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Periphery / Periphery(2010)

ワシントンが産み落とした超絶エピックDjentバンドことPeripheryのデビュー作。

この手のレビュー記事は世に蔓延るメタラーが散々書き尽くしてもう擦り潰れてるぐらいなんで、ここでは好き放題に脱線しながらダラダラと書き連ねていくよ。

左から(g)Jake,(d)Matt,(v)Spencer,(g)Mark,(g)Misha


“Bulb”こと、Misha“Bulb”Mansorのイキりベッドミュージックとしてその産声を上げたペリ。
2010年かのRoadrunnerから華々しくデビューを飾ったかに見えるが、何気に結成から5年の歳月をかけてリリースまでこじつけてるあたり、イキり“Bulb”の苦悩と努力の結晶みたいなのがこの作品なんだよなって。

実際Mishaは“Bulb”名義でSoundclickのアカウント、殊にジョンペトのフォーラムで己の魅力を研ぎ澄ましながら楽曲を練りに練りまくって、インターネットに閉じこもる腐れメタラー相手にプレゼンしてたと思うと泣けてくる。

こういう閉鎖的なコミュニティーはミームが広がりやすいっていう傾向を強かなMishaは心得ていたのか、己が作り出す音楽性に“Djent”を持ってきたのはもう確信犯的であったと言わざるを得ない。

“Djent”の勃興に地域性は無いと思われるが、00年代に生まれたバンド達の一定数はMeshuggahニキの精神的影響下で心を支配されていたに違いない。それほどニキの作り出したあの超絶ジェンティーなサウンドはエピック!そのものであって。とはいってもCynicやGojiraといった面々も一大ムーブメントになったDjentのカケラを残してくれていたが。

VildhjartaもTesseracTも同時発生的にニキの血筋を継いで続々とデビューした10年代初頭はまさに世界を超えて地球にDjentの神様が舞い降りてきたっていう話があるくらいだ(ない)。

マーケティングの手法として自らの音楽性を「俺らはジェントだ」と高らかに宣言したのはMisha、いや“Bulb”の確信的犯行なのは間違いないが、ここまでのムーブメントになると予測出来ていたかは定かではない。だが少なくともペリは先人達の作り上げた手法を借りパクして自分達の名前を世界中に知らしめたんだ。同時にニキの圧倒的神の血筋と看板を一手に引き受けることになったのは言うまでもない。

だが、2005年に結成して以降人の出入りは激しく、今のメンバーに落ち着くまでは結構な時間がかかった。というか、実に現代バンドらしく、“Peripheryと名乗れる人選”を強かに行い続けていたと考えるのはさすがに野暮か。それほど明らかに今のメンツは素晴らしい。

つーかSpencer Soteloをどこで見つけてきたんだ?


実際、満を辞してリリースされるセルフタイトル作のアナウンスがあってから、Chris Barrettoは事実上の解雇となったのだから、そのへんの人選はかなり紆余曲折があったはずだ。
リリース後初のヘッドライナーでは後にChrisが加入したMonumentsがサポートしてたって言うんだからこれまた昼ドラみたいな展開。

そんな歌姫を手に入れたペリ(実際MishaはSpencerをそう表現したらしい)は土壇場になってボーカルをリプレイスしたわけだが、それにより、純正Meshuggah成分にエモいボーカルワークが売りのSpencerをはめ込み、まさに売れ線を捉えまくった、これまた確信犯的すぎる所業で後に伝説となるこのセルフタイトル作を世に放った。

ドロドロしてるんだよ。バンドで一儲けしてやろう!とかそういう意気込みじゃない。Mishaは現実をよく見据えていたと思う。バンドとして成功しても生きていけるわけじゃない。それを彼は分かってた。だから最初っからビジネスライクに割り切ることが出来たんじゃないか。

商業的にもそれなりに成功した後のインタビューで答えているが、「バンドで飯食うなんて無理なんすよ、今のこのご時世」と言い切っている。

バンドマンを夢見る諸君達に辛い現実を突きつけるつもりはないが、あのペリがそういうことを発信する意味はデカいと思う。

要するにMishaが言いたかったのは、“本当に音楽を楽しみたいなら複数の収入源を確保しようぜ”ということであって、それが不労所得ならなお良いってことなんだ。その分音楽に集中できるしね。

実際その環境を構築出来たのはドキュメンタリーとかを見ているとよく分かる。最新作はレーベルのしがらみからも解放されて、本当に好きなようにやっている。Mishaの財布とPeripheryは完全に切れたと公言してるくらいだから、思い描いていた理想郷へは到達できたんじゃなかろうか。

話を本作に戻そう。この作品の持っている音、殊に刻みにおいてはMeshuggahのソレでしかなく、まさに現代版ニキと呼んで差し支えない程にクリソツなのだ。

#1「Insomnia」の冒頭からガガガッガガッとつんのめるグルーヴをふんだんに用い、要所で“歌姫”ことSpencerのエモい歌唱が清涼感抜群に音空間を支配していく。彼のボーカルスキルは作品毎にえげつないほど上がっていくので、泥沼昼ドラを繰り広げたMishaの決断は間違ってなかったのだろう。

#2「The Walk」もポリメトリックを活かしたグルーヴでギュギュッガガッと忙しなく展開していく。フラッシーなギターソロで彩り、その後はマスメタルが味わえる贅沢っぷり。結成5年目の鬱憤を全てぶつけたようにてんこ盛りなんだよなこのアルバム。Bulbがベッドルームでこねくり回した、味わい深きアイデア達がこの1枚に凝縮されてるんだ。

#3「Letter Experiment」はベースになるグルーヴこそ似ているが、ボーカルワークには遊び心が見て取れる。
此奴の歌声は明らかにポストハードコア的な清涼感に満ち溢れていて、ここにきてついに真性メタラーとエモ、ポストハードコア上がりのキッズ達が邂逅を果たしたようなそんな印象さえ受ける。
つまりSpencerがいたことによってその懐の広さは何十倍にも膨れ上がったわけ。
ここ日本においても今はなきTRIPLE VISIONから日本盤化されていたことを考えれば、明らかにキッズにもメタラーにも響き得る可能性に満ち溢れていたことが伺える。

#4「Jetpacks Was Yes」なんてもう完全にエモメタルmeetsジェントな雰囲気で、流れるように#5「Lights」へと繋げていく。この曲しかり「The Walk」や「Icarus Lives」なんかもそうだけど、当初はChris Barrettoが歌っていたんだよね。スクリームは本作に限って言えばChrisの方に軍配が上がるんじゃないかと思ってる。余談だけど、彼とペリの間には暫く確執があって、最終的にはツアー中にゲスト出演するという形で2013年頃に和解したみたいだ。

#6「All New Materials」はオサレなイントロからエモい歌メロで彩り。所々でスクリームは入るんだけど、基本的にはポップな曲に仕上がっている。後のペリはアルバム中間で必ずといって良いほどこういうブレイク曲を入れるようになっていった。

#7「Buttersnips」はバキバキブリブリと唸るグルーヴを地に這わせ、スクリームとクリーンをバランス良く練り込んだコマーシャルジェントを展開。中盤のピロピロギターから徐々にスケールを増していく雰囲気はかなり良いぞ。

で、Djentキッズ達ならこのフレーズ絶対真似したくなっちゃう#8「Icarus Lives」に突入。この曲はやはりペリにとっても思い入れ深い曲のようで、2011年にはEPとして新曲やリミックスを収録した『Icarus EP』をリリースしているくらいだ。


#9「Totla Mad」はデロデロのグルーヴリフを纏いながら狂ったように弾き倒すリードが変態すぎる曲。Spencerが歌うことでらしさを繋ぎ止めてるが、個人的にはもっとキチガイっぽく叫び倒してくれてもよかったかな。


で、続く#10「Ow My Feelings」はクリーンをメインに進行する曲なんだが、構成が実に見事な曲で不気味な空気を感じさせつつ、一転して清涼感抜群の面持ちでラストパートに雪崩れ込んでいくドラマ性があるな。

#11「Zyglrox」はカオティックすぎるピロったギターにつんのめるグルーヴが押し寄せてくる本作の中でも1番ぶっ飛んだ曲で、ペリの巧さが光る。ボーカルが変わった後のVeil of Mayaを彷彿とさせる、要するにコマーシャル性とカオスを両立した、それこそSumerianの看板バンドのソレを既にデビュー作でやってしまっている感がある。

#12「Racecar」は最新作『Hail Stan』がリリースされるまで、長らくペリの最長トラックとしてリスナーから愛されてきた曲だ。静と動のコントラストが“映え〜〜〜”なオサレプログレッシブメタルを堪能出来る濃密な15分だ。ちなみにRacecarって後ろから読んでもRacecarだよね。ふざけてる。

プログレメタルやるなら長尺曲も作っとくべ!


みたいなノリで作られたのかは分からんが、新人バンドらしからぬ構築美でもってサラッと提供出来ちゃうあたりがもうやっぱペリはぶっ飛んでるよな。この曲だけで十二分に元は取れるくらいだ。

今作の何が良いって、プログレッシブメタルなのに変な敷居の高さを感じさせない懐の広さ。
それはラストソングの「Racecar」みたいな大曲を持ってしてもその魅力がはっきりと滲み出ている。

さすがにトータル72分聴き倒すのは体力がいるが、Meshuggahニキの新世代後継者として君臨するに相応しい実力をデビュー作の時点で証明してしまったまさに歴史に名を残す作品なのだ。

★★★★★











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