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カメラの話を徒然に(24)

マミヤのカメラ(3) Mamiya C220f

二眼レフカメラ

前の記事では、レンジファインダー機の6x6判の最後のモデルを紹介した。今回は、二眼レフ系統の話である。
二眼レフと言えばローライが最も有名だと思う。世界中のメーカーが二眼レフを作り、日本でもブームの頃は「A~Zまでメーカー名があるのでは」(実際にはない)とまで言われるほど多くのメーカーがあり、今でも中古市場にはたくさんのカメラが流通している。二眼レフが便利だったのは、スクリーンに被写体を映して構図と同時にピントを確認できることで(*)、従来の蛇腹折り畳み式やボックスカメラのような形態での、目測で距離を決めたり絞り込んでゾーンフォーカスで撮ったりするより確実にピントが決められる。また、35mm判に多い一眼レフに比べると、撮影レンズとビューレンズを分けることで大きなミラーが動く必要はなく、機構的に簡素化でき、作動ショックもない、というのも良い点である。
(*注:二眼レフのような形でも、ビューレンズ側でピントが確認できないカメラも存在するので、買う時はお店でファインダーを覗いてみて下さいね)
一方で、この形態でのデメリットも当然あって、反射像のため左右逆像で構図を決めなければならいこと、ビューレンズと撮影レンズが別であることから近距離の撮影では視差が生じること、上下にレンズをつけるためのコスト、縦に長くなり大きく重くなること、が挙げられる。コストに関しては、ビューレンズだけ構成を変えてレンズの枚数を減らしたりという工夫も見られるが、当然ながら撮影レンズと画角・ピントが連動しなければならないし、映った像がきれいでないと撮影していて気分が悪いわけで、これも理想を追い求めるとなかなかハードルが高かったのではなかろうか。
そんなわけで、小型であり機動性が高い一眼レフにトレンドはシフトしていくわけである。一眼レフなら文字通りレンズは1本で、それを交換すれば良いのだから、レンズ交換式としての設計にも有利な形態であるし。

マミヤCシリーズ

それで、二眼レフは画角を変えるには、となると、ローライであったように「レンズを変えた違うモデルにする」というのが提案され実際に製造されたが、二眼レフという縦長の箱をいくつも持ち歩くとなるとこれは大変であるし、特に望遠用を単機能のカメラとして設定しても使い勝手が悪く、結局ワイドとテレのローライはあまり数が出ないまま終わっている(標準モデルに対して高価だったのも大きいかと思う)。それに対してマミヤは、レンズ交換するなら、大判用カメラと同様、レンズを装着するボードからレンズを外せるようにすればよい、という発想で二眼レフのレンズ交換を実現した。しかし、二眼レフであるからレンズは当然2個あってそれをまとめて取り外す必要があり、撮影レンズにはレンズシャッターも内蔵されているから、全ての交換レンズはレンズが2個並び、レンズシャッターもついている、ということになった。しかも、このシリーズではビューレンズも撮影レンズと全く同じものを使うので高コストな構造である。また、本来ボディに固定されて内部連動も可能なものを分離するため、シャッターリリースやチャージをどんなレンズでも機械的につなげる必要が生じている。加えて、レンズ交換をするためにはレンズを外した際にフィルムが露光しないように遮光する機構も必要だ。
こうした機能を、なるべくフールプルーフを効かせながら実現したのがこのシリーズで、C3の系統が正統というかフル機能版で、C2の系統がいくつかの機能を絞った廉価版の位置づけになっている。C3系統はC3~C33となって近接時の視差補正機能やシャッターのチャージ連動などを実現しC330でオートマット(フィルムをスタートマークに合わせ、蓋を閉めればあとはカウンターが働き所定の位置で巻き上げが止まる仕組み)になった。マミヤの二眼レフはレンズ固定式のものが1948年に出て、レンズ交換式になったこのCシリーズは57年から94年まで販売された長寿シリーズである。

180mmレンズを装着した雄姿。フード上面はまだ角度調整をしていない状態。

私が持っているモデルはC220fで、これはC330系統から以下の機能を変更し簡略化・軽量化したものだ。
・巻き上げクランクをノブに変更
・フィルム巻き上げ時のシャッターチャージ連動の省略
・パララックス補正指標(繰り出しに応じてリニアに動き、露出倍数補正の指標も兼ねていた)の省略
・距離表示スケール(繰り出しする部分に棒のようなものがついており、繰り出し量に対応する距離表示があった)の省略
・ファインダーフードにあるスポーツファインダー(素通しで被写体を見るための開口部)の省略
・フォーカシングスクリーンを交換式から固定式に変更。
上記の変更があるが、交換レンズは制限なく使えるし、巻き上げのオートマットも装備され、220フィルムにも対応しており、巻き上げたときに自分でシャッターをチャージすることを忘れなければ機能的には何ら支障なく使える。

レンズはカメラ前面にあるボードに取り付けられていて、レンズ交換時はカメラ内蔵の遮光板で撮影レンズ後方を塞がないとレンズ取り外しが出来ないようになっている。また、レンズ装着後この遮光板を開けないとシャッターリリースはロックされ、ファインダーには赤い線が現れて遮光板が開いていないことを警告する仕組みもある。
シャッターリリースはシングルとマルチの切り替えがあり、後者は多重露光用である。私は使ったことがない。シングル時はシャッターロックが機能し、フィルムを送らないとシャッターは切れない。
レンズボード部はカメラ底部のラック・ピニオン式の繰り出し機構で被写体側に送り出され、ボディとの間は蛇腹で繋がれており、望遠レンズでも近接するためにこの繰り出し量はかなり大きくなっている。これが従来の二眼レフとは大きく異なる点で、繰り出し量の少ない広角系レンズはものすごく被写体に近づけて撮ることができる。レンズの無限遠位置は統一されていないので、無限遠時点でレンズボードを大きく繰り出さなければならないレンズがあり、こういう場合は最短撮影距離はあまり近くにはならない。また、このために、ここにレンズがあれば無限遠、という感覚で遠景を撮ったりはできないので、都度ピント合わせが必要になる。一応、カメラ側面にレンズごとの距離スケール表示があるが、スケールの表示が小さく大雑把にしかわからないので参考程度ということにしておく方が良さそうだ。

105mmF3.5DSレンズの無限遠位置。
無限遠位置で最も大きく繰り出さないとならないレンズは135mm、次いで105mmだ。
最大限繰り出した状態がこちら。距離表示に加えて露出倍率(繰り出したら露光を余計に与えないとアンダーになる)の表示もある。C330ではこの板が棒状になっていて、レンズの焦点距離ごとに回して使っているレンズの表示に切り替えるようになっていた。ちょうど鉛筆のような形で。

近接ができるというのは良いが、その場合の視差、パララックスはどうするか。簡易的にスクリーンに近接時の範囲のガイド線はあるが、レンズごとに最短撮影距離が異なるので、完璧にパララックスを補正して撮るためのツールがあり、パラメンダーというアクセサリーである。これは三脚使用時に、カメラと三脚の雲台の間に挟んで装着するもので、構図や撮影条件を決めたあと、パラメンダーを上昇させると、ビューレンズ・撮影レンズ間の距離だけカメラが移動して、構図を決めたときのビューレンズの位置に撮影レンズが上がる、という仕組みになっている。このアクセサリーはあまり見かけないし、持っていても三脚持参で出かける習慣がないと使わなくなってしまうだろうが、近接撮影をしたい人には絶対必要なものだ。もちろん、そのワンアクションの間に風が吹いて被写体の場所がちょっと変わってしまった、どいった事態は大いにあり得るので、注意は必要である。

パラメンダーの働き。左:構図を決めるときの状態→右:クランクを巻き上げて撮影状態に。
ビューレンズの位置に撮影レンズが上がっているのがわかる。巻き上げた最上位置に行くと自動でロックがかかるので、上げた位置でカメラを手で保持する必要はない。

Cシリーズのレンズ

レンズは55mmから250mmまでが用意されている。二眼レフであるから、レンズ間の距離が決まっていて、それがレンズの前玉のサイズを制限するわけで、望遠になればなるほど口径比は暗いものにならざるを得ないし、超広角レンズの設計も難しい。レンズのフィルター枠にそれが現れていて、49mmまでしか口径が設定できない上にその49mmもレンズの前枠が薄くなっていて、撮影レンズとビューレンズ両方にフィルターを装着するためには純正のフィルターが必要である。また、フィルターを装着しない場合でも、レンズ前枠の保護のための専用補強リングが用意されている。この49mm枠は65mm、180mm、250mmが該当し、他のレンズは初期の80mmF3.7の40.5mmを除き、全て46mmになっている。

レンズの一覧は以下の通り。*印をつけたものは所有していない。いろいろ試したい気はあるのだが、何しろこれらのレンズは2個のレンズが並んでいて嵩張り、防湿庫の中で場所を取るし、多数を同時に持ち出すのも大変なので、たいていは所有している5個のレンズから3個を選んで、というようなやり方にしている。
 Mamiya-Sekor 55mmF4.5
 Mamiya-Sekor 65mmF3.5
 Mamiya-Sekor 80mmF2.8 *
 Mamiya-Sekor 80mmF2.8S
 Mamiya-Sekor 80mmF3.7(初期にはMamiya-Kominar銘もあり) *
 Mamiya-Sekor 105mmF3.5 *
 Mamiya-Sekor 105mmF3.5DS
 Mamiya-Sekor 135mmF4.5 *
 Mamiya-Sekor 180mmF4.5 *
 Mamiya-Sekor Super 180mmF4.5
 Mamiya-Sekor 250mmF6.3 *
同じ焦点距離で2種類あるものについて、違いは以下のようなものだ。
80mmF2.8:前期は3群5枚のヘリア型、後期は3群4枚のテッサー型になってSがついた。このSつきレンズは、ビューレンズの形が撮影レンズと異なっている。
105mmF3.5:前期は3群4枚のテッサー型、後期は3群5枚のヘリア型になり、さらにビューレンズ側に被写界深度確認のための絞りが組み込まれた。
180mmF4.5:前期は3群4枚の望遠型、後期は4群5枚のクセノター型になり、光学性能が向上したということか、Superの文字が付いた。
システム全体でも、レンズ名がそのままでもコーティングの改良が行われており、前期がアンバー系の色で、後期になると紫色が混ざった感じになっている。後期ではシャッターチャージレバーに青い丸がついて、これが新しい型の識別用と認識されているのか、海外でもblue dotなどの補足説明が見られる。ただ、この識別が何の範囲を示しているのかは定説は見られない。コーティング改良時とされることが多いが、一方で青丸がなくても紫色系のコーティングというケースもあるようだ(青丸が剥がれただけという可能性もあるが)。

105mmDSレンズの、ビューレンズ内の絞り
レンズをレンズボードに固定する太い針金。ばね鋼のような硬くて弾力がある線である。
レンズ交換時は左手前の先端をぐいと押して外すが、遮光板が閉まっていないとこの針金が動かないように機械的に連動している。

レンズフードは55,65mmはそれぞれ専用で、80mmF3.7や105mmの旧型は42mmかぶせタイプ、80~135mmは48mmかぶせタイプの標準レンズ用を共用、180,250mmは望遠用を共用となっている。広角と望遠のフードには、上面が可動式になっていて、これはビューレンズ側の視野を妨げないように上の板の角度を調整できるようになっている。レンズの画角に沿った角度にすると、ファインダー像にかかるフード像がぼやけた少し暗い線、程度までは改善できる。広角と望遠のフードは箱型のような形で、かなり大きいので携行時には嵩張るし、レンズにつけるとカメラ全体がカメラバッグにはとても収まらないから、持ち歩きには少し困っている。カメラ自体が通常の二眼レフより一回り大きいから、カメラとレンズ、さらにフード用のスペースを用意すると大型のバッグが必要だ。

撮影例

所有しているレンズは以下の5個で、80mmは初期のF2.8も持っていたがF2.8Sに買い替えてしまってSなしの撮影フィルムがごく少ないのでここには掲載しない。
●Mamiya-Sekor 55mmF4.5
シリーズで最も広角のレンズであり、35mm判では30mmに相当する。55mmはワイドローライにもあるので、このレンズが唯一の存在ではないが、ワイドローライの価格、流通している数に比べれば断然調達しやすいだろう。
非常にシャープな描写で、色もきれいなレンズである。最短撮影距離はなんと24cmであり、35mm判一眼レフの同クラスレンズよりも寄れて、この距離での撮影範囲は6.4cm四方だというからほとんど等倍に近い。このカメラシリーズを体験したいなら、これは外せない存在であろう。

あしかがフラワーパークにて/ C220f ,Sekor 55mmF4.5/ F5.6,1/30 ,Kodak EPR
屏風岩/ C220f ,Sekor 55mmF4.5/ F8,1/60 ,Fuji RDP III
御池にて/ C220f ,Sekor 55mmF4.5/ F8 1/2,1/60 ,Fuji RDP III
尾瀬の福島県側の入口に当たる。只見から帰る途中に立ち寄っただけだったが、良いところだった。

●Mamiya-Sekor 65mmF3.5
35mm判では35mmに相当するレンズで、自然な遠近感と状況説明的な撮影範囲が上手くバランスできる画角だ。ごく四隅に像の流れがあるが、それ以外はシャープでボケ味も良い。レンズ1枚目が大きな凹レンズという典型的なレトロフォーカス型であり、55mmに比べると大柄で、上に書いた特殊薄枠の49mmフィルターが必要になる。最短撮影距離は27cm。

浅草到着/ C220f ,Sekor 65mmF3.5/ F8 1/2,1/250 ,Fuji RVP F
水上バスで浅草に到着したところ。下って行く船のタイミングに合わせて撮影。
大桟橋にて/ C220f ,Sekor 65mmF3.5/ F11,1/250 ,Fuji NS160
完全に逆光だが、上手く写っている。
野毛にて/ C220f ,Sekor 65mmF3.5/ F3.5,1/4 ,Fuji NS160
1/4秒を手持ち撮影。カメラが重いので案外ぶれないのだ。

●Mamiya-Sekor 80mmF2.8S
最後期にラインナップされたレンズで、35mm判では43mmに相当する画角である。このレンズだけはビューレンズの形が異なっていて、上下入れ替えという修理手法は取れない。濃厚な色合いとシャープさが最新レンズらしさを感じさせる。最短撮影距離は35cm。

キティちゃん/ C220f ,Sekor 80mmF2.8S/ F2.8,1/60 ,Fuji RVP F
自宅近くにて/ C220f ,Sekor 80mmF2.8S/ F5.6,1/30 ,Fuji RVP
三ツ池公園にて/ C220f ,Sekor 80mmF2.8S/ F11,1/60 ,Kodak BW400CN

●Mamiya-Sekor 105mmF3.5DS
ビューレンズに絞り機構が装備されたもので、35mm判では57mmに相当する、少し画角の狭い標準レンズという位置づけだ。このレンズは無限遠位置で繰り出しが必要なので最短撮影距離は長く、58cmとなっている。58cmでも、この後出た645シリーズの標準レンズの最短撮影距離70cmに比べればずっと寄れるのであるが、何しろあの蛇腹をえっちらおっちら長々と伸ばしてようやく58cmか(笑)、という感覚がある。そこまで伸ばすと、カメラの保持が難しくなるし視差も大きいので、三脚とパラメンダーを使う方が安全である。
シャープなピント面とやさしいボケ味が両立していて良い像が得られる。画角が狭いので、花やポートレイトに向くと思う。

あしかがフラワーパークにて/ C220f ,Sekor 105mmF3.5/ F5.6,1/500 ,Kodak EPR
あしかがフラワーパークにて/ C220f ,Sekor 105mmF3.5/ F5.6,1/250 ,Kodak E100VS
どのくらい近接したかは忘れたが、寄っているので背景は大きくボケている。
会津川口駅近くにて/ C220f ,Sekor 105mmF3.5/ F5.6,1/500 ,Kodak Gold200
一面緑の中、走っていく列車を撮る。水面に反射するところが、ちょうど流れがあるようで列車の映り込みを撮れなかったのは残念だ。

●Mamiya-Sekor Super 180mmF4.5
長いレンズがボードに2本突き立った形で、遠目にはすごく威圧感があるのだが、35mm判で言うと100mm弱に相当する中望遠レンズである。49mm枠なので、これも専用の薄枠フィルターが必要になる。無限遠位置までかなり繰り出す必要があり、最短撮影距離は1.27mである。描写はシャープでボケもつながりが良い。

梅/ C220f ,Sekor 180mmF4.5/ F11,1/250 ,Fuji NS160
氷川丸とシーバス/ C220f ,Sekor 180mmF4.5/ F11 1/2,1/125 ,Fuji NS160
只見川第一橋梁/ C220f ,Sekor 180mmF4.5/ F8,1/250 ,Kodak Gold200,三脚
列車を待っている間に川面の靄がなくなってしまった。三脚に据えているのは、右手でデジタル撮影、左手でC220のシャッターを1枚だけ切るという撮り方だったためだ。

おわりに

マミヤの創意工夫が詰まったCシリーズは少し大きく重いことを除けば、操作性は良いし、重いボディに軽いリーフシャッターの組み合わせでブレが少なくシャープな写真が得られ、いろいろな画角を試すことができ、接写も可能なすばらしいシステムである。私はもともと6x6判の写真撮影が苦手だったのだが、このカメラで画角を変えいろいろ体験して行く中で、真四角な構図に慣れてきた。そんな機会をくれたこのシリーズに感謝している。

おまけ・・・パラメンダーの働きを撮影している最中。位置関係がぶれるとよくわからない写真になるので、撮影側も三脚に載せて撮った。

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