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3rd -Moment- アルバム新曲レビュー

NOTE初投稿です。
つばきファクトリー3rdアルバム『3rd -Moment-』のアルバム新曲(DISC2の1~7曲目)が名曲揃いで、個人的な感想をどっかに残したいと思い綴りました。音楽的なことも少しだけ記載してますが、自分は音楽理論についてはズブの素人なので、大いに間違ってる可能性があります。話半分で聞いてください…(書いておいてなんですが)


1. Power Flower ~今こそ一丸となれ~

  • 作詞・作曲:SHOCK EYE 編曲:草野将史

  • つばきファクトリーの新境地を切り拓いた名曲

アルバムの開幕を飾るのは、切り裂くようなレゲエホーンの音で始まるこの曲。レゲトンビートやフロアダンスを取り入れた、これまでのつばきファクトリーには無かった楽曲。まさに新境地。

湘南乃風SHOCK EYEさんの作詞作曲と草野将史さんの編曲は『ハッピークラッカー』『断捨ISM』と全く同じコンビです。
2024年冬のハロコン『THREE OF US』にて、アルバム発売前に初披露されました。そのパフォーマンスは公式の動画でご覧になれます。(福田真琳さん、カッコよすぎでは?)

アルバムリリース前から、メンバーが各種メディアでこの楽曲をイチオシとして宣伝していましたが、期待を裏切らない名曲に仕上がっています。

鮮烈なレゲエホーンに続くイントロでは、レゲエ風なアレンジを受けた妖艶なコーラスとブラスシンセ、バスドラムの重低音が鳴り響きます。

Aメロはドラムのビート中心に「始まりの合図」を歌い上げます。ボーカルは比較的シンプルなリズムですが、フレーズの頭1文字目が4拍目の裏から入っているので、前のめりな勢いが強調されています。

Bメロ(「全員集合~」から)で本格的なラップ詞が展開されます。ラップ担当は新沼希空さん、谷本安美さん、福田真琳さんの3名。特に谷本さんの貢献について言及したいです。

彼女のキュートな声質は、このようなつばきファクトリーにとって新境地といえる楽曲においても「つばきらしさ」を損なわないことに最大限貢献しています。ある意味では最も重要な「オリジナリティ」を彼女の歌声が担保してくれます。

また、切れ味のいい発声のラップは彼女の歌唱面での成長も感じさせます。(もっとも、最初からこういうことが出来る人で、『Power Flower』という曲が彼女のスキルを見つけただけなのかもしれませんが)

Cメロではパーカッションと4つ打ちのバスドラという重たいトラックをメインに、「静」から後半の「動」にかけての盛り上がりがサビへの期待感を煽ります。

待望のサビ。ここで、マイナーキーからメジャーキーへの転調が発生します(E♭マイナー ⇒ A♭メジャー)。これによりサビに入った瞬間、椿の花がパッと力強く開くような明るい開放感が感じられます。

また、この曲の大きな特徴であるレゲトンビートが登場します。
(イントロとかにも仕込まれてるのかもしれませんが、自分はビートの知識も聴き分ける耳も持ってないので分かりません)

4つ打ちのバスドラに、2拍目の裏で16分休符溜めた後と3拍目の裏で鳴るスネアドラムが特徴のレゲトンビート。この曲では(1小節を16分音符×16と捉えて)16分の4,7拍目と12,15拍目でスネアが鳴っています。

…文章だと分かりづらいですね。百聞は一聴に如かず。ということで、サビを聴けばこのスネアのビートが『Power Flower』『Power Flower』たらしめていることが分かります。レゲエサウンドの中心であることはもちろん、「一丸となって前に進む」という意思表明の歌詞にも呼応してグループが前進するための推進力として響き渡ります。

歌唱面での個人的最大の聴きどころは、サビの3小節目から始まるソロの歌割です(1サビで言う所の「一人じゃ叶えられない」など)。

ここには歌メロディーの最高音(「"か"なえられない」のE♭)があります。特筆したいのは、八木栞さんと豫風瑠乃さんがこの音をファルセットを使わず地声で出しているところです。しかもコンサートの生歌でも再現します(上の動画参照)。このパートはこれからのライブでも楽しみになりそうですね。特に八木さんの音圧とアタック感が素晴らしいです。

1サビ終わりのラップパートも、言わずもがな聴きどころです。
担当は前述した新沼さん谷本さん福田さんの3名。16分の跳ねたリズムが難しそうですが、クールにカッコよく歌い上げています。
また、このラップパートの掛け声部分を一緒に歌って欲しいと、難易度の高いコールがメンバーから要求されています。是非覚えましょう。(↓「3rd -Moment-」発売記念生配信 15:30ぐらい~)

3サビとラスサビの間を埋めるフレーズ、「頭で考えず~」からの河西結心さんと小野瑞歩さんのオクターブのハモリも良いです。特に小野さんのボトムを支える低音は凄いです。これ小野さんぐらいじゃなきゃ出来ないのでは?と思わせます。

この2人は『間違いじゃない 泣いたりしない』でもオクターブのハモリを聴かせていました。2人のハーモニーが制作陣からの評価が高いことを伺わせます。

あと少し細かいところで、ラスサビの頭でベースの「ブォン」というグリッサンドを契機にレゲトンビートが復活するところも大好きです。上のパフォーマンス映像で、豫風さんが音ハメのようにくるんと1回転しててカッコいいので必見です。

勢いがあってチャレンジングで独創的で、つばきファクトリーの新たな歴史といえる重要な1曲だと思います。
少々気が早いですが、2024年2月に加入した新メンバーの石井泉羽さん、村田結生さん、土居楓奏さんも、近い将来この曲をパフォーマンスするんだなぁ…とワクワクしています。

2. Stay free & Stay tuned

  • 作詞・作曲:中島卓偉 編曲:炭竃智弘

  • スカと卓偉流分厚いコーラスにギターのドライブ感、新沼希空のシャウト

ブラスセクションやAメロの裏拍ギターカッティングに見られるスカの要素が楽しく盛り込まれた1曲。また、サビでのドラムの高速裏打ちと爽やかなコーラスはパンキッシュな疾走感を感じさせます。とにかく聴いてて楽しい。おなじみの「オイ!オイ!」のコールも曲中に組み込まれているので、コンサートではさらなる盛り上がりを見せるでしょう。

中島卓偉さんの曲と言えば、何と言ってもコーラス。巨大で分厚いコーラスが聴きどころです。本曲では卓偉さんに加え、ギターの福田正人さん、編曲の炭竃智弘さん、ディレクターの山尾正人さんの3人もコーラスに参加し
分厚いサウンドに磨きをかけています。
(↓ ギターRECとコーラスRECも映像に残してくれてます)

上記のRECでギターの福田さんが「あえてテクニカルなことはせず、シンプルに押せ押せで」弾いたと仰っているように、(本アルバム中最高速度の)BPM=185という高速テンポに乗せて、ギターのドライブ感とコーラスの疾走感で聴かせる楽曲となっています。

また、(これは人によって感じ方が違うかもしれませんが、)Aメロ前のギターの半音階フレーズなんかは60年代の洋楽ロックを、間奏の「Stay Free Stay Tuned」のコーラスなんかは邦楽ロックを、サビの開放感はメロコアパンクを感じさせるなど、洋邦行ったり来たりのサウンドはなんとも不思議で満足感のある聴き心地をもたらします。

最後に一番の聴きどころについて。1回聴けば誰もが耳につくあのフレーズ、イントロの新沼希空さんの「C'mon Everybody~!」の煽り、というか叫びです。

新沼さんのキャラクターを象徴するような動物である猫が一生懸命叫んでるような必死な可愛らしさが溢れています。秋山眞緒さん曰く「希空の限界を見た」。つばきファクトリーの2代目リーダーを務め、春ツアーでの卒業を控えたこのタイミングで新境地を見せてくれました。

煽りが音源になるのも珍しいですが、新沼さんはこういうパートを担当しそうな人ではないんですよね。このギャップは新沼さんのパーソナリティを知っている人であればあるほど、楽しめるのではないでしょうか。

3. 七分咲きのつづき

  • 作詞:山崎あおい 作曲・編曲:KOUGA

  • 切なく可愛い曲調をとびきりのゴージャスさとテクニカルさで構成する1曲

2023年春ツアー『シュンカン』でライブ新曲として初披露された楽曲。
セットリストの1曲目、この曲でシュンカンは幕を開けました。
歌い出しの河西結心さんの可愛さと切なさあふれる表現力から、彼女のイメージが強い人も多いかもしれません。

楽曲に関しては、素晴らしいの一言。
いや、そんなんじゃ言い表せない。
ヤバいです、この曲、凄まじいです。
タイトル通り春を感じる疾走感のある可愛らしい曲調ですが、中身は途轍もなくテクニカルに仕上がってます。KOUGAさんは天才。

(自分は正直1~2回聴いた程度では「アイドルらしい可愛い春の曲ですねぇ」ぐらいしか印象が無かったのですが、とんでもなかった。。聴けば聴くほど魅力が見つかる底なし沼のような楽曲です。)

まず大きな特徴として、曲のセクションごとに華々しく転調が繰り返されます。全部でおそらく9回ほど転調してます。

サビ1(Eメジャー)
→ 間奏、Aメロ1(D♭メジャー)
→ Bメロ1前半(E♭メジャー)
→ Bメロ1後半(G♭メジャー)
→ サビ2(Eメジャー)
→ 間奏,Aメロ2(D♭メジャー)
→ Bメロ2前半(E♭メジャー)
→ Bメロ2後半(G♭メジャー)
→ サビ3~ラスサビ(Eメジャー)
→ アウトロ(D♭メジャー)

※間違っている可能性が大いにありますm(_ _)m 参考までに

KOUGAさんからは「目まぐるしい転調は主人公の女の子の心情の変化を表現した」という旨のコメントがあります。(↓アプカミ#336ベースREC 28:00あたり~参照)

しかし、これだけの転調を組み込んでなお曲展開は自然で流麗です。アイドルらしい可愛い曲調を全く違和感なく聴かせます。流石としか言いようがありません。

また、テンポがBPM=170と非常に速いのも特徴です。
初春に吹く強い風を思わせるこのテンポは、楽曲の季節感にも、目まぐるしい転調にも、主人公の揺らぐ心情やはやる気持ちを表現する歌詞(「その言葉 仕草 揺らぐ心」「今さら ~ 待てない 待てない」)にも非常にマッチしています。

さらに、この曲の最大の推しポイントはメロディーラインの豊富さです。
歌はもちろん、ピアノ、ストリングス、ギターアルペジオ、ベースラインなどなど、色とりどりの楽器からメロディーが洪水のように溢れてきます。どのメロディーも美しく、全体で聴いても、どれか1つの楽器に着目しても大いに楽しめます。

特にギターとベースはレコーディング映像があるので分かりやすいですね。(内田康平さんによる絶品のギターRECはこちら。これだけ豪勢に楽器が鳴ってるとギターの音を聴き分けるのも一苦労なので、レコーディングを映像に残してくれるのは本当に有り難い…)

この中で何よりも特筆したいのはベースラインの凄さです。
ベースRECを見ると分かりやすいですが、ひたすら縦横無尽に動く動く。テクニックをひけらかす目的でないのにこんなにも指板全体を使い、それでいて最高のベースラインとして成立している、驚嘆するしかないです。

KOUGAさんが「”歌うように弾くベース”をこだわった」とコメントされている通り、ベース単体でも非常に聴き応えがあります。

この速いテンポでこれだけメロディアスで、なおかつリズムの跳ねた表現も必要になるこの曲、とてもとーっても難しいと思うのですが、ベースの永松英樹さんの仕事ぶりに拍手、というか感謝したいです。

そんな中でも、ギターの内田さん、ベースの永松さんが両名とも「歌メロとの絡みを意識した」旨のコメントを残しています。豪華でテクニカルな演奏においても、制作陣はメンバーの歌を最重要視しているのが分かります。


最後に、個人的に印象に残った歌詞について。
既にハロプロファンの誰もが足を向けて寝られないほどの音楽的貢献をなさっている山崎あおいさんですが、この曲の歌詞も素晴らしく、語りたい部分がいくつもあります。

まず1番Bメロ終わりの谷本安美さんパート「日曜 雨予報」
とりたててドラマチックな意味を持たない2つの名詞を並べたこの歌詞が、なぜか強烈な余韻を残してサビに突入します。

場面は主人公と相手の男の子が机を挟んで向かい合っているところ。「抜けがらのガムシロ」の歌詞から、場所はカフェでしょうか。

それまでのBメロの歌詞は全体的に「私はずっと君だったよ」「鈍すぎてちゃ意地悪よ」など、主人公の胸に秘めている叫びが描写されます。

その流れからの「日曜 雨予報」という歌詞。
自分はこれを「せっかくの日曜なのに雨でガッカリする心情」とそこから暗示的に浮き彫りになる「これからの2人の関係の発展に翳りを予想して暗くなっている心情」を併せた表現と捉えました。

一見無機質な2つの名詞がとても叙情的に響くこの歌詞は、谷本さんの可愛らしい歌声と相まって大好きなフレーズです。

次に2番Bメロの頭「期待 希望 まみれたシーズン」です。
「期待、希望」に続く言葉としてはややそぐわない「まみれる」という表現があります。しばしば何かに汚れる時なんかに使われますよね。どちらかというとマイナスイメージのある言葉です。

なぜ山崎さんはなぜこの言葉を選択したのでしょうか?
「希望にあふれる」などの「あふれる」が普通だと思うのですが、それではダメだったのでしょうか?

おそらくは、「あふれる」という表現が当てはまるほど前途が100%キラキラしたものではないのでしょう。これからのシーズンで想いが成就するかしないか、希望と絶望が混じり合った揺らぎのある展望を主人公は予感しているのではないでしょうか。

また、それに加えて主人公が抱く期待や希望の中に決して綺麗ではない物が混ざっている意味も含まれていると思います。
曲を象徴するようにサビで繰り返される「そろそろ連れてって 七分咲きのつづき」という歌詞の通り、彼に対する想いはまだ七分咲き(70%)ほどなのでしょう。上手く自分でも整理がついていない。だからこそ「アイシテル」でも「ダイスキ」でもない。

そのような素直に自分の感情を肯定出来ない気持ちを描写する言葉であり、さらに言えば「綺麗ではない感情」=もっと別の意味も暗示されているかもしれません。

4. EZPZ!!

  • 作詞:井筒日美 作曲:Shusui/Samuel Waermo/Stefan Ekstedt 編曲:Stefan Ekstedt

  • メンバーの明るい歌声がとにかく主役なガールズPOP

爽やかPOPでガーリィな1曲。
作曲編曲のメンバーは『勇気 It's my Life!』と同じです。

主人公像は同じ井筒日美さん作詞の『愛は今、愛を求めてる』に少し似てるでしょうか。失恋ソングですが、嫌なことや落ち込むことにフォーカスするのではなく、前向きに生きていく主人公の心情が中心となって描かれています。

また、「ネガる」「ショック」などのPOPなワード、「陽射し」「ビーチ」「新緑のシャワー」などの明るい自然を感じるワードが、色とりどりに散りばめられており、キラキラしたサウンドに絶妙にマッチしています。なによりタイトルとなった「EZPZ」(「楽勝」の意味)はイントロやサビで繰り返される印象的なフレーズです。

この曲の最大の特徴は、間奏がほとんどなく歌で埋め尽くされていることでしょうか。1サビが終わりAメロに移るまでも間奏がほとんどない上に、その間もメンバーのコーラスが入っています。歌声のトーンは明るいミックスで、高揚した気分が全体を包み込みます。

個人的な聴きどころは、まず、サビでのシンセラインと高音のコーラスです。メンバーの明るい歌声に輪をかけて盛り上がりを作ります。

次に、Cメロ終わり、音がブレイクした後の八木栞さんパート「へっちゃら!」とその後のラスサビ前の谷本安美さんパート「何でも」です。このパートはリズム楽器が無くなるので、正確なリズム感が必要な上にズレたら分かり易い難易度の高い所です。

八木さんパートは特に難しそうです。この歌割を貰えたということは、制作陣からの評価が高いのでしょう。

谷本さんも『My Darling ~Do you love me?~ 』の落ちサビなんかで、同じようなリズム難易度の高いパートを担当されています。しかもライブでミスしているところをあまり見た事がありません。『EZPZ!!』のこの歌割でも彼女のリズム感が信頼されていることが伺えます。

5. サマー・チャレンジャー

  • 作詞:児玉雨子 作曲:中島卓偉 編曲:板垣祐介

  • 弱気な主人公が自分を変えようとチャレンジする、夏の喧噪と寂寞感

2022年夏に開催された『つばきファクトリーの夏祭り 2022~灼熱~』、いわゆる『灼熱』にて初披露されたライブ新曲。次の年の『灼熱』でも披露され、既につばきの夏ソングとしての地位を確立していた楽曲が約1年半越しの音源化。どんだけ待たせるんですか。

正確には、Youtubeサブチャンネル『つばきファクトリーのhappyに過ごそうよ』の灼熱作戦会議vol.9の動画で音源が少しだけ披露されていました。

個人的には正直『灼熱』の思い出抜きにして冷静に語ることのできない、特別な楽曲です。それだけ、夏の河口湖ステラシアターで響くこの楽曲は素敵なものでした。

弱気な主人公像はつばきファクトリーの楽曲で頻繫に登場するモチーフですが、そんな主人公が変わろうとする様を元気いっぱいに歌うこの曲のメンバーは、主人公であると同時にそれを励ます存在にも見えます。

また、楽曲全体を包む不思議な寂寞感『サマー・チャレンジャー』の大きな特徴だと思います。一般的に落ちサビというのは、バックの演奏が静かになりボーカルが際立つ切ない表現に適したパートですが、この曲に関して言えば落ちサビ以外のAメロBメロサビといった部分で「元気なのにどこか寂しい、切ない」という印象があるのです。

(あくまで感覚ですが)サビの裏で鳴っている美しく切ないストリングスの音色がその一端を担っているのではないでしょうか。ここのストリングス、個人的にアルバム全体でも屈指の推しポイントです。

その他にも、この寂寞感の表現のためにプロ的な仕掛けがいくつも施されていそうですが、自分は音楽理論的な知識が無いので、ぜひとも作曲の中島卓偉さんや編曲の板垣祐介さんに解説してもらいたいところです。。

編曲の板垣さんはギターも担当されていて、Bメロでの美しいアルペジオやサビでの元気さと疾走感を出すコードストロークに加え、この曲では素晴らしいギターソロも聴けます。この点も大きな推しポイントです。

6. 雨宿りのエピローグ

  • 作詞:山崎あおい 作曲・編曲:KOUGA

  • 雨の中のシリアスな恋と悲しみを描く、本アルバムで最も「つばきファクトリーらしい」曲

歌い出しの「五月雨」と、サビの最後のフレーズ「サドネス」(悲しみ)がこの曲を象徴する言葉。繊細なピアノと激情的なギターを背景にシリアスな恋心を歌い上げます。

作詞・作曲・編曲は『七分咲きのつづき』と同じ山崎あおい・KOUGAペアですが、振り幅が凄いですね。しかし季節感と自然をモチーフに恋心をテーマにしているという意味では似ている部分もあります。

歌い出しと言えば河西結心さんですね。
この曲でも高低差のある難しいフレーズを見事に歌い上げています。

この曲に限らずですが、個人的に本アルバムで貢献度の高いメンバーTOP2は、河西結心さんと(全曲参加ではないですが)岸本ゆめのさんです。
元々の歌唱力と声質に加え、河西さんの表現力の上がり方が凄まじいです。(あなたまだ3年目ですよね?)

一番のポイントは、やはりサビの最後のフレーズです。
(歌割は2サビ:豫風瑠乃、3サビ:秋山眞緒、4サビ:八木栞河西結心
「サドネス」という象徴的な言葉が入り感情が爆発する、曲の展開として重要なパートです。

また3サビ最後の秋山さんパート「何になるでしょうか」の後の、朝井泰生さんのギターアーミングプレイ(「キュイーン」という音)も絶品です。KOUGAさんのピアノと相まってドラマチックで切ない感情が非常によく出ています。

豫風瑠乃さんも、秋山さんの歌含めたこの部分がフェイバリットだと、スペースシャワーTVの特番で挙げていました。豫風さん曰く「水に沈んでいくような感じ」。素晴らしい表現です。

朝井さんの超絶ギターアーミングが聴ける、アンジュルム『七転び八起き』のギターRECを貼っておきます)


『雨宿りのエピローグ』は本アルバム中、最もつばきファクトリーらしい楽曲だと思います。相手に強く依存しながらも、相手に必要とされたくてもがいている女性像。やっぱりつばきの作品にはこういう曲が欲しいと思ってしまいますね。この曲があるのとないのとでは、アルバム全体の聴き応えが全然違うでしょう。

余談ですが、自分はアルバムはアルバムという作品として全体で聴きたい考えがあるので(古い考えかもしれませんが)、曲順が大事だと思っています。個人的には、この曲のラストと次の『アタシリズム』の繋がりが物凄く大好きです。

7. アタシリズム

  • 作詞:児玉雨子 作曲:星部ショウ 編曲:荒幡亮平

  • 自分らしさと闘いながら覚醒していく歌詞、緊張感のあるストリングス、バンドサウンドとバッキバキのリズムで岸本ゆめのを表象した名曲

山岸理子岸本ゆめの両名の卒業コンサートである『可惜夜~山岸理子・岸本ゆめの 卒業スッぺシャル~暁』にて初披露されたライブ新曲。なんとこのメンバーで披露したのはこの1回きり!(2人の卒業コンサートなので当たり前ですが)

何と言っても岸本ゆめのさんが主役の曲です。
そのことは、岸本さんのパーソナリティを知る方なら歌詞を見れば大体分かりますが、一応「レコーディングの時にディレクターが言っていた」という八木栞さんの証言を貼っておきます。(アプカミ#362 9:50ぐらい~)

この曲がお披露目されるまでの背景を簡潔に。まず、2023年6月に岸本ゆめのさんは適応障害の診断を受け、3か月ほど活動を休止していました。復帰したのは秋ツアー『可惜夜』から。その間にリリースされたシングル『勇気 It's my Life! / 妄想だけならフリーダム / でも…いいよ』には参加出来ませんでした。

そのような、当の本人が卒業シングルに参加出来ない不遇を経た上での卒業コンサート『可惜夜 暁』

まぁ復帰がいつになるとも知れない状況の中、卒業公演に間に合っただけでも個人的には嬉しい気持ちでいっぱいだったのですが。それでも結成時からグループを支え続けた彼女をこのまま卒業させてはいけないと、餞の曲がちゃんと用意されていました。


そのようなドラマチックな経緯を持つ『アタシリズム』が3ヶ月半越しの音源化。イントロ4小節、硬質のスラップベースソロがもたらす緊張感と、宇宙空間にいるようなSEがもたらす独特の浮遊感によって、一気にこの曲の世界観に引きずり込まれます。

ベースソロが終わると一瞬のブレイクを置いて、ストリングス、ピアノ、コーラスが一斉に鳴り出します。静から動のコントラストと、サウンドの中心を貫くようなストリングスとピアノの絡みが美しいです。

Aメロで再び動から静へ。歌い出しは岸本ゆめのさん。
「みんなよりちょっとだけ派手な服 好きでいいじゃんな?」という詞を歌い上げるのに彼女以上の適任は居ないでしょう。

作詞の児玉雨子さんとつばきファクトリーは、インディーズ時代の『気高く咲き誇れ!』やメジャーデビューシングルの『うるわしのカメリア』からの付き合い。岸本さんのパーソナリティを知り尽くしているであろう彼女は、作品ごとに千変万化の女の子像を創り上げますが、『アタシリズム』でもこれまでの作品とは全く違う、岸本ゆめのフィーチャーの主人公像を提示します。

例えば語尾のニュアンスなど、『約束・連絡・記念日』『妄想だけならフリーダム』なんかと比べても振り幅が凄いですが、『アタシリズム』のそれは岸本さんによく適合しています。作品ごとによくここまで変化をつけられますよね。プロの作詞家さんは、というか児玉雨子さんは凄いです。本当に。

Aメロの岸本さんパートに話を戻すと、「みんなよりちょっとだけ」「り(B♭)」「ちょっ(G)」ではやや大きめな音程のジャンプ(長6度)があるのですが、ジャンプ先のGの音をパンッと正確に当てているのが印象的です。人によっては「ち」で少しフラット気味に入って「っ」ぐらいで音程を調整する歌い方をしがちですが、ここはリズム感と同時に彼女の歌唱力の高さも伺えます。

Bメロではさらに大きな音程のジャンプがあります。
1番でいう所の「Everyday 気にする人目」「Every」「day」です。下のD♭から上のD♭まで1オクターブの振り幅があり難しいパートです。サビ前のドラマチックに盛り上がる契機となる重要なパートですが、歌割の小野田紗栞さんと小野瑞歩さん+落ちサビの岸本さんはお三方とも見事に歌い上げてます。

サビでは同じ言葉を4つも続ける超印象的な歌詞が登場します(1サビ「これが これが これが これが アタシリズムなど)。
全編を通して、BPM=145という速いテンポに付点8分や16分音符のリズムが入り乱れており、正確な16ビートをずっと刻み続ける必要がある本曲、サビのこの部分は特にリズムが細かく難しいところです。

しかも、ここユニゾンのパートなので誰か1人だけ出来ても他がズレたら全くカッコつかないんですよね。全体でカチッとタイトに揃える必要があります。これからのライブで大きな聴きどころとなりそうなパートです。

個人的に一番好きな歌詞についても言及させて下さい。
それは「聴いてよ 聴いてよ 聴いてよ 聴いてよ アタシビート 止まんないよ 鼓動だもん」です。

ここでは曲の主人公が奏でる音楽のビートと心臓の鼓動を同一視しています。「鼓動のビートは音楽そのものであり、奏でる音楽は自分の生そのものだ」という意味と捉えました。「自己と音楽の不可分一体性」を短いフレーズで素晴らしく表現しています。

最後に余談ですが、レギュラー番組『行くぜ!つばきファクトリー』の「#16 アイドル天職音頭徹底解剖!」にて作曲の星部ショウさんがゲストで出演された際、「2回目の武道館公演を見て、かなりロックを感じた。これまで『夜空の観覧車』など可愛い系を提供してきたが、カッコいい曲も作りたい」ということを仰っていました。

制作段階でその意識が念頭にあったか分かりませんが、結果的には有言実行、バッキバキなリズムを持つロックの名曲を生み出してくれました。

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