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11月生まれの弥生ちゃん(4)〜弥生ちゃんを取り戻す・復帰戦〜

家族や、夫ちゃんの助けを借り、ようやく岡山に帰って来れた私は、ひどい倦怠感・不眠・被害妄想・無気力etcで、食事をとり、薬を飲み、眠り続けた。

唯一、外出するのは当時、転機与砲が手がけていた市民舞台「STAR」の稽古。

「何もしないよりはマシでしょ?」と、夫ちゃん(当時はまだ彼氏ちゃん)が、音効オペレーションとしてスタッフに組み込んでくれたのだ。

なんとなく現実感のない日々だった。
薬でぼーっとしているのもあったけれど、自分がいた劇団が市の事業に関わる団体にまで成長していることが、どこか信じられなかった。

STARは宇宙人が倉敷に逃げてきて、倉敷の街で人々と交流し、いろんなキャラクター達がドタバタ騒ぎを起こす、転機与砲のテイストをちょっとマイルドにした作品だった。

市役所ロボという、倉敷市役所のデザインを元にロボットをデザインして、舞台上に顕現させた。
何ふざけてんだ、と思われるかもしれないが、大真面目にそれをやるのが劇的集団転機与砲なのだ。
(過去〜現在に至るまで、ロボット・フェンリル・悪霊etc、クライマックスの十数分に超デカイ舞台装置をお見せする。それが劇団付き作家の一人である限界妄想の作風なのである)

なんか、規模がでかくなって、すごい事業の片棒持ってるけど、転機与砲は転機与砲。
本質は何にも変わっていない。

市役所ロボのデザインを打ち合わせ、変形ギミックをアニメーションに出来ないか検討したり、どうやったら市役所ロボを動かせるか考えたり。

本気で座付作家の限界妄想は、頭が禿げ上がるくらいに考えていたのである。一生懸命、考えているのである。

「なんでこんなに馬鹿馬鹿しいことを、私よりも10才以上上の男性が一生懸命考えているのだろう」

改めて素直に私はそう思った。
それは嘲りでも、なんでもない。
尊敬に近い感情だった。

本質は、何にも変わってない。

転機与砲の劇団員たちも、スタッフの方も、舞台に参加した役者さんたちも、バカだなぁとか言いながら、それでも舞台を作るのだ。
そして、互いの健闘を称えて、笑いあうのだ。

STARが終わる頃、私は少しずつ一人で外に出かけられるようになっていた。


2010年、5月。
劇的集団転機与砲 アナザー公演 vol.3
「空の向こうの作り方」
(http://tenkiyohou.net/rireki/rireki_detail.php?id=SM)

市民舞台を終えた後、少し長いお休みを取った転機与砲の復帰公演。
私はこの舞台で役者としての復帰戦を迎える。

作者は奇しくも、初演舞台の「夏の魔法の作り方」と同じ作者だった。
演出は、初演出をとる後輩の女の子だった。

私は黄色いパーカーがトレードマークの、存在感が薄い「葉山 透子」を演じた。

この舞台は特殊能力を一人が一つ持っていて、その能力を使ってデパートの権力を争い、戦いあうというお話だった。

一見設定を説明すると訳がわからない話だが、自分の個性って能力じゃん?
優劣もなんもない、使い所次第だろ?
っていうお話だった。
なかなかこの作家さんは、本当に優しい話を書く人なのである。

透子ちゃんは存在感が薄いゆえに透明人間になれるという設定だった。役者が自分が演じるキャラクターの名前を決めてよかった。
葉っぱは山の中に隠れる、存在感が薄いから透子ちゃん。
そんな単純な理由で、命名したと思う。

スタッフ・役者あわせて10名程度の舞台だった。

アナザー公演とは、転機与砲が「劇団員の育成」のために行う公演である。
当時は、制作・舞台づくり・作品の創作に至るまで、既存のスタッフと相談しながら、作品に参加する若手だけでやっていくという主旨のもと行われていた。
冠に「転機与砲」の名前をつけてあることで、実験公演だから失敗しました!という結果を招けない。
若手のチャレンジをしっかり試す公演なのである。

この公演で私は、役者としての復帰だけでなく、照明のプラン作成をすることになった。

端的に言って、マジで照明スタッフは向いてなかった。
手元にトライアンドエラーする環境がないこと。
イメージを考えても、それが現実的にどう視覚効果を与えるのかを想像するだけの材料がないこと。
極度の高所恐怖症であること。

そして、その恐怖症を忘れられるくらいにのめり込めなかったこと。

照明スタッフさんは、立体的にものを組み合わせられる人が向いていると心底思った。
その場で、ああしたら綺麗に見える、こうしたらこう見えるから、こうしようってどんどん視覚的な想像が湧く人に向いていると思う。
完全にセンス系のスタッフワークだと思った。

残念ながら私にはライブで想像を立体化していく能力は備わってなかったのだ。
照明ひでえなぁと、今もDVDを見ると思う。

この体験を通じて、私はあることを考え始めた。

「私は一体舞台に対して何ができるんだろう?」

転機与砲は、全員で舞台を作る劇団だ。
私は手が不器用で、できることといえばパソコン使った作業くらい。
仕込みも、バラシも何も専門的にできることはなかった。
スタッフ力、舞台人としての能力は、新しく入ってきた劇団員たちにすら何も胸を張れるものがなにもなかったのだ。

私にも、任せとけ!これならできる!と言える何かが欲しかった。

以降、私は舞台に対して、劇団に対して何ができるかを模索することとなる。

まるで社会から必要とされなかった自分が、役に立つことを、誰かに証明するかのように。
傷ついた自尊心を回復させるかのように。

私は、ほんのり暗い情熱をかかえながら、「月邑 弥生」を取り戻した。

その暗い情熱が、どんな結果を生み出すのか。
それはまた、別のお話。

次回、激闘!GAIA編に続く。

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ご覧いただきありがとうございます。
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弥生

岡山でアマチュア劇団「劇的集団 転機与砲」に所属中。

11月生まれの弥生ちゃん

11月に生まれ、「弥生」と名付けられた私。 なんの変哲も無い人生が、お芝居に出会い、ほんの少しだけ変わっていきました。 そんなセルフストーリーを綴る、超誰得?な自伝マガジンです。
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