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King Conquer / America's Most Haunted (2010)〜極悪ダウンテンポデスコアの頂点〜

フロリダ出身ダウンテンポデスコアバンド、2年振り通算2作目のフルアルバム。ボーカルがLafe FlynnからJames Mislowに代わり、初のフルアルバム。

初期作品の『Welcome to Hell』は8曲入りなのでEPとして扱うとするなら本作がデビューアルバムということになるかな。

結成は2002年とデスコアの黎明期に誕生したバンドで、フロリダといえばダウンテンポデスコアというイメージを決定付けたバンドとして深く印象に残ってる。

ファウンダーでベーシストのAdam Whitedが今年亡くなり、再結成は絶望的になった。このバンドに関わったメンバーで亡くなったのはこれで2人目。

しかし後続のバンドに与えた影響は計り知れず、ダウンテンポデスコアバンドとしては未だにトップに君臨しているような気がする。

まずボーカルのJames Mislowのグロウルが異常なまでに破壊的。ハイピッチとの対比が凄まじく、このバンドのカラーを決定づける重要な要素になっている。ディープなグロウルやガテラルはシーンでもトップクラス。それでいて個性的な声質なので他のバンドが容易に真似できない。

改めて通しで聴いてみたが、このアルバムの持つアグレッションはやはりとてつもない。ダウンテンポ系と聴くとスローにズンズンと打ち鳴らすサウンドを想像しがちだが、今作は緩急の付け方が非常に巧みで、切れ味抜群リフ捌きと爆走、極悪な落としという完璧すぎる音。

不穏なイントロ#1Overdraft」からリードトラック#26 Gallon Gasoline Stomach」へ。圧倒的なドラムのアグレッションと残虐リフがいきなり迫り来る。テンポダウンこそあるがメインに据えているのは爆走。ジャキジャキと切り刻んでいく残忍なギターとリズム隊の攻撃性が素晴らしい。余談だが当時のドラマーChris Whitedは現在Bodysnatcherで活躍している。

#3No Regret」は物憂げなメロディーとプリミティブな刻みを合わせたナンバー。そこからデスメタリックな爆走へと転じ、James Mislowはハイピッチを惜しみなく披露する。彼はグロウルが特に凄いけど、それ以外も本当に凄い。1分半ほどでダウンテンポデスコアらしいブレイクダウンを搭載してグルーヴパートへと移行。ギターのサウンドが少し変わってメタルコアのような抒情パートを挟むのも意外性があって良いね。

#4Better Luck Next Time」は序盤からテクニカルなリフと疾走を見せるも30秒ほどでテンポダウン、そこからギアを上げてさらにテクニカルな爆走へと繋げていく。極悪ビートダウン系のギャングスタイルなボーカルを挟んで再びブレイクダウン。再びトリッキーな音像へと変化。緩急の使い分けがとにかく巧みで、ただ落とすだけのデスコアになってないのが凄い。

序盤はじっとりとしたグルーヴを見せる#5Wasted Potential」はすぐさま爆走へと繋げる。ドラムの細やかなアレンジが巧いしハイピッチとグロウルをスムーズに行き来するJamesが強烈。その後はハンマーを振り下ろすようなブレイクダウンを中盤に挟んで奈落の底に突き落とす。

流れるようにシームレスに繋がる#6Frequencies」は怪しいメロディーとノイズがテロテロと流れる実験的なインストで、そのまま#7Trash Can Alley」へ。ちょっと変わったメロディーのイントロから刻みを一瞬だけ見せて、その後は爆走。これぞフロリダ出身と言わんばかりのプリミティブなブレイクダウンを挟んで再び爆走モードに突入。同じリフを垂れ流すだけじゃなく、落としを通過することで違う展開へと持っていけるのがこのバンドの良いところ。

タイトルトラック#8America's Most Haunted」は序盤からディープなグロウルを炸裂させまくり、ミドルテンポでボディブローを打ち込んでいくような曲。後半にリズム隊は圧を強めてギターはメロディックになる。このへんのバランス感覚のが本当に素晴らしい。

#9Turmoil Before Enlightenment」はデスメタリックなリフをメインに据えつつブルドーザーのように薙ぎ倒していく爆走をフィーチャー。刻みで押し切るより、リフや展開で聞き手を魅了していくのは彼らの魅力。

#10Unborn Existence」は残忍なリフをリズミカルに組み込んでアッパーなデスメタルを展開。鬱屈としたメロディー要素も垣間見えるなど、後半のハイライト的ナンバー。

#11Return to Sender」は不穏なアルペジオからじわじわと展開していくインスト。ラストはデスコアっぽく一気に音が歪む。

#123 Axle」はトリッキーなリフとディープなグロウルの組み合わせがブルデスっぽい。中盤からニューメタルテイストの展開に持ち込むなどかなり斬新な曲。2010年リリースとは思えない。

#13Extinguisher」は王道のダウンテンポ+爆走をフィーチャーした彼ららしい曲。謎のノイズを10分に渡って垂れ流すんだけど、ラストの加工されまくった台詞は何か仕掛けがありそう。


ダウンテンポデスコアというジャンルを確立した先駆者として、King Conquerが残した作品は今後も語り継がれていくと思う。

Chelsea Grinの初期やOceano、最近だとTraitorsあたりが好きな人はマストで抑えておきたい作品。

★★★★★



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