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雪を愛する韓国人と、雪を嫌う新潟県人

「私が冬を愛する理由は百個ほどあるのだが、その一から百までがすべて"雪"だ。」

ハン・ジョンウォン「詩と散策」書肆侃侃房

文学でもドラマでも映画でも、韓国の人々は雪を愛している。

「冬のソナタ」でも、ユジンとチュンサンの重要なシーンに雪がある。映画でもロマンティックな感情の象徴として雪が使われることも多い。

初雪はとくに重要だ。

私の知る限り、韓国語の「처음」は、日本語の「はじめて」よりもずっと特別であり、ずっとロマンティックに響く。だから韓国でその年はじめての雪、つまり初雪は、格別にロマンティックなのだ。初雪が降った日、人々はよろこび、恋人たちが微笑む。

一方、故郷の新潟では、初雪が降ると人々は、ついに来てしまった、招きたくて招いているわけじゃない客が今年も来てしまった、しょうがない受け入れるか、というニュアンスでそれを語る。

新潟県で雪をポジティヴに語る人にほとんど会ったことがない。「今日はいい天氣ですね」と同じくらいに社交上のあいさつ表現として「今年は雪が多いのぉ」「今年の正月は雪が少なくていいあんべえですてぇ」などと表現する。降ってうれしいということはスキー場関係者などを除いて日常会話にはまずない。降雪を祝福する韓国人とは対照的だ。

ちがいはどこから来るのか。

少なくとも2つあると思っている。

1つめは雪の質と量。

新潟の雪は、湿っていて重い。それでいてとにかく多い。冬になると毎日毎日家に来て長時間湿った重い話をする客を想像してほしい。それが新潟県の雪だ。よくこんなに雪が降り積もる地域にこれだけの人が住んでいるなと思うほどだ。

放っておくと屋根にメートル単位で降り積もって家屋を潰す。実際、私が小学生のとき、家の車庫が雪の重みで潰れた。

一方、韓国の雪は軽い。地域によっては積もるが、日本の日本海側ほどは積もらない。たとえばソウルなら、降る頻度もそれほどでもない。

もう1つは、家の構造にあると思っている。

新潟の民家は寒い。伝統的な家屋は隙間だらけで、部屋と部屋の間も襖や障子だ。つまり温めても温めても、温めた先から冷える構造だ。こたつに家族が集中し、そこから出るのに決心が必要なこともある。広い家では、トイレや風呂に行くのにも決心がいる。洗濯物はなかなか乾かない。

そんな屋内から外を見て、雪をロマンティックに感じられる人は少ない。そもそも、雪下ろしが2回、3回と行われると、家の周囲に雪の壁ができて、1階の窓から外の景色が見えなくなる。冬の間室内は暗くなり、音はミュートされる。

対する韓国のオンドル(床暖房)はあたたかい。家全体があたたかい。大学時代、寒い季節に釜山でホームステイしたとき、オンドルのあたたかさに驚いた。洗濯物を干しておけばすぐに乾く。

あたたかい室内から細かな雪の降る外を見ると、なんだか別世界に見える。

新潟の人は言うだろう。「私が冬を嫌う理由は百個ほどあるのだが、その一から百までがすべて"雪"だ。」と。

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