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Memphis May Fire / Remade In Misery (2022)〜ポストハードコアの未来〜

テキサス出身ポストハードコアバンド、4年振り通算7枚目のフルアルバム。

長らくアルバムリリースから遠ざかっていたけど、ようやくアルバムリリースに漕ぎ着けた。アルバム収録曲のうち7曲をシングルカットするなど、バンドとしての新たな挑戦を詰め込んだ1枚に仕上がっている。

このバンドの最大の魅力はMutty Mullinsの紡ぐメロディーとスクリームの対比にあって、00年代ポストハードコアの在り方を体現したお手本のようなバンド。

とはいえその道のりは決して平坦なものではなく、デビューEPで瞬く間に有名になった途端、前任ボーカルChaseが脱退。その後Muttyを迎えてリリースされたデビューアルバム『Sleepwalking』は散々な酷評を食らった。

初期はサザンロックテイストな楽器隊と激情スクリームが売りだったため、方向性の変化に戸惑うリスナーが多かったんだろう。

しかしバンドは着実にキャリアを重ね、4thアルバム『Unconditional』が全米4位にまで上り詰めた。

この圧倒的な成功もバンドを追い詰めた原因だろう。
以降はよりスケールの大きい楽曲制作に取り組み、必然的にMuttyはスクリームの数を減らしていった。

そして前作『Broken』はまたしても総スカンを食らったのだ。

確かに攻撃性が大きく減退したそのサウンドはかつてのMemphis May Fireの魅力をバッサリと切り落とした冒険作だった。アッパーな楽曲が少なく、ミドルテンポでしっとり聴かせる楽曲が多かったこともさらにファンを戸惑わせる結果になった。

そんな紆余曲折を経て本作をどう仕上げるか、とても気になっていた。なんならこのままフェードアウトさえするんじゃないかと疑っていた。

しかしバンドは諦めていなかったようだね。長い時間はかかったがこうして新作を届けてくれた。

結論から先に述べておくと、本作は間違いなく良作だ。Mutty Mullinsによるメロディーは明らかに研ぎ澄まされ、過去最高にキャッチーだ。
だが手法としては前作からの地続きになっていて、スクリームはあくまでバンドサウンドを盛り上げる要素として取り入れられている。だがメロディーが格段に良くなったことで必然的にスクリームとの落差が際立つようになり、初期とは逆転する形になったがきちんと成立している。それこそLinkin Parkとか、そういう大衆性みたいなものを目指しているんだろう。

#1「Blood & Water」はパンチのあるギターリフに激情スクリームが絡み、アンセミックな歌メロに繋げる王道ナンバー。攻撃性とキャッチーさを両立した名曲。

#2「Bleed Me Dry」はメタルコアらしい情感のあるイントロからクリーンをメインに進行する曲。これもサビが異常にキャッチー、それでいて切なさを感じさせる。やや大げさなブレイクダウンで曲を引き締めるのはいつも通りな感じ。

#3「Somebody」は前作からの流れを汲むミドルテンポナンバー。若干加工したボーカルとチルいアンサンブル、美しいサビメロが楽しめる。

#4「Death Inside」はラップメタルみたいにまくし立てるボーカルが新しい1曲。リフは結構スリリングなんだけど、まだ発展途上な感じはあるかな。ブレイクダウンはかっこいいね。

#5「The American Dream」は甘酸っぱい疾走感のあるイントロからスクリームパート、今作でも随一のキャッチーなサビメロを響かせる。やっぱメロディーに磨きがかかってるねえ。

#6「Your Turn」は打ち込みやエレクトリックな装飾を施し、程良いグルーヴ感で進行。こちらもアンセミックな歌メロで惹きつけてブレイクダウンでアグレッシブさを演出する手法。

#7「Make Believe」はほぼ打ち込みやシンセによるバースから涙ちょちょ切れの歌メロへ。このメロディーの切なさは『Unconditional』の頃を思わせる。後半はアグレッシブさを取り戻す。

#8「Misery」はラフな演奏に合わせてニューメタルよろしくバウンシーに歌うナンバー。#4とかと同じ方向性だけどこの曲のが良いね。

#9「Left For Dead」はテクニカルなリフと獣性の高いスクリームを混ぜながら進行しつつ、やはり歌メロで勝負する曲。感情を振り絞るように危ういスクリームをする場面もあって良いね。

#10「Only Human」はFire from the GodのAJがフィーチャー。これなんかもう完全にニューメタルのソレで、本作の傾向を象徴する曲。全体的にメロディーの質が上がったわけだけど、新たにニューメタ要素をぶち込んできたから、それをリスナーがどう評価するかって感じだね。

#11「The Fight Within」は打ち込みメインのバラードナンバー。でもこの曲がもうまじでLinkin Park。

前作より格段に良くなった。が、あくまで新路線の延長線上にある作品なので、アグレッシブなMMFを期待すると本作もダメだろうね。

ただ前作でのマイナス点を確実に修正はしてきているので、また人気に火が付きそうな予感。

★★★★☆

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