見出し画像

Pete Townshend - Can’t Outrun The Truth (2023)

ピートのコメント:
パンデミックの年月はチャリティにも大変なものだった。ティーンエイジ・キャンサー・トラストは毎年、お金を募るコンサートを毎年ロイヤル・アルバート・ホールで開催したり、様々なことをやるために作られたけど、すべてがなしになってしまったんだ」

「この曲のアイディアはロックダウンから精神疾患についての曲として生まれてきたんだけど、なによりチャリティのためでもあった。ガンを抱えた家族やティーンエイジャーがいると、大切にしたいけど、ロックダウンのために、その下を訪れることもできないんだ。この曲は全体的に切実な印象があるんだよ」

------------------------------

 なるほど、歌詞を見ると正にコロナ禍に於けるロックダウンの最中の孤独感を歌っているようで、随分鬱な日々を過ごしていたのかな、と思えば、その実本作はピートのパートナーのレイチェル・フラーによるプロデュース作品、曲も歌詞も彼女の手によるものらしく、つまりはピートの心中を歌ったものではないとの事でやや安心した。繊細な人なので孤独感や閉塞感を味わいながらロックダウンの時間を過ごしていたとは思うが、歌詞に書かれているように「一人で眠る恐怖」はなかったように思っている。それよりも、そういう人達のためにチャリティコンサートを何年も続けていて、安定的に寄付活動も出来ていたのがコロナ禍ではコンサートも叶わず、つまりは寄付活動も出来ないまま病気を持つ人々は進行していくもどかしさを感じていたようだ。なるほどピートらしい意識の向け方でもあるが、いくつかのインタビューを読むとどうやらコロナ禍に於いて新しいスタジオ付きの家に引っ越したようで、随分と意欲的にスタジオで遊んでいた、と言うか仕事していたらしく、その意味では創作意欲旺盛な環境が整っていたらしいが、いざ、レイチェル・フラーが本作を録音しようとなったらThe Who所有のスタジオに行くのだから、やはりスタジオのレベル感が違ったのだろうか。こういうミュージシャンの方々の持つスタジオってのはどういうものなのかまるで想像付かないが、録音用とはまた異なるのだろう。

 そんな本作だが、高齢のピートの作風とはガラリと異なり、唐突にペダルスティールのギターから奏でられる斬新さが衝撃的。The Whoからピートのソロ時代を通じてペダルスティールをピートが弾いているシーンなど聴いた事もなければ見た事もなかったので、随分インパクトあるビデオと音色、そこにオーソドックスながらもピートらしいザクザクとしたアコギのコード弾きが重なってくるあたりで、既にロックを感じる作風になっている。ところが、曲中になると随分柔らかさも感じられるのはバイオリンの音色が全編に渡って重ねられているからのようで、それこそプチオーケストラ的な質感をもたらしているから珍しい。ペダルスティールギターのフレーズも随所に印象的に入り込んでくるのでハッとするし、アコギのザクザク感がやはりピートの姿そのもの、そこにピートの力強いボーカルが乗るのだから訴求力は強まる。レイチェル・フラーがピートにこの曲を提供してリリースしてもらいたいと思ったのも、恐らくピートも持つパフォーマンス力と力強さ、メッセージの伝え方の極意を出来る人だと認識しているからこそだろう。それくらいに本作のようなナマナマしい音ではパフォーマーの意思とストレートな表現力が人に訴えかけていく資質が問われる気がする。

 たった3分強しかないシングル一曲ながら、実に久しぶりのピート名義のシングルリリース曲で、チャリティ限定でアナログ12インチシングルもリリースされているので貴重なアイテムとなるだろうか、まだまだ現役感を出すThe Whoの戦士はいつまでこのロック加減を出していくのだろうか、ロジャー・ウォーターズと同じくらい反骨心と才能に恵まれている存在に見えてきた昨今である。


好きなロックをひたすら聴いて書いているだけながらも、聴くための出費も多くなりがちなコレクターの性は皆様もご承知の通り、少しでも応援していただければ大感謝です♪