うどんおばば

 がらがらと扉を開けると帽子の紳士が一人かけていた。私は店の中程に進み広いテーブル席の隅に座った。すぐにおばあさんがお茶を運んできた。
「今から茹でますと25分かかります」
 仕方ない。美味しいうどんのためなら私は待つことにした。お待ちくださいとおばあさんは店の奥へ姿を消した。間を置かず今度は少し若い女性がやってきた。
「今から茹でますので12分かかりますけど」
「あれっ。さっき別の方に言いましたが」
「えっ? 今は私だけですが」
「いやおばあさんが……」
 そんな人はいないと店の人は言った。
 私は中庭を眺めながらうどんを待った。生い茂る草の向こうに二段重ねの石蛙が覗いていた。おばあさんの運んできたお茶がよく冷えていてとても美味しい。
 15分経過。
 うどんはまだやってこない。
「ありがとうございます」
 帽子の紳士が席を立って帰って行く。

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