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Shadow of Intent / Elegy (2022)〜新世代を担うデスコアアクトが世界を獲れるか?〜

コネチカット出身シンフォニックデスコアバンド、3年振り通算4枚目のフルアルバム。

Currentsでの活動でも知られるChris Wisemanがメインコンポーザーを努め、極悪ボーカルBen Duerr、ベーシストAndrew Monias、元FacelessのドラマーBryce Butlerからなる4人組。

メンバー変更はドラムとベースが流動的。ただメインコンポーザーのChrisとBen Duerrが不動なため、着実なレベルアップは果たしている。

新世代のデスコアシーンを牽引する有望な若手であり、デビューしてから良作を連発している彼らだけど、本作でもやはりやってくれた。

いや、もしかしたらこれは賛否両論かもしれないな。

全体的にデスコア感は薄まり、メロディックデスメタル、シンフォニックメタル、ブラックメタル、メタルコアといった数多くのサブジャンルを消化し、かつてないほどジャンルレスなバンドになった。それをリスナーがどう評価するかに懸かっている。

ドキュメンタリーを見ると分かるが、そういうジャンルの垣根みたいなものをぶっ壊そうと意識的に取り組んでいたようだ。

初期2作は、シンフォニック要素はギターメロディーの隙間を埋めるような形で配されていたのに対し、前作『Melancholy』や本作ではオーケストレーションがグイグイと前に押し寄せてくる。そもそも本作のアレンジメントにFleshgod ApocalypseのFrancesco Ferriniが関わってる時点でお察し頂けるだろう。

かといってギターが主張しなくなったかというと別にそんなことはなくて、バウンシーなリフや時折テクニカルに唸るフレーズ、フラッシーなソロなどしっかりエレメントとして残している。

多くのバンドが自身に課せられるジャンルを飛び越えようと模索する中、Shadow of Intentは本作によって自身のスタイルを確立したと言って良いだろう。

全ての楽曲はドラマ性が最大限まで引き上げられ、まるで1つの映画を見ているような感覚さえ覚える。これが新世代の実力か。

そして本作ではTestamentのChuck BillyやWhitechapelのPhilが客演していることからも分かるように、まさにあらゆる世代に認められた新世代のメタルバンドとして君臨していることを証明してみせている。

アルバムの冒頭を飾る#1「Farewell」はスリリングなクワイアとオーケストレーション、猛烈な爆走でもって幕を開ける。相変わらずBen Duerrのボーカルは厳つい。WhitechapelのPhilが出てきた時にも衝撃を受けたけど、それに近い“ヤバさ”を持っている。仰々しいブレイクダウンで客寄せするスタイルが相変わらずウケているが、彼らは本作で敢えてその方向性には持っていかなかったんじゃないかな。

#2「Saurian King」はチルいギターからオラついたデスコアに突入。この曲は比較的シンフォ要素が控えめだが、隙間を埋めるというより有機的にギターリフに絡みついてる感じ。アレンジが本当に巧くなった。

#3「The Coming Fire」はテクデスっぽい細かな刻みのイントロから、“Hey!Hey!Hey!Hey!”と煽りが入ってBenの厳つすぎる咆哮が冴え渡る。ブラックメタルを彷彿とさせる爆走が凄まじくカッコよくてクール。

#4「Of Fury」はメランコリックなメロディーがメインの新機軸の曲。ちょっとクサめなんだけど、呪詛のようなボーカルワークやグロウル、凶悪なハイピッチが曲を引き締める。極悪なブレイクダウンにテクニカルなベースが一瞬顔をチラ見せ、情感のあるギターソロが一層ドラマ性を引き立てていく。今回はChrisのプロジェクトって感じじゃなく、バンドの総合力で勝負してきている感じがする。

#5「Intensified Genocide」は機械的にギョルギョル唸るギターとバスドラの連打でアグレッションを高め、Benお得意の早口グロウルで捲し立てる。バンドサウンドがメインでアルバム中盤の攻撃性を維持する工夫が見て取れる。こういう曲なら過去作のファンも納得するよね多分。

#6「Life of Exile」は物憂げなピアノイントロにミニマルな演奏、Benの表現力豊かなボーカルワークとクリーンのメロディーが絡む。今まで圧倒的な音数で攻めてきたShadow of Intentだけど、詰め込みすぎず各々の個性を活かした楽曲を作れるようになっている。とはいえ序盤からは考えられないくらいダイナミックなシンフォ要素で壮大にラストへと向かっていくんだけど。

#7「Where Millions Have Come to Die」はWhitechapelのPhilがフィーチャーした曲。Ben Duerrのボーカルスタイル自体が少なからず彼の影響を受けているはずだから、この客演はほんと嬉しかったんじゃないかな。てかやっぱPhilの個性はやばいね。

#8「From Ruin...We Rise」はスリリングなシンフォを全面に押し出し、ここでも新たな表現力を獲得したBenのボーカルが光る。こいつ喉に水でも入れてるのかってくらいディープ。序盤の控えめなサウンドから超絶エピックなソロで魅せていくChrisの巧みさも良い。

#9「Blood in the Sands of Time」はTestamentのChuck Billyがフィーチャー。モダナイズはされてるけど、旧世代メタルへのリスペクトを感じる熱いリフやバキバキのベースラインや細やかなドラムアレンジが素敵。正直Chuckがどんな感じで入るのか気になったんだけど、すげえ良いところで披露するんだわ。ギターソロは今作の中でも屈指のカッコよさ。

#10「Reconquest」はミドルテンポのしっとりとしたインストナンバー。ベーシストAndrewも前作以上に良い仕事をしていて、積極的にアイデアを言えるような環境になったんじゃないかな。

#11〜#13は本作『Elegy』のタイトルを表した組曲。序盤はプログレメタル要素の強い演奏陣に熱いコーラスが乗っかる短めの曲で、#12からが本番かな。デスコアらしさを見せるアグレッシブな展開とプログレ要素が上手いことマッチしていて完成度が高い。2ndあたりではマイナス要素に働いていた気もするコーラスがもはやそれなりの存在感を獲得しているのが面白いね。#13は機械的な刻みから猛烈な爆走を経てコーラスへと突入。早口グロウルと本作屈指のテクニカルフレーズが満載の中盤、壮大なコーラスへと繋げてフィニッシュ。

バンドとして一皮剥けた感がある。いままでは個々の能力値をぶつけるプロジェクト要素が強かったけど、制作環境が変わったのかバンドサウンドとして完成度の高い作品をリリースするようになってるね。

完全DIYスタイルは本作でも維持しており、レーベルに依存せずマネジメントもChrisがやっているようだ。

マーチやツアーなどトータルでどの程度の利益が出ているかは分からんけど、こういうスタイルで食ってけるようになったとしたら、色んなバンド立場の希望になるかもね。

★★★★★

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