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『岩壁音楽祭 2022』のテーマ「Spectrum(スペクトラム)」ができるまで

9月17日(土)山形県瓜割石庭公園で開催される『岩壁音楽祭 2022』!

岩壁音楽祭は“オープンソースなフェス”としてフェス開催のリアルな内情を公開中。2019年は運営メンバーのコラム形式で発信しておりましたが、今年は今年度から運営スタッフに参加した筆者が、運営メンバーにインタビューする形でも知見を発信していきたいと思います。

前回の記事では、初年度開催終了後から『岩壁音楽祭 2022』を立ち上げるまでの運営メンバーの考え、アウトプットについてインタビューしました。

今回は今年度のテーマである「Spectrum(スペクトラム)」がどう生まれたか。その裏側に秘める想いについて、立ち上げメンバーの上田昌輝さん、後藤桂太郎さん、コンセプトを手がけた“素案チーム”のメンバーである植竹創さんに話を聞きました。

「初年度未経験」かつ「若手スタッフ」にコンセプト設計を依頼


──『岩壁音楽祭 2022』はいつ頃から動き始めたのでしょうか?

後藤 2021年12月7日に、久しぶりの前回会議をして。『STAY IN AMBIENT』の時同様に、次やるとしたらどんなフェスか、突き詰めた結果フェスという形にならないかもしれないけど一回テーマを考えてみようということで、皆でアイデアを出し合いました。その中で、今回は「1回目の岩壁音楽祭に行っていない」かつ「年齢が若いスタッフ」で“素案チーム”を結成し、コンセプト設計を任せてみようということになったんです。

──なぜ“素案チーム”を結成しようと思ったのですか?

後藤 2021年12月、「『岩壁音楽祭』2023年度以降開催に向けての下見」として、栃木県宇都宮市大谷町に岩壁スタッフ一同で足を運んだんです。その頃には岩壁スタッフは50名ほどまで増えていて、若い人もたくさん入ってくれた一方で、フェス開催経験者や技術スタッフなど、いわゆる“フェス・音楽のプロフェッショナル”も多くなっていました。

そうしたプロの方と現調に行くと、参考になる知見をたくさんシェアして下さって。それは本当に頼もしくありがたいことで、ただその反面どうしてもフェス未経験者は意見が言いづらく、「プロに任せよう」という雰囲気にもなってしまいました。

2021年12月、栃木県宇都宮市での下見の様子

そうした状況についてどうにかしなければと思っていて、定例mtg時に「みんな現状をどう思ってる?」とヒアリングした際に、若手スタッフから「小さいイベント会社みたい」というパンチラインをもらって。

正直、初期メンバーとしては衝撃を受けたというか、ぶん殴られたような気持ちになってしまいました。自分達としては“オープンソース”、“逆年功序列(若い人の意見を尊重する)”など既存のフェスのカウンターとして運営しているつもりでしたが、気がつけば自分達にもフェス開催の知見が溜まっていて、高齢化というか会社的な年功序列の形態になってしまっていて。僕たちも原点は「フェスをやったことない素人たちの初期衝動」で、それをどう実現するかでプロの手をお借りしていたので、まずはそうした「初期衝動」から出発しなきゃいけないのでは、と思い直しました。

そこで、初年度未経験かつ若手のスタッフに僕らから声をかけて、一度コンセプトの“素案”を考えてもらおうと考えたんです。ただ、もちろん作ってもらった素案をどう実現するかは運営メンバー全体で話す必要があったので、素案チームにベースを提案してもらい、フルスタッフで議論することでコンセプトを固めるという手法を取りました。

──コミュニティを見直す意味も含んだ“素案チーム”の立ち上げだったんですね。ここからは素案チームのメンバーの1人である植竹くんにも話を聞いていきたいと思います。まず、岩壁音楽祭チームに入ったきっかけから教えてもらえますか?

植竹 普段はコンサルティング会社で会社員をしています。僕は元々ウッドストック・フェスティバル※ が好きで。様々なフェスに関心を持つ中で、社会人1年目の時に「自分もフェスを運営する側に入ってみないと、どういうものかわからないな」と思いまして。

会社員がやってるフェスをずっと調べている中で、ある時SNSで岩壁音楽祭のnoteが流れてきて、記事の内容が論理的でありながら、すごくウッドストックみというか衝動でやってる感じを受けたんです。それを見て自分も「会社員だけどフェスをやりたい!」と思いました。その中で2019年9月、上田さんと桂太郎さんがDJ BAR KOARA(渋谷)で個人的にイベントを企画するというのをInstagramで目にして、「ベストタイミングだ!」と思い、イベントに足を運んで「運営に入りたい」と直接伝えたんです。

※ウッドストック・フェスティバル:1969年、アメリカ合衆国ニューヨーク州で開催された大規模野外フェスティバル。約40万人の観客を集め、1960年代のアメリカ・カウンターカルチャーを象徴する歴史的なイベントとなった。

後藤 そうして声をかけてくれたのは、当時植竹くんが初めてでしたね。嬉しかったなー。

キーワードは“生命力”。コンセプトができるまで


──素敵なきっかけですね。植竹くんも含めてできた“素案チーム”は、大半が20代前半で、バラバラな経路で集まった約8名。コンセプト設計を任された中で、チームでどうやって話を進めていったのですか?

植竹 まずは、「なぜみんな岩壁音楽祭チームに入ったか」から話をし始めました。がっつり運営をやりたい方もいれば、「友達が元々運営メンバーにいて面白そうだと思った」で来た方もいるし、「デザインを学びたい」って方もいて。それぞれが岩壁音楽祭にどういう角度でコミットしたいかをシェアした上で、次に岩壁音楽祭が元々持つ特徴をみんなで出し合いました。その中で、「コロナ禍を踏まえて自分達なりに咀嚼すると、2022年は何がしたいのか」、なるべく言葉に凝縮してみんなで持ち寄ったのがコンセプト設計の流れになりますね。

初期メンバーの2名にも、岩壁音楽祭の核となるコンセプトのヒアリングを重ねたそう。

バイブス合わせをしようということで話し合いを重ね、「運営チームはもちろん、来場者も岩壁コミュニティの延長にいるよね」というようなイメージをすり合わせていって。その中で頻出したワードが、「フェスに全然行けない中で“生命力”を見たい・感じたい」というもの。それはアーティストのパフォーマンスはもちろん、石切場という、石工が4,000回掘削して1メートル角の石を切り出してきたという岩壁の場所が持つパワーにも通ずるところがありました。

“生命力”なるパワフルなものにする、かつ岩壁らしさ /  開催場所の核になる“岩”を大切にする。それをどういうテーマに落とすのがいいかと話し合っている中で、同じく素案チームの小野くん(現岩壁音楽祭のTwitter担当)から出てきたのが、「グラデーション」という言葉でした。それがのちに「Spectrum(スペクトラム)」に転じていった形です。

“素案チーム”も生命力を強く感じたという、瓜割石庭公園の岩壁

──その時点の「グラデーション」というワードにはどのような意味合いが込められていたのでしょうか。

植竹 たくさんあるのですが、まずは「フェスとレイヴが地続きになっている」という岩壁音楽祭の元々のテーマ性。また、岩壁音楽祭が主催するイベントではレイヴ的な音楽もやっていれば『DRIVE IN AMBIENT』『STAY IN AMBIENT』のようなアンビエントも取り入れていたり、音楽の特性的な面でも様々な要素が入ってきているところ。マインド面でも「ぶち上がって踊りたいけど落ち着いてメディテーションもしたい」という、シームレスにつながってる意識。生活(日常)とフェス・イベント・祭り(非日常)は地続きだという感覚。3年越しにようやくフェスができる、“夜明け”的な感覚もグラデーションと言えるのではないか。とにかく「グラデーション」という言葉から色々連想されますし、いいワードなんじゃないかと。それが今回のテーマの素案になっていった感じでしたね。

他にも出てきたワードとしては色々ありました。例えば“初期ニコ動”、これはバイブスを共有しているというか、「知ってる人は知っている」というニュアンスです。初年度開催のnoteをみて当事者になりたい人が素案チームにも多かったので、こうした感覚は特に強かったのかなと。あとは「岩の声を聴く・岩の音を聴く」。伝わるかはわかりませんが「岩に還れ」というワードも素案チーム内では響いてましたね。12月に素案チームを結成してから、岩壁スタッフ全体に発表したのが2月8日。それまで対面やZoomで、とことん話し合いを重ねていきました。

MTG当時のメモ

──たくさんの議論を重ねて生まれた「グラデーション」というコンセプト。それを受けて初期メンバーの2人はどう感じましたか?

上田 率直に「めっちゃいいな」と思いました。コンセプトって1人もしくは少人数で考え切らないと突き詰められない部分があって。それを初年度未経験・かつ若いスタッフがやりきってくれたことですごく説得力がありましたし、全体としても「やり抜こう!」というモチベーションになりました。

後藤 「グラデーション」というテーマ、すごく岩壁っぽいし共鳴した感じがありましたね。「フェス・音楽が好きだから行きたい」「フェスなんて危ない」という分断が生まれてしまったコロナ禍で、素案チームから出てきたテーマは”なだらかな解放”とか“アゲアゲじゃない方が今行きたい気分”というもので。これってフェスを生業にしてない人たちがプライベートで企画するならではの、まさに岩壁音楽祭にぴったりなテーマだなと思いました。ちゃんと時代にも呼応しているし、岩壁でしかやれないんじゃないかなと思いましたね。

──初期メンバーも含めてしっかり刺さったんですね。ちなみに、コンセプト以外でも素案チームでは色々と練っていたのですか?

植竹 
そうですね。まず2dayじゃなく1day開催という部分。これはコロナを経ての参加ということも踏まえた体力面や、「2022年、久しぶりのフェスにどういうモチベーションで参加したいか」お客さん目線で考えた時に1dayだよねというのと、若い方(20代前半)にもたくさん来てほしい中で、金銭的に1dayの方が行きやすいんじゃないかという部分。あとは、山形をたくさん楽しんでほしいと一同思っていて、それもあり9月いっぱい開催される『山形ビエンナーレ』と被る9月17日(土)を開催日として選びました。山形を観光して、美味しいご飯を食べてほしいという想いは強いですね。

アーティストラインナップは本当にたくさんディスカッションを重ねた上で、今の出演陣が決まっています。実は、ヘッドライナーに芸人を入れるという説もあったんですよ。

あと、「モノを作れるワークショップ」など出店も賑やかなお祭りみたいにしたいという話は最初からしていましたね。結果、今回はキャンドルワークショップやタイダイ染めを予定しているのと、チケットがなくても楽しめる“IMONIエリア”を用意することになっています。『岩壁音楽祭 2022』の個々のエリアでの企画のタネになる要素は、素案チームで先立って話していたかもしれないですね。

伝えたい思いが凝縮された「Spectrum(スペクトラム)」


──今年の岩壁音楽祭の核は、本当に“素案チーム”が形作っていったものだったのですね。「グラデーション」というテーマは最終的に「Spectrum(スペクトラム)」というワードに。ここにはどのような背景があったのでしょうか。

後藤 「グラデーション」というテーマでコンセプトをキービジュアルに落とし込む中で、運営スタッフみんなで参考画像を収集していて。その中で、元となる「グラデーション」を発案してくれた小野くんが持ってきてくれたのが、まさに日本語でいう「スペクトラム」の画像でした。

正直、「グラデーション」という言葉も陳腐化していて、「グラデーション」にもいろんな意味合いがある中で、伝えたいコンセプトをもっと明確化できる適した言葉があるのではと思っていました。

テーマについてはオフィシャルサイトにも掲載しています。

「グラデーション」というと段階的な変化というか方向性があり、だんだん白から黒になるみたいな一方向のイメージですが、「スペクトラム」はどっちの方向に向かってるという意味合いがなくて。「スペクトラム」の方が線引きや方向の指定もなく、“どこに向かってもいい”意味合いがつけられる。また、英語だとグラデーションよりスペクトラムの方が耳馴染みがよく、ジェンダーや性自認という議題に対して英語圏では「スペクトラム」という言葉が使われているので、海外アーティストに説明する際にも「スペクトラム」の方が望ましいという背景もありました。日本国内の人からは馴染みのない言葉かもしれませんが、キービジュアルやコンセプトの説明でしっかり理解していただけるように設計できればなと。


──今回のテーマが生まれるにも、さまざまな想いが背景にあったんですね。最後に、植竹くんの当日への意気込みを教えてください。

植竹 当日は運営本部というところで、スタッフの皆様のタスク状況を見ながら動きを管轄する立場におり、全体把握のために動き回ってると思います。元々自分が「フェスの運営を知ってみたい、楽しそう」で岩壁チームに入っているので、運営目線ながらも一番楽しみたいと思ってます!


コミュニティを日々刷新し、コンセプト設計も行ってきた岩壁音楽祭チーム。

次の記事では、『岩壁音楽祭 2022』のコンセプト「Spectrum(スペクトラム)」をデザインに落とし込んだキービジュアルについて、デザインを手がけた東北芸術工科大学 3年生・及川けやきさんにインタビューを行います。

『岩壁音楽祭 2019』開催時の知見はnoteで公開しています。『岩壁音楽祭 2022』の知見を貯めたインタビューも公開しておりますので、ぜひチェックしてみてくださいね!

オフィシャルサイト:https://www.gampeki.com/
Twitter:https://twitter.com/GampekiMusicFes
Instagram:https://www.instagram.com/gampekimusicfes/
 
チケット購入はこちらから:https://gampeki.zaiko.io/e/gampeki2022



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