レンガ

「脱社畜」の向こう側に潜む「ブラックフリーランス」という闇

■「社畜」=30年近く前の流行語

先に言っておきたいんですが、僕は「社畜」という言葉がちょっと嫌いです。自虐ネタとしても、被害者っぽい愚痴としても、なんか「残念な人たちだなあ」としか思えないし、家畜に失礼なんじゃいかとさえ思うわけです。いずれにしても誰も得しない言葉だよなあとは思います。

ただ、これは、僕が「社畜」な状態になるまで会社勤めができる耐性・適性を持ってないだけだったりするので、ぶっちゃけ社会人としてのスペックは間違いなく僕の方がだいぶ低いので、怒らないでおくんなさい。

因みにこの「社畜」という言葉、最初に流行ったのは1990年だったとか。諸説あるけど、安土敏さんの『ニッポン・サラリーマン 幸福への処方箋』という本で登場した言葉みたいっすね(ウィキペディアに書いてありました)。

つまり、もう30年近く前の言葉なんすよね。でも、まあ、未だに大人気というか、非常に「現代的」な言葉として生き続けている感じはあります。


■「脱社畜」という言葉のブレとか怖さとか

で、そこにかぶせて生まれたのが「脱社畜」というフレーズというわけですが、例のサロンをのぞいてみると……なんかすげえっすね。ぱっと見の印象として「会社員が向いてないなら独立起業しちゃいなYO!」みたいに見えるンですけど、僕だけですかね。

会社で働き方の自由を獲得できずに「おれ、社畜だわあ」という自覚のもとに消耗し続けていた人が、サロンでノウハウ買って独立できるのか? まあ、できる人がいるからそういうサロンが存在するんだと思うので、この件は深く突っ込まないことにしますが……

僕が思うに「社畜」という状態の問題点は「会社」に属していることじゃなくて、「家畜」的な状況でしか働けていないということなんじゃないかと思うわけです。因みに家畜という言葉を見るたびに、『魔法少女まどか☆マギカ』のこの一節を思い出しちゃいます(とはいえ1回しか見てないにわかですが、ここだけやけに鮮明に覚えているんですよね)。

「彼らは人間の糧になることを前提に、生存競争から保護され、淘汰されることなく繁殖している」 
「牛も豚も鶏(とり)も、他の野生動物に比べれば、種としての繁殖ぶりは圧倒的だ」 
「君たちは皆(みな)、理想的な共栄関係にあるじゃないか」 
「寧ろ僕らは、人類が家畜を扱うよりも、ずっと君たちに対して譲歩しているよ?」 
「曲がりなりにも、知的生命体と認めた上で交渉しているんだしね」

▼引用元
https://matome.naver.jp/odai/2143469731363873201/2143469973766433203

そう。家畜と人間は共生関係にある。そして家畜はもう、牧場の外では生きられない種につくり変えられているんですよ。もしも社畜を自覚する人たちが、会社さえ辞めれば状況が変わる!と信じているなら、それはすげえヤバいです。「畜」であるポジションやスキルやマインドを変えないと、牧場=会社の外に出た途端に路頭に迷うか、他の何かの「畜」になるだけでしょう。例えば高額なオンラインサロンとか、ね。


■フリーランスの単価を決める6段階ステップ

さて、ここでようやく本題です。ブラック企業という牧場から飛び出した元社畜さんが陥る闇……それが「ブラックフリーランス」です。これがね、夢も希望もないお話かもしれないけど、この10年ちょいの中で、何人かは無自覚にこの闇にハマっているのを目撃しました。

あくまで僕ごときが言うことなんで、怒らないでほしいのですが、フリーランスの単価を上げるためのステップは以下のような感じだと思っています。

◎LV.1:誰でもできる仕事を誰でもできる速度・品質でこなす
◎LV.2:誰でもできる仕事を誰でもはできない速度・品質でこなす
◎LV.3:できる人が限られる仕事をそれなりの速度・品質でこなす
◎LV.4:できる人が限られる仕事をできる人が限られる速度・品質でこなす
◎LV.5:他の誰に頼めばいいかわからないような仕事を編み出す
◎LV.6:それを1ジャンルとして確立し広く知られる

超かっ飛ばして書きますけど、LV.1に近い状態であるほど「労力」を売っている状態で、LV.6に近づくほど「能力」で食えてる状態ということになり、つまるところ、単価もレベルが高いほど高くなる……という構造になります。僕が勝手に整理しているだけの表ですけど、けっこうあってるような気はします。

で、ここまで書いちゃえばもうおわかりでしょうけど、ブラックフリーランスというのはつまり、何年経ってもLV.1〜2を行ったり来たりしている人たちのことです。因みにLV.6あたりは、例えば単著を出していたり(それが僕と違って重版しまくってたり)、テレビ出てたり、もっと上に行けば情熱大陸クラスの人たちのことですね。

この状態の一番の問題は「他に換えがいくらでもいる」という圧に弱いということです。クライアントの方が圧倒的に強く、価格交渉がしにくい。そして何より、自分のスキルに自信がないので、価格交渉する勇気も持てなかったりするわけです(僕もそうでした)。

若い頃、この手の仕事もたくさんやってましたけど、正直、アレで生活するのは無理ゲーだ!ってなったのをよく覚えています。実際、未だに付き合いが続いているクライアントは皆無ですし。ということで、これは社畜とほとんど変わらないというか、社員じゃないだけもっとひどい状況になります。つまりは最低でもLV.3以上を目指さないとブラックフリーランス確定だということです。そもそも、一部の大企業が働き方改革を実行するために、残業できない労働力の補填としてフリーランスを求めてたりする現実も無きにしも非ずなので、そこら辺もしっかり理解しておかないと、会社を辞めても「畜」=ブラックな立場は変わりません。


■「労力」か「納品物」か「能力」か

価格交渉ができないブラックフリーランス(つまり若い頃の僕ね)の特徴の1つに、「報酬の構成要素を理解できていない」+「理解できていても説明ができていない」という側面があります。

例えばデザイナーさん。10万円で引き受けたチラシを10時間かけてつくって納品するとして、その10万円は何に対する費用なのでしょうか。制作時間ですか? それともチラシそのもの? あるいはそのチラシが発揮する効果でしょうか。

正解がどれだということじゃないんですけど、「ただなんとなく10万円」だと思っているのなら、そこから考え直すべきです。フリーランスに多い制作業は特に原価が見えにくいので、この辺の認識が緩い傾向にあります(僕だけだったらごめんなさいね)。


■時間は短いほど価格は高くなるし、本数は増えるほど単価も上がるし、ページは減るほど高くなる

アルバイトとフリーランスの大きな違いは、時給で従量課金ができないという部分にありますよね。つまり、仕事をする時間が短ければ短いほど、仕事自体の価値は高まります。僕はよく客先にいき、3時間くらいで打ち合わせしながらディレクターやクライアントの目の前でパンフレット1冊まるごと構成組んでコピー書いてそのまま納品して帰る……という荒技をやりますが、これ、通常より高いお値段でしかやりません

だって、かかった時間は3時間と12年ですからね。僕が売っているのは「3時間という労働時間」じゃなくて「12年かけてようやっと手に入れた3時間で仕上げるスキル」ということになる。そして何より、そのことをわかってもらえるように細心の注意を払ってコミュニケーションをとっています。

それからよくライティング案件などで、「同じフォーマットのインタビューコンテンツを20本書いてください。いっぱいあるから1本あたりの単価をまけてください」というコトを言ってくる人いるでしょ? つい当たり前のように「はい!喜んで!」って言いたくなっちゃいますし、少し前の僕ならそうしてましたけど、冷静に考えるとこれは逆です。本数が多くなるほど、進行管理や表記・表現統一の管理の工数は上がっていく。つまり、本数増えたら単価を上げるか、別立てで「管理費」を設けないと死にます。

それから編集・ライティング系の仕事によくありますけど、「ページ単価」というのもおかしな話です。だって、ページ構成をしっかり見直して、無駄な情報を省いていった結果、4ページ減らせたら、それは素敵なスキルです。印刷費だって下がるじゃないですか。そんな素敵なスキルによってギャラが減ったらどう考えてもおかしい。だから、ページ単価についても、単純なかけ算で出すことは避けるようにしてきました。


■自分ができなかったことを託す話なんだけどさ

というわけで、「脱社畜〜目指すなら〜こういう具合にしやしゃんせ〜」という体裁の記事になってきましたが、着地点はちょっと別のことにあります。あたかもフリーランス向けに書いてきましたけど、これって、本当は自分を「社畜」と呼んでしまっている人たちにこそ考えてほしいことだったりもします。

自分はなにでお金を得ているのか。
自分の人生の一部である1時間の値段はいくらなのか。
換えがきかない存在になるにはどうしたらいいのか。
どうしたら「畜」な感じにならずに済むのか。

そのことを考えるきっかけにしてもらえたら、おっさんは本望です。
もっと言えば、奪い奪われたり、依存と搾取の不当なトレードを余儀なくなれる人間VS家畜みたいな構図ではなく、人間VS人間のフラットな関係性で、尊重し合いながら仕事ができるだけのスキルと価値を身につけないと、会社員でもフリーランスでも、結局は同じことになっていまう。
なんか偉そうに見えてしまうかも知れませんけど、僕は、会社員時代、それができなかったから、なおさらそう願ってしまうのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?