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中日×オリックス 大型トレードの両軍の思惑は?

皆さま、こんにちは。
今回は先週日曜の夜に急きょ舞い込んできた超ビッグニュース

「中日とオリックスによる大型トレード」

をテーマに考えてみたいと思います。

まず改めて今回成立したトレードを整理すると、下記の通りになります。

松井雅人 捕手 (31) ⇔ 松葉貴大 投手 (28)
松井佑介 外野手 (31) ⇔ 武田健吾 外野手 (25)
モヤ 外野手 (27) ⇔ 金銭

ドラゴンズは今季加藤に次ぐ85回1/3でマスクを被った二番手捕手・松井雅と、対左投手時における両翼でのスタメン・代打で活躍していた松井佑と交換に、オリックスから左の先発投手・松葉と右打ちの外野手・武田を獲得しました。

また金額は明らかにされておりませんが、金銭トレードでモヤもオリックスに移籍することが発表されています。

今回の記事では

「この大型トレードがドラゴンズにとってどのような価値をもたらすか」

について考えたいと思います。

1. トレードの是非はどのように議論すべきか

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まず今回のトレードの詳細について掘り下げる前に、トレードを評価する際の判断基準について私見を述べておきます。

私は「トレードは両チームの補強ポイントを埋めるために行うのが目的」だと考えています。

補強ポイントとは主に

①短期的な課題(例: 先発投手の怪我人が多い)、
②中長期的な編成上の課題 (例: 若手野手が不足している)

を指します。

よってトレード対象の選手のネームバリューや実績、年齢などを比較して、損得を評価するのは適切でないと考えます。

トレード成立時点に置いては「お互いのチームにとっての補強ポイントが適切に埋められるWin-Winのトレードであったかどうか」を見るべきであって、交換された選手がその期待に見合う成績を残すかどうかは後から結果で判断すべきと思います。

なので以下では、「今回の大型トレードがどのように両チームの補強ポイントを適切に埋めるものだったか」について掘り下げていきます。

2. オリックスの補強ポイント

2.1 短期的な課題
まずはオリックス側の補強ポイントについて、簡単にですが考えてみます。リーグ最下位に沈むオリックスは現時点における喫緊の課題として以下2点を抱えていました:

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・リーグワーストの得点数、要因はリーグ最低の本塁打数と長打率
→新外国人メネセスのドーピング規定違反による契約解除、マレーロ・T-岡田の不振により中軸を打てる選手が不足。編成上の問題としてコンタクトヒッターが多く長打を狙える選手が少ないというのも背景にある。

・第二捕手兼右の代打として活躍していた伏見がアキレス腱断裂で今季絶望レベルの怪我、捕手不足が深刻化
→オリックスは今季74試合中62試合にスタメン出場する正捕手・若月を擁する一方で、支配下登録の捕手は怪我の伏見を入れて5人のみ (育成選手は2人)。内野手登録のルーキー頓宮が捕手挑戦の話もあったが、こちらも右足疲労骨折のため離脱してしまった。
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オリックスは上記2点の喫緊の課題を解決するにあたり、中日から松井雅 (伏見に代わる二番手捕手)、松井佑 (伏見に代わる右の代打)、モヤ (メネセスに代わる長距離砲)の獲得に成功しました。

一方で彼らの交換相手としては、左の先発投手・松葉と右打ちの外野手・武田を選びました。

彼らを選択した理由は中日の補強ポイントに合致したからでもありますが、背景として以下の編成上の理由も考えられます:

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■山本由、山岡、榊原ら若手先発陣の活躍で先発防御率はリーグトップと安定。松葉は開幕ローテーションに入るも5登板で0勝4敗と結果が出ず、5/30以降二軍落ちしていた。

■武田はセンター・ライトを守るアスリートタイプの外野手だが、今季は似たタイプの西浦・後藤らに押され出場機会を失っていた。
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よってオリックスにとっては

「編成上余裕があるポジションの選手と交換に、現在抱えている課題をピンポイントに解決することができる、ベストなトレードだった」

と言えます。

3. 中日の補強ポイント

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3.1 短期的な課題
次に中日側の補強ポイントについて、こちらはより踏み込んだ形で考えてみます。リーグ5位のドラゴンズは今季以下の課題を抱えていました:

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・先発投手陣の相次ぐ怪我で頭数が不足
→先発防御率はリーグ4位の3.81。開幕投手・笠原や松坂、小笠原など先発候補が相次いで出遅れており、頭数が不足している。
→幸い怪我人の多くは既に実戦復帰しているが、一軍のマウンドに帰ってくるまではまだ時間が掛かる。

・R.マルティネス&ロドリゲスに依存せざるを得ない中継ぎ陣
→中継ぎ防御率はリーグ4位の3.83。支配的なリリーフであるR.マルティネス&ロドリゲスが他球団の脅威となっている。
→一方で、二軍降格した鈴木博をはじめ日本人リリーフの不甲斐なさから彼らへの依存度が日に日に増している。

・オリックス同様に慢性的な長打不足
→オリックス同様リーグワーストレベルの本塁打数と長打率が、リーグ最下位の得点数の要因となっている。ナゴヤドームを意識し過ぎた結果スラッガータイプの野手が少ない、編成上の課題とも言える。

・キャッチャー、セカンド、レフトの3ポジションでレギュラーを固定できていない
→上記3ポジションは相手投手や調子に応じた日替わりになっているが、他球団と比較すると見劣りするのは確か。
→キャッチャーは加藤を育成込みで、セカンドは好守の阿部・堂上を、レフトは福田・井領にアルモンテをそれぞれ起用している。
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中日は今回オリックスからのトレード打診を受け、上記の課題のうち先発投手の補強を松葉獲得で実現させました。

一方でその他の補強ポイント、特に喫緊の課題と言える中継ぎ陣の整備については手付かずのまま。これはトレード相手のオリックス側も中継ぎには課題を抱えている (中継ぎ防御率はリーグワーストの4.66)ことから、適当な交換相手が見つからなかったからだと思われます。

今回のトレードは前提としてオリックス側の超緊急の課題を解決するため先方が打診してきたものだと考えると、中日側の短期的なニーズすべてを満たすことができなかったのは仕方ないと言えます。

その代わりに中日側が解決に動いたのは、次で説明する中長期的な編成上の課題です。

3.2 中長期的な編成上の課題
中日の編成表を確認することで、どこに課題を抱えていたかを考えてみたいと思います。編成表とは各ポジションにどの年齢・立場 (例: レギュラー、控え、二軍育成対象、など)の選手が何人いるかを表したもので、デプスとも言われます。

下記編成表を見るに、中日の主な課題は前述した先発投手の頭数不足以外に下記3点が挙げられます:

・26歳以上の中堅〜ベテラン捕手が飽和している
・外国人枠の関係でモヤ・アルモンテの出場機会が限られている
・25歳以下の若手外野手が不足している

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個人的に今回のトレードがドラゴンズにとって有意義だったのは主に、「編成上の課題を解決できた点」にあると考えています。

他球団と比較してキャッチャーのポジションは弱点ではありましたが、逆に人数的には飽和しており今オフの人数整理は確実でした。オリックス側としてはすぐに一軍で使える二番手レベルのキャッチャーを求めていたことを考えると、ニーズにもぴったりマッチしていたと思います。

恐らくトレード候補としては実績ある大野奨や武山も候補に挙がっていたと考えられますが、前者はFAで移籍してきた複数年契約者なのでNG。よって武山と松井雅の比較でより年齢的にも若く、一軍での実績がある松井雅に白羽の矢が立ったと考えられます。

またモヤ、アルモンテの両外国人もチームに不足している長打力を補う存在として期待されていましたが、中継ぎ陣の補強をより優先する首脳陣の判断により出場機会を失っていました。

交流戦も終わりポジション的な制約も考えると、二軍で飼い殺すことになるよりは他球団で出場機会を得る方が本人のためにもなる (+その見返りを別の補強に回す)と考えたのでしょう。


結果として、ドラゴンズは飽和気味だったキャッチャーと外国人野手、さらに出場機会を失っていた中堅外野手を交換相手として、

①短期的な課題である先発投手の補強
②中長期的な編成上の課題として不足していた若手外野手の補強

に成功しました。


ドラゴンズ視点では今回のトレード単体では短期的な課題すべてを解決するわけでないためオリックスに比べると即効性には欠けますが

「補強ポイントを的確に埋める人選だったため双方にとってWin-Winなトレードだった」

と言っていいと思います。

4. 中日視点で見る今後の展望

最後に今回のトレードで獲得した見返り (選手+金銭)が、今後チームにどう影響していくかについて考えてみたいと思います。

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■左の先発タイプ・松葉はドラゴンズでも先発投手として起用される可能性が高い。特徴としてはフォーク (シンカー?)とチェンジアップを武器にゴロを打たせる投球が持ち味だが、近年はストレートの平均球速が2-3キロ落ちた影響 (?)か球威不足が懸念される。ただ投手優位なナゴヤドームとリーグトップレベルの好守を誇る中日守備陣をバックにすることで、先発陣の一角としての復活は大いに期待できる。

■身体能力が高い外野手の武田は2017年に一軍で100試合弱に出場するも、近年は伸び悩み気味。リーグ平均を大きく上回るボール球スイング率や空振り率を見るにコンタクト能力に課題があると見られる。一方で強肩が武器の外野守備は一級品で、村上コーチら打撃コーチの指導がハマればGG賞の常連・大島の後釜候補として殻を破る活躍が期待される。

・今回のトレードでまだ明らかになっていないのは、モヤの金銭トレードで得た資金をどのように戦力補強に活用するか?という点。前述の通り短期的な課題の多くは手付かずのままのため、この資金を活用した補強、例えば外国人リリーバーの獲得や日本人中継ぎ投手の金銭トレードはあるのか引き続き注目したい。
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いち野球ファンとしては、贔屓チームの好きな選手が他球団に移籍してしまうのはとても辛いことです。

一方で今回のトレードのように、対象の選手たちがライバル球団から必要と言われ移籍先でよりチャンスを与えられるというのは、選手視点で考えるとこれ以上に奮い立つこともないのではないでしょうか。

松井雅人、松井佑介、モヤの新天地の大活躍を、心から応援しています!

またドラゴンズに移籍してきてくれた松葉貴大、武田健吾両選手の活躍も今から凄く楽しみです!


ということで以上、ロバートさんでした。

データ参考:
nf3 -Baseball Data House-
1.02 Essence of Baseball

*2019/7/3 中日新聞プラスへの投稿分を転載

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