書評『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』鈴木 忠平著

今年の4月、北海道日本ハムファイターズの新本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」に観戦に行ってきました。

グラウンドと客席がとても近く、臨場感が凄まじかったです。
球場内にはホテル、温泉、居酒屋横丁などがあり、球場外にはアスレチック、グランピング施設、ドッグラン、農業体験施設など、野球観戦以外のアクティビティも充実しています。
まさにただのスタジアムではなく、ボールパークを作り上げたということでしょう。

そんな「エスコンフィールドHOKKAIDO」ですが、北広島市という小都市に建てられました。
何故人口200万都市の札幌市ではなく、人口6万の北広島市に創られたのか。

その理由が、『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』というノンフィクション小説で描かれています。

この作品では、大きく二つの話を軸にストーリーが進められます。

一つは日本ハムファイターズ 球団経営サイドの話。
もう一つは北広島市 市役所サイドの話。

日本ハムファイターズはダルビッシュ有や大谷翔平というスターを輩出した球団ですが、輝かしい実績とは裏腹に、本拠地札幌ドームには高すぎる使用料や、コンサドーレ札幌との共用のために地面の固さなどの環境面を改善出来ないというジレンマを抱えていました。

そんな中、今作の主人公であり、事業本部長である前沢 賢氏が「新球場 ボールパーク構想」を打ち出しました。
ですが球団幹部は、全く相手にしませんでした。

総工費600億円という数字があまりにも現実的ではなかったからです。
日本ハムファイターズは食肉業界のトップである「日本ハム株式会社」を親会社に持ちながら、独立採算の形をとっており、これまで球団経営には親会社は関わってきませんでした。
しかし、親会社からの資金援助がなければ、球場をつくることは出来ません。
「新球場 ボールパーク構想」実現の為には親会社からの資金援助をとりつけるという大きなハードルがあったのです。

そして大きな問題点がもう一つ。
どこにボールパークを造るのかです
ただの球場ではなく、周りに商業施設や宿泊施設や遊園地など、野球を中心に人々が交わりあうコミュニティを創るのが今回の計画です。
それを実現できるだけの敷地が札幌にあるのか・・・。
そこで候補地に浮上したのが北広島市です。

北広島は人口減少の一途を辿っており、そんな状況を打破すべく、50年手つかずだった、総面積56ヘクタールの敷地の整備、開発に乗り出します。

北広島市市役所の川村 裕樹氏が、プロジェクトリーダーに任命されました。
川村氏には、北広島市に野球場を創るという夢がありました。
日本ハムファイターズに2軍戦の数試合を、新しく建設する球場で開催できないかと相談を持ち掛けましたが、窓口を担当していた前沢氏から「札幌ドームから本拠地移転の計画があります。その候補地として、北広島さんの名前も挙がっています。2軍戦ではなく本拠地の移転先として考えさせていただけませんか」と告げられます。
そうして北海道で圧倒的な商業圏を持つ札幌市との誘致コンペに発展していきます。

この作品を読んで、数々の困難を乗り越え、今のエスコンフィールドがあることを知りました。
前例がないことに挑戦する球団の姿勢は、まさに二刀流に挑戦した大谷翔平を彷彿とさせました。
ファイターズファンにも、そうじゃない方にもおすすめできる一冊となっています。

最後に、一番心に残ったワンフレーズを紹介します。

「大事なのはどこで何をするのかということよりも、誰と何をするのかということです。」







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