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スペインでのPhDってどんな感じ?

私は今バルセロナの人口学センターでPhD課程をしております。社会科学系において,アメリカ以外でPhDを取っている人がなかなかいないことから,なんでスペインでPhDなの?とかヨーロッパでのPhDってどんな感じ?と聞かれることが多々あり,機を見てスペインでのPhD事情についてシェアしたいなぁと思っていました。やっとPhD最終年度に入り,少し余裕が出てきたために,少しづつ時間を見て色々日本語で書いていこうと思っています。

以下,スペインやヨーロッパのPhD全般に当てはまることもいくつかあるかと思いますが,当然住む場所や所属機関によって大きく変わることも多々あると思います。なので,あくまで私の体験しているスペインでのPhD事情という括弧づけで理解してください。

1. PhD環境

スペインのPhDは4年間で,アメリカのPhDコースとは異なり,マスター課程とは合体していない単独のPhD課程です。専門と大学にもよりますが,授業はありません。ですので学生というよりは,労働者(リサーチャー)として扱われます。そのため,ビザも労働ビザになり,契約上,週に37.5時間は研究所にいることが求められます。

2. どうやって入る?

たいてい,「XXをテーマとしたプロジェクトがYY名のPhD生を募集」のように研究所や大学から公募があり,それに申し込んでいきます。まずは書類審査があり,その後複数回の面接があり決定という感じ。プロジェクトベースの公募制なため,毎年必ず公募があるとは限らず,もし運が悪ければ行きたいところに行けないということもあるかもしれません。

このプロジェクトベースのPhDというのはヨーロッパ全般に見られる特徴だと思います。

3. 給与

スペイン政府や州政府から出ている研究費が,所属機関を通して支払われます。私のもらっている研究費は年に最高20,500ユーロ(月1,700ユーロ),最低16,422ユーロ(月に約1,350ユーロ)もらえる規定になっています。実際にいくらもらえるかは,所属機関が決めます。今(2019年7月4日)1ユーロ121円なので,マックスもらえて日本の学振と同じくらいでしょうか。バルセロナはなにしろ家賃が高いので,それほど贅沢はできないけれど,普通に暮らせるには十分くらいかな,という金額。物価の違いはあれど,多分日本でも同じ感じだと思います。

給与=研究費&生活費なので,基本的にもらった給与から研究に必要な費用(例えば本とか)を出します。学会やワークショップなどの参加にかかる費用も,基本的には自分の給与内でやりくりするのですが,ここは自分が所属している研究グループの研究費でまかなってくれることもままあります。何回,どのくらいの費用をカバーしてくれるかは,研究グループ長の裁量やその年の研究費の額によって変わってきますが。

僕の所属先だと,年にアメリカなど遠い学会1つ,ヨーロッパ内の近い学会1つというのが基本的な暗黙のルールって感じですかね。

4. 社会保障

労働契約なので保険入れます。スペインの病院は保険に入れていれば全部(歯医者以外)無料なので,この点は安心。

労働契約のもう一つの利点として,配偶者も労働ビザがもらえます。これはかなり大きいのではないでしょうか?基本的に配偶者は本人と同じ権限のビザなので,学生ビザだと正規労働(パートタイムはOK)ができません。。

5. 休日

ラテンのイメージ通り,休みはかなり多め。夏休みは15日間,冬休みは10日間で(土日入れると,夏は3週間,冬は2週間),研究所丸ごと休みに入ります。プラス,7日間の有給があり。それ以外にも14日間の祝日。まあPhDやアカデミアのポジションでは休みが多いのはどこでもそうだと思うので,これは特筆した点ではないかな。

6. 生活面

生活費はそれなりに高いです。バルセロナの中心だとシェアしてもだいたい最低400ユーロくらいはかかっている様子。外食も吉野家のような安くて一回の食事になるようなところがケバブくらいしかないので,しっかり食べようと思うと最低でも10ユーロはいきます。一般的なレストランで昼の定食も安くて10ユーロ以下のもありますが,だいたい13ユーロくらいなので,日本の定食に比べると高いことがわかるでしょう。なので,これは欧米圏のどこでも当てはまるとは思いますが,自炊をせずに外食中心の人は金銭的にかなり大変だと思います。ただし,これもどこの国でもそうだと思いますが,スーパーや商店では安く,新鮮な食材が手に入ります。野菜やフルーツはめっちゃ新鮮でほぼスペイン産なのもいいところ。肉類も安くて美味しく,魚は種類は豊富だし新鮮だけれど,肉に比べると高め。また,個人商店や市場が多いのもいいですね。毎回「おっちゃん,おばちゃん元気?」とか言いながら,今日はこれがおすすめだよ,とかこういう風に料理すると美味しいよ,などと会話しながら買うのが楽しいです。

あ,外食高めと書きましたが,カフェやビールはかなり安くて,約2ユーロで生ビールが飲めますよ!

7. 言語

私のいるのはバルセロナなので,街では第一言語はカタラン語,第二言語はスペイン語(カタルーニャの人はこの2つの言語を母国語としてほぼ同じレベルで話せます)。研究所でも同じです。研究所で送られてくるメールも基本はカタラン語。同僚はラテンアメリカ出身の人が多いので,ランチの時などはスペイン語で話します。私の研究所ではスペイン語圏以外から来ている人はかなり少ないので,英語で話す機会は少ないです。なのでスペイン語が全くわからない状態&勉強する気がない場合は結構きついと思います。もちろん,これは所属機関によって状態は異なり,例えば同じバルセロナにある他の大学では英語が共通言語になっているようです(そのため中には5年間住んでいて,スペイン語は挨拶しかできない人もいる様子)。

こんな現状なので,私は研究所では基本スペイン語で話しているのですが,スペイン語が基本会話になっていることの良いことは,英語へのハードルがかなり下がること。スペイン語で伝わらないときに,英語にスイッチするので,無理して英語を話している感じが全くなくなりました。これは,スーパーサイヤ人2になった後にスーパーサイヤ人でいることが余裕になるみたいな感じでしょうか。伝わらないかな,このたとえ笑

8. PhD後(ポスドク,テニュアのポジション)

ポスドクのポジションやグラントは結構あるイメージ。個人的なネットワークや十分なパブリケーションがあれば,ポスドクまでは結構簡単にできそうな印象を持っています。ですが,その後のテニュアはかなり厳しい状況です。私の研究所にも40代でまだテニュアを持っていない人が多々おり,しかもヨーロッパやスペインの大きい研究費を持っていてもテニュアになれていないので,テニュア獲得はかなり大変そうです。これはスペインだけではなく,ヨーロッパ全体で似たような状況らしいですが。


と以上,スペインのPhDについてかなり個人的な経験からですが,8つについて書いてみました。かなりリラックスした環境で,生活面も充実しており,PhDをやるには個人的にはベストなところに来れたなぁと感じています!

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