはタケチョフの闇ではなくて愛だったんじゃないのかなと思うのです。

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