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レノファ山口分析のフレームワーク(参考:『モダンサッカーの教科書』)


※例によって無料で全文読めます。。。


 まずは宣伝から。。。

 サッカークラスタ諸兄におかれましては既に購入済みかと思いますが、「モダンサッカーの教科書(著:レナート・バルディwith片野道郎)」というステキ書籍が絶賛発売中です。
 そしてこの本の内容に「チーム分析のフレームワーク」というものがありまして、分析担当としてセリエAでもコーチを務めたレナート・バルディ氏が対戦相手を分析する際に実践している行程が紹介されています。
 本来は対戦相手を分析するためのものですが、これを使って自分の応援するチームを研究してみると面白いのでは…?と思っていたら、すでにやっていらっしゃる方々が。

 よきお手本が既にありましたので、わたくしも先達に倣って分析みたいなことをやってみました。

 サンプル試合は、特定の試合をじっくり観返して場面を探すのが面倒なので今季前半戦全体ということで。ただなるべく、単発ではなく複数の試合、場面で見られた「再現性のある事象」を抽出することとします。


 最初にレノファの基本システムについて。

 今季のレノファは、ほぼすべての試合を4-3-3システムでスタートしています。
 両ワイドはサイドハーフというよりも、高い位置取りを意識しウイング、ワイドストライカーとしてのタスクを背負います。中盤の構成は逆三角形でインサイドハーフ2+アンカーのトリオとなりますが、それぞれ選手の個性、役割が異なりますので、便宜上

シャドウ(OM、アタッカー的役割がメイン)
攻撃的ボランチ(CM、プレイメイカー的役割がメイン)
アンカー(DM、中盤の底で起点となる)

と呼称します。のちの分析にこの名称が出てくるかどうかはわかりませんが。

各ポジションで主に起用されている選手は以下のとおりです。

FT・・・オナイウ阿道
右WF・・・小野瀬康介
左WF・・・高木大輔
OM・・・山下敬大(大﨑淳矢)
CM・・・池上丈二
DM・・・三幸秀稔(佐藤健太郎)
右SB・・・前貴之
左SB・・・鳥養祐矢(瀬川和樹)
CB・・・渡辺広大、坪井慶介(ジェウソン・フラガ・ヴィエイラ、ヘナン・ドス・サントス・パイシャオン)
GK・・・藤嶋栄介


 さて、それではフレームワーク分析に入っていくわけですが、「モダンサッカーの教科書」によると、対戦チームの分析は4つの局面(+セットプレー)で行うとあります。

 サッカーには「攻撃」と「守備」の局面が存在しますが、野球などと違って攻守の明確な区切りが存在しないサッカーにおいては、攻撃⇔守備の切り替え(トランジション)時にどう振る舞うのかが重要となります。特に現代サッカーではプレースピード、切り替えのスピードが著しく高速化しており、攻守が限りなくシームレス(継ぎ目がない状態)化しています。
 そこで、現在では攻撃と守備という概念だけではなく、ネガティブトランジション(ボールを失った際の守備への切り替え)、ポジティブトランジション(ボールを奪った際の攻撃への切り替え)の局面を合わせて考え、整備することが重要となっています。



 レノファの分析において、どのパートから書くのが良いのか迷ったのですが、レノファの特徴と言えばやはり攻撃的なサッカー。
 となれば、良い攻撃は良い守備から、ということで、まずは4つのフェーズのうち【守備パート】について。



 バルディ氏は守備パートを「プレッシング」「組織的守備」のふたつに大きく分けています。

【守備パート】

◇プレッシング
  ⇒ 超攻撃的プレッシング/攻撃的プレッシング

 敵陣でボールを保持している相手に対してアタックする「プレッシング」、いわゆる「プレスを掛ける」場面について。
 これについては、今季レノファの試合を観たことのある人はだいたいご存知かと思いますが前から前から、相手センターバック、果てはゴールキーパーまで突撃を敢行します。「超攻撃的プレッシング」に分類していいでしょう。

 所謂ゲーゲンプレス。
 プレスの種類としてはマンツーマン志向が強く、ゲーゲンプレス4分類のうち「パスの受け手制圧型」に近いと思われます。本家レッドブル系に比べるとワーワー度はやや控えめ。


 逆サイドのウイングはサイドチェンジに備えつつ、ボールサイドへ激しく寄せていきます。
 特徴的なのは、ファーストプレスが少々外され気味なっても後続が続いて追い込みをかけること。霜田監督のコメントに「1人目、2人目で取れなくても6人目、7人目で取り切れればいいと話している。」とあるように、圧を掛け続けて相手のパスコースを少しずつでも限定していくことで、中盤~ディフェンスラインで前向きにインターセプトして速攻に繋げる、という場面が目立ちます。

3バックの相手に対しても、逆サイドや背後の選手へのコースを切りながら(シャドウカバー)、積極的に3トップがプレッシングに行きます。

 このように積極的なプレスを行うことで、高い位置で前向きにボールを奪取して素早い攻撃を繰り出すのがレノファの特徴と言えます。
 逆に人への意識、前への意識が高いため、プレスが甘くなって正確なサイドチェンジを許したり、前線で起点をつくられた場合は一挙に数的均衡or数的不利を強いられ、あっさりと失点する場面もままあります。プレスの強度維持と大きな展開への対応はまだまだ課題を残していると言えるのではないでしょうか。


◇組織的守備
 プレッシングはファイナルサードとミドルサード(ピッチを3分割した敵陣側と真ん中)までをカバーする守備戦術と言えますが、その網を掻い潜られた場合の、ファーストサード(自陣側3分の1)での守備を「組織的守備」とバルディ氏は呼称しています。

 日本では「ブロック守備」とも言われますが、この局面にもチームの性格が出ます。
 レノファの場合は、自陣での組織的守備においてもゾーンを敷いて待ち受けるのではなく、人への指向が強く出ます。アンカーの三幸などもボールサイドへ激しく寄せるため、圧縮が間に合わない場合のアンカー脇、3列目からの走り込み、逆サイドの大外は弱点と言えるでしょう。
 また千葉戦のように、相手がポジションチェンジを多用してきた際にギャップやミスマッチが生まれやすいことも今後の課題と言えます。

 6節松本戦、ソリボールにより相手シャドウにアンカー脇を狙われる。

 13節京都戦、高い位置へ進出したボランチ(仙頭)をフリーにして、そこから起点をつくられ失点。

 11節新潟戦、逆サイドの大外を突破されてからの失点。


 上記のプレッシング、または組織的守備が成就するとボールを奪取できるわけで、攻守が切り替わります。
 守備フェーズが終了し、守備から攻撃の狭間、冷静と情熱のあいだの【ポジティブトランジション】フェーズに移行します。
 ちなみに本書によると、相手の【守備(どのように守るか)】と【ポジティブトランジション(ボールを奪取した後どのように振る舞うか)】をセットで考えて同じ曜日にトレーニングをする、となっています。


【ポジティブトランジション】
◇ショートトランジション
 敵陣でボールを奪った際の「ショートトランジション」では基本的に最短距離でゴールを目指すことになるため、『分析の余地はあまり無く、戦術よりもアタッカーの特徴に左右される』とのこと。
 レノファの場合はアタッカー陣の個性(小野瀬のドリブル突破/オナイウのダイレクトシュートや謎反転シュート/高木大輔の斜めに前線に入る動き/山下や大﨑の裏抜け)を組み合わせたコンビネーションが主となります。


◇ミドル/ロングトランジション
 自陣でボールを奪った際の選択肢は、いわゆるポゼッションを確立するのか、素早くボールを前線へ運ぼうとするのか、大きく分けて二つとなります。

出典:データによってサッカーはもっと輝く Football LAB

  上記の指標からはポゼッションよりも早い展開を志向していることが読み取れますが、印象としてはもう少し自陣からのビルドアップを多用しているイメージがあります。これはデータ上「20秒以上ボールを保持した攻撃」がビルドアップとして計上されているからではないかと思われます。
 レノファのゲームモデルとして『ボールは大事にするが、無駄なポゼッションはしない。スピーディに攻撃する』という指針がありますので、ビルドアップにおいてもゆっくりと回してリズムを作ることよりも、可能な限り素早い展開が求められます。そしてロングカウンターの指標が高いからといって、ビルドアップが整理されていないわけではありません。ロングボールとポゼッションを柔軟に使いこなすことを目指しています。


 このミドル/ロングトランジションでどのように振る舞うか、具体的に掘り下げていくのが3つ目の局面【攻撃パート】になります。


【攻撃パート】
 攻撃パートは自陣でGKやCBを起点に組み立てる「ビルドアップ」と、敵陣にボールを運んでからの「ポジショナルな攻撃」に大別されます。


◇ビルドアップ
 「ビルドアップ」について、後方でショートパスを繋いで前進することがそれに当たると思われがちですが、ここでは『敵の第1プレッシャーラインを越えるための攻撃アクション』を指します。

 ビルドアップはさらに、いわゆる「縦に早い攻撃」な『ダイレクトなビルドアップ』と、パスを繋いで前進する『ポゼッションによるビルドアップ』に分かれます。


  ⇒ポゼッションによるビルドアップ

 レノファの「ポゼッションによるビルドアップ」は、上図のようなイメージで展開されます。(必ずしも全選手が同時にこの様な動きをする、というわけではなく、あくまでイメージです。)

 DM(アンカー)はDFラインに下りて3バックを形成。
 CM(攻撃的ボランチ)も連動して位置取りを下げ、FWの間や脇などでビルドアップの出口となるポジショニングを取ります。
 OM(シャドウ)は逆に、相手ボランチの背後や裏抜けを狙うアクションが多いように感じられます。

 サイドバックは押し出される形で高く位置取りますが、右サイドバックの前貴之は内へ絞った特徴的な動きを見せます。いわゆる「偽サイドバック」的なポジショニング(勝手に命名:前貴ロール)により、組み立てへの関与、右ウイング小野瀬へのパスコース確保、ネガティブトランジション時のハーフスペースの防御など、多くの役割を果たしています。知らんけど。

 3トップは幅と深さの確保を担い、両ウイングは相手DFを拡げるべく、スタートポジションをなるべく広くとることが求められています。(もちろん、最終局面ではワイドストライカーとしてゴール中央へ殺到します。)
 中央のオナイウは相手CBとの駆け引きが主任務ですが、ピン止めをウイングに任せてゼロトップ的に下りてくる動きも多用します。ただあまり捌きが上手い選手ではないので、効力としては正直疑わしさがありますががが。。。

 ポゼッション時のメカニズムはこの様な感じになりますが、あくまで「ポゼッションは手段のひとつ」のため、ゆっくりとボールを回すのではなく、素早いパス回しから縦への長短のパスを付けることが求められています。


⇒ダイレクトなビルドアップ
 「ダイレクトなビルドアップ」についても多くの場合アンカーの三幸が起点となりますが、攻撃スピードを重視するため三幸に一旦預けることにはこだわらずに、GKやCBからも(精度はともかくとして)躊躇なくロングボールや縦パスを発射します。
 ターゲットはFTのオナイウが主となりますが、オナイウのキャラクターから裏へ一発、というのはほとんどなく、頭or足元への供給がメインです。また、攻め残りを多用するウイング目掛けて、サイドへ直接供給する場面も多くみられます。
 この際、インサイドハーフの2枚(OM、CM)はセカンドボール奪取のため、アンカーから離れて相手のライン間へ侵入、ウイングへ寄るなど高い位置を取ろうとします。


◇ポジショナルな攻撃
 ビルドアップにより、ロングボールorショートパスにて前進して敵陣に入り込んでからの攻撃が「ポジショナルな攻撃のフェーズ」です。

 レノファの攻撃というというと「ショートカウンター」のひと言で総括されがちなところがありますが、ところがどっこい、ポジショナルなフェーズではポジショナルな配置をけっこう見せます。特に幅を広く使うこと、5レーンやスクエアを意識した配置を取ることはかなり仕込まれており、J2のポジショナルプレー番長徳島との対戦でも、そうそう引けは取りませんでした。たぶん。


 サイド攻撃で顕著なのが、ウイング・インサイドハーフ・サイドバックが完全なる黄金の回転エネルギーで頂点を変えながらぐるんぐるん回る回転アタック。(画像はISHふたりにはなってますが)これで相手を動かして、陣形の破壊を試みます。

 また、クロスが想定される場面ではかなりの頻度でFTがファーサイドに位置取りをしており、相手を拡げることと2列目がニアサイドに飛び込んでくる動きがセットになっています。ここでも「幅を取ること」が強く意識されています。



 そして盛者必衰、栄枯盛衰、形のあるものはいつか必ず終わりを迎えるように、楽しいマイボールの時間にも終わりの時がやってきます。関係ないですがこれを書いている際にちょうど、20年近く連れ添った冷蔵庫が寿命を迎えました。さらに余談ですが、リーズが最後にプレミアリーグに所属したのは2003-2004シーズンです。ちくしょう。


 プレーが切れない状況でボールを失った場合、可及的速やかに守備への切り替えをする必要があります。この攻撃から守備への切り替えの瞬間、ボールを失った際にどう振る舞うのかが「ネガティブトランジション」の局面です。
 ネガティブトランジションの枠組みは大きく「(即時奪還を目指す)ゲーゲンプレッシング」と「(撤退して守備陣形の整理を優先する)リトリート」に分かれます。レノファがどちらを選択するかは明々白々ですね。


【ネガティブトランジション】
 ⇒ゲーゲンプレッシング
 基本的に「攻守は分けない」「失ったボールはすぐに取り戻す」「諸君、狂いたまえ」がゲームモデルなレノファにとって『撤退』の二文字はありません。吉田松陰ドクトリンである『狂気』に則って突撃を敢行します。プレスが効かなかった場合は結局のところ撤退させられるわけではありますが。。。
 先述した「ポジショナルな攻撃」にてポジショナルな配置に気を使っているレノファですので、良い攻撃が出来ているときはゲーゲンプレスがしっかりと機能して波状攻撃を仕掛けることが可能です。特に右サイドからの攻撃が多いなか、前さん(前貴之)のハーフスペースを閉鎖する位置取りが非常に効いていて、カウンターを未然に防ぐ場面が何度も見られました。

 ただちょっと、7月に入ってからは「良い攻撃」が出来ておらず、不味いボールの失い方が多くネガトラ以前の問題な状況に陥ることが多くなっています。攻撃がバタバタしがちになるのは池上丈二離脱の影響も大きそうですが、ここはしっかりと改善が必要かと思われます。



 これでようやく4つのフェーズが終了……。あとは【セットプレー】が残っていますが、そろそろ力尽きてきたのでざっくりと終わらせます。。。


【セットプレー】
◇ゴールキック
 まずはCBへのパスを目論みますが、相手がマークに来るようだとオナイウ、小野瀬、山下あたりを目掛けて普通に蹴ります。CBへ渡した場合もそこから上手く前進した、というイメージがあまりなく、まだまだ整備が必要な分野にも感じられます。

◇スローイン
 ファイナルサードでのスローインの場合、一度落としてから即クロス、という場面はほとんどなく、コンビネーションでの突破を試みるか、後方へ戻して組み立てを図ることが多いように見受けられます。
 高木大輔がロングスローという武器を持っていますが、あまり練習していないのか効果的なロングスロー戦法というのはこれまでは見受けられません。(練習してない感全開のやつは一度ありましたが…。)
 逆に自陣スローインの際に、高木大輔のロングスローでゴリ押し陣地回復、という場面は何度か現出しています。ある意味効果的な使用方法かもしれません。

◇コーナーキック
 コーナーキックはあまり入らないというか、攻守ともにセットプレーに弱めなのがレノファの伝統です。
 高さにそこまで強みが無いので、ショートコーナーを多用したり、配置をいろいろ工夫したりしてますが、今季まだ1回くらいしか決まってない気がするのでここではカッツ・アイします。

◇フリーキック
 伝統的にセットプレーに弱いレノファ、実は直接フリーキックも全然決まっていません。
 昨季、一度ボールを動かしてからの無回転前貴砲がさく裂しましたが、ボールを動かさずに「直接蹴り込んだ」フリーキックが最後に決まったのは地域リーグ時代まで遡らなければならないという状態です。
 池上丈二、清永丈瑠、前さん、瀬川Dreamcast和樹など良いキッカーは揃っているのでそのうち決まるとは思いますが。。。


 以上です!!
 なんかもうダラダラと長くなってしましましたが、応援するチームを詳細に分析してみる、というのはなかなか面白い作業でした。(嘘です大変でした。)欧州コーチが実際に行っている手法を用いてとなればなおさらです。

 今回は前半戦の総括的な内容になりましたので、シーズン終了後にまたどう変化したか、改善されたかの振り返りが出来ればと思います。

 みなさんもぜひ「モダンサッカーの教科書」を購入して(重要)、自クラブの分析をやってみてください。

 最後に、こんな無駄に長い記事を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。


 それではみなさん、Até breve, obrigado.

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