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「いつものですか?」と聞いてくれるお店があるということ

※この話、たまにTwitterでつぶやいたりしてたんで知ってる人は気にしないでいいですよ。でも、さっき、ちょっと思い出すきっかけがあったので、ここに書いておきたいなと。

僕は今、埼京線の戸田公園という駅の近くに住んでいます。
学生時代につきあいはじめた彼女(現おくさん)の実家(3階建て屋上付き!)があり、そこにそのまま住み着いた感じです。今日は固定資産税を払ってきました。

さて、時代はグッと遡りますが、2001年頃ですかね。大学生だった僕は、彼女(現おくさん)の家(→結局現在は僕の家ですねややこしい)があるため、よく戸田公園にきていました。

今でこそ、駅中に丸亀製麺、ポポラマーマ、スタバ、無印良品、ドトール、てんや、和幸、日高屋、サイゼリヤ、カルディなどが居並ぶ戸田公園ですが、当時はそんなに充実しておらず、近場でメシを食うとすれば安楽亭くらいでした。

そんな中、家のほど近くに小さなカレー屋さんができました。その名は「カレーハウスチリチリ」。雰囲気的にはフレッシュネスバーガーをカレー屋さんにしたようなこぎれいな印象で、カウンターで10席もない、こじんまりしたお店。物静かなご夫婦風(後に夫婦だとわかるんだけど)のおふたりが切り盛りしていました。

タマネギをすりおろした優しい口当たりの中に、しっかりとスパイスが息づいてて、これが、美味しくて美味しくて、よく通うようになったんですよ。

いろいろな具のバリエーションがある中で、僕のお気に入りはシンプルに「ポークカレー・ルー大盛り」でした。とにかくカレーの味わいを楽しみたくて、ルーを多めにしてもらってたんですよね。

この頃、僕には変な照れみたいなのがあって、すでに顔なじみになっている女将さんとも、マスターとも、一言も会話をしたことがありませんでした。

ただ、お店に入り、座る。「ポークカレー・ルー大盛り」を注文する。美味い。笑顔を交わして帰る。それはとても幸せな時間でした。

そんな中で1つの変化が起きました。いつものようにお店に行くと、女将さんがふっと「いつものですか?」と聞いてくれたんです。

僕は少し照れながら「はい」と答えました。そして出てくるのは、もちろん、「ポークカレー・ルー大盛り」。でも、この「ポークカレー・ルー大盛り」は、それまで食べたどの「ポークカレー・ルー大盛り」より特別な味がしました。

あ、ダメだな。書いててすでに泣きそうだ。

そんな時間が永遠に続けばよかったんですよね。でも、長くは続きませんでした。大学を卒業してちょっと忙しくなったこともあったんでしょうね。たしか、お店の前にチラシが置いてあって「移転します」みたいなことが書いてあったんですよ。でも、就職したてで、それを気にするゆとりが無かった。僕は後からすごく後悔しました。

だって、気がついたら、チリチリが戸田公園から消えていたんですよ。

悲しかったなあ。でも、時代はだいたい2003年頃。まだインターネットも今ほど情報は早くない。そもそもネットで探そうという発想もなかったんでしょうね。見つけることもできずに、あんなに好きだった「ポークカレー・ルー大盛り」のことも、女将さんの笑顔も忘れて、僕はブラック企業の仕事に飲み込まれていきました。

それから幾星霜。僕はなぜか麻布のぼろ長屋に住みながらフリーランスのコピーライターになっていました。少し余裕もできたのかな。ある日、急にチリチリのことを思い出したんですよね。そう、まるで何かに導かれるように。で、検索しました。そうしたら、バイクで15分くらいの距離にあることがわかったんですよ。

いてもたってもいられなくなって、バイクを飛ばして恵比寿と渋谷のまんなかへんになる「そこ」におりたちました。

お店の雰囲気は戸田公園時代と少し違って、白を基調としたシンプルなたたずまいだけど、看板は同じ。なにより香りが同じで、この時点で少し泣きそうでした。

恐る恐るドアを開けました。「いらっしゃいませー」の「せ」と「ー」の間くらいで声が止まる感じで、女将さんが「あ」っという顔をしました。僕も「あ」っという顔をしました。

でも、女将さんはすぐに笑顔に戻ってこう続けました。

「いつものですか?」

5年くらいのスキマが一瞬で埋まっていく感じがそこにあって、僕は涙をこらえながら「はい」と言いました。そして程なく「ポークカレー・ルー大盛り」が出てきて、僕は、堰を切ったようにカレーを食べ、そして、はじめて、女将さんといろいろな話をしました。

ああ。ダメだね。この行、思い出すといつも泣くわ。

それから、たまに通うようになったり、近所に住んでいるってことでばったり会ったりもしつつ……でも、ここ最近は全然いけてなかったんですよね。

ところがついさっき、おくさんがどうしても用事があってちょっと遠くのコンビニに行くというので、娘をベビーカーに乗せてついて行ったんですよ。昨日まで高熱出して寝てたんで。そしたらコンビニの真ん前にあるたこ焼き居酒屋の客席から手を振ってるおじさんがいる……と思ったら、マスターでした。

「お久しぶりです」と言いつつ、20年近く前に彼女(現おくさん)と通っていたカレー屋さんご夫妻に娘を見せるという、なかなかエモーショナルな体験をして帰ってきました。久しぶりに食べに行きたいなあ。

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ありがたやー
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Rockaku森田

コピーライター事務所でおなじみかもしれない株式会社Rockakuの社長やってます。

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コメント1件

涙出るくらいいい話でした。
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