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数学の魅力への扉を開く名作――『数の悪魔』

先日、物理学者のスティーブン・ホーキング博士が亡くなった。
僕は小学生のとき、ホーキング博士のことを知って、失礼ながら「この人はまだ生きているの?」と親に聞いた記憶がある。
「余命数年」とも言われた病気を抱えているというストーリーを知ってのことでもあったが、それ以上に、歴史に残るような科学者というのは「昔の人」で、同時代に生きている偉大な科学者というイメージがつかなかったからだと思う。

ホーキング博士によって物理学に興味を持った人も多いだろう。
『ホーキング、宇宙を語る』をはじめとした著書は、専門家ではない多くの人に物理学の神秘と面白さを垣間見せた。

同じように、数学についても、その魅力を伝える多くの初心者向け入門書が出ている。
その中でも僕が数学の面白さにはじめて触れたのは、小学生の頃に読んだ『数の悪魔』という本だった。

©Shobunsha

10歳のロバートの夢の中に「数の悪魔」が出てきて、悪魔とおしゃべりをしながら、累乗や階乗、平方根やフィボナッチ数列といった数学の初歩的知識を理解していく。
「勉強」臭くなく、論理の飛躍もなく、ストーリーも面白かったので、小学生でもすらすら読めた記憶がある。
著者は数学者ではないが、ドイツを代表する詩人・作家だということを最近知って、なるほど安っぽい入門書とは違うはずだと納得した。

「あの本は面白かったな」と子どもの頃からずっと覚えていて、この記事のためにふと思い立って書店で探してみると、発行から20年近く、「47刷」となったこの本をすぐに見つけられた。まさに名作と言ってよいだろう。

さて、この本で数学に興味を持った僕は中学生になったころ、「e^(πi)+1=0」という「世界で一番美しい」と有名なオイラーの公式を知る。
『博士の愛した数式』でも重要な役割を果たす数式だから、ご存知の方も多いと思う。

e=2.71…と続く数。
πは円周率だから約3.14…だ。
e^π(eのπ乗)というのはたぶん、eをπ回かける、つまり2.71を3.14回かけたくらいの数・・・ということまではわかった。

でも、この「i」=虚数、はどういうことだろう?
e^πを「i」回かけるということだろうか。
虚数は現実には存在しない数だと聞いた。
「i」回なんて概念があるのだろうか。

悩んだ結果、当時中学生の僕は、「物知りのお父さんならわかるかもしれない」と思い、真剣な目をして父に尋ねた。

「・・・ねえお父さん・・・。アイジョウ(i乗)って何・・・?」

食卓に、何とも言えない空気が流れたのであった。

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