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元・損保ジャパン社員が語る「あまり語られない損保ジャパン本社内務部門の様子」

私は普段はnoteで趣味で音楽関係の記事を書いており、今回はまったくテーマが違うので悩みました。
ただ、私にはもう1つ、「これからの仕事の有り方や生き方を考える」というテーマで色々と発信していきたいという思いもあり、この問題についてはやはりこのタイミングで書いておくべきだと思いましたので少し語らせていただきます。

現在、ビッグモーターの保険金不正請求問題への関与が疑われている損保ジャパンですが、実は私は10年程前、損保ジャパンに在籍した経験があります。00年代後半~10年代前半までの約5年程です。
といっても営業や損害査定の部署ではなく、本社の事務処理系の部門でした。営業が獲得した契約の計上や代理店との会計を処理するバックヤードの部門ですので、保険獲得や事故査定には直接には関係の無い分野の仕事です。

私は40歳近くで異業種から損保ジャパンの本社の内務部門に、あるプロジェクトへの参加を条件に中途入社するというかなり変わったパターンでしたので、ある意味「部外者」として同社を観察していました。
今回はその当時に見た事や感じた事を元に、損保ジャパンの体質や問題点について語ってみたいと思います。

損保ジャパンへの入社の経緯

損保ジャパンの母体は旧財閥系の安田火災海上保険です。2002年に日産火災・大成火災を、2014年には日本興亜損害保険を合併して損保ジャパン(当時の社名は損保ジャパン日本興亜)が発足しています。

ご存じの方もいるかもしれませんが、2007年に損保ジャパンは「不適切な不払い」事案により行政処分を受けています。「正当な理由に基づかずに保険会社が支払いを拒否していた」というもので、当時損保ジャパン以外にも明治安田生命保険や三井住友海上火災保険も行政処分を受け、マスメディアでも大きく報道された事案でした。

上述の私が中途入社で参加した「あるプロジェクト」というのは、内部管理の体制や仕組みを改善する仕事でした。この保険金不払い問題を契機に全社横断的にクリアな内部管理体制を作る事が急務となったと、当時中途採用面接の際に説明を受けた記憶があります。

大手損保会社の本社内務部門が中途採用をすることは非常に稀です。損保ジャパンクラスになると、新卒で損保ジャパン(=合併前の損保各社)に入社し、その会社一筋でキャリアを積んできたガチガチのプロパー社員で内務部門は固められています。

ですので、通常は中途採用する必要がそもそも無いのですが、この時は保険金不払い問題で当局から処分を受けた事もあり、社内的にも「少し実験的に外部の人材を入れてみよう」となったようです。

問題点①肥大化した組織といびつなパワーバランス

入社してまず驚いたのが、内務部門の組織の巨大さでした。全国展開している会社なので、顧客との接点となる営業や損害査定の部門が全国を網羅するように建てつけられている組織編成である点は何も不自然ではありませんが、それを支える本社バックヤード部門も業務が細分化され、各部門ごとに多少違いはあるものの、多くの部署が部長・課長・課長代理・プロパー社員・派遣(またはパートタイマ―)というメンバーで構成されていました。

一見、各部署とも豊富な陣容なのですが、問題は各部署ごとに業務量にかなりの偏りがある点でした。簡単にいえば常に大量の業務を抱えて疲弊している部署があるかと思えば、一方で比較的ワークライフバランスがとれている部署もあり、バランスの悪い状態でした。

この事象が起きている背景には、部門長の間でのパワーバランスが大きく働いているように見えました。当時誰もはっきりと認めていた訳ではありませんが、やはり旧安田火災出身の「本流」の人間は、新卒で入社して一緒に育ってきた同期の人数も横のつながりも豊富ですので、社内政治の上でもポジショニングを有利に確保しているように見えた印象があります。

また、「営業部門の力が非常に強く、内務部門は常に営業部門に対し腰が引けている」姿勢だいう事を実感する場面も多くありました。この体質は、今回問題になっているビッグモーター社の「営業至上主義」体質にも通じる部分があり、これでは肝心のガバナンスも効きにくいと言わざる得ません。

問題点②責任の所在を曖昧にする企業風土

何かひとつの事項を検討・決定するにしても、登場人物として多くの関係部署が絡み合い、コンセンサスを得るまでとにかく時間がかかるのも特徴的でした。
しかも、建設的で前向きな議論を重ねるというよりは、できるだけ自分達の部署の責任と負担が減るように、部署間でけん制し合う、ネガティブな雰囲気が覆っていたように感じました。

1つ強烈に覚えている出来事があります。当時私が参加していたプロジェクトにおいて、ある事項を決定する会議があり、私が司会進行役を務め、10部門くらいの部署から各2~3名ずつ出席した会議がありました。

私はある事項について合意を得るため、各出席者に「この件についてどう思われますか?」と順番に話を振っていったのですが、いずれも返答内容が曖昧でろくに回答になっていません。よくよく様子を観察していると、回答する際に横目でちらちらと他部署の様子を伺っています。要するに「他の部署はなんて答えるのかな?下手な事を発言すると自分の部署の負担が増えてしまいそうだからとりあえず濁しておこう…」という姿勢で、他部署の出方を伺っている事が分かりました。

補足しますと、この時の議題はそれほど大がかりな内容のものではなく、はっきりいって出席していた役職の権限レベルで十分判断可能な内容のものでした。結局その会議は、終始全員がモゴモゴとお茶を濁したような内容に終始し、何も決まらず次回に繰越しとなりました。

損保ジャパンに中途入社する前、私はまったく別の、もっと歴史の若い業界のベンチャーっぽい気質の会社におりましたので、この時の会議で心底ウンザリした記憶があります。もちろん、ベンチャー企業でよく見られるようなスピード感のある意思決定の方が、全ての場合において正しいなどと言うつもりは全くありません。損保も含めた金融系は規制も多く、社会的影響も大きいので、ひとつひとつの検討に慎重を要する事は、理解はできていました。

ただこの時私は、そのような構造的な理由というよりも、むしろシンプルに「あぁ、この会社の人達はそもそも安全な陣地から一歩も出たくない、そういう人種なんだな。」と直感的に理解しました。
そもそも保険という「安心を売る商品」に興味を示して損保会社に入社する人の多くは、「リスクをとって未知のジャンルに挑戦する」タイプではなく、「石橋を叩いても渡らない・基本的にリスクはとらない」タイプが圧倒的に多いのが実際だと思います。

基本的にそのような人達で構成された組織である事に加え、そもそも損保ジャパンが複数の損保会社が合併して誕生したメガ損保であるという構造的な問題も絡み、責任の所在を曖昧にする風土が出来上がっているのだと、今でも私は解釈しています。

また、損保会社の平均給与は非常に高く、グローバル社員の30代前半で1000万円を超えるため、特に上昇志向を持たなくても満足のいく収入が保証されている点も、これら社員の気質が温存される理由の一つになっていると思います。

損保ジャパン退社の経緯

ここで私自身の話に戻るのですが、私自身も実はそれほどリスクテイクが好きなタイプの人間ではないのですが、たまたま前職のベンチャー系の会社で部門責任者をしていたりと、当時は「積極的にリスクをとる仕事の仕方」に感化されていた事もあり、損保ジャパンへ中途入社後は張り切って体制を改善するスタンスで仕事をしていました。

ただ、前述したような会社の風土の中でなかなか結果が出せず、そのうち社内政治的なものに巻き込まれ、ストレスから言動や立ち振る舞いばかりが過激になっていき、どんどんと周囲から浮いていきました。結局在籍4年目にメンタルの病気を発症し、しばらく休職した後、そのまま退職するという顛末となってしまいました。

すべては自分の未熟さが原因だったのですが、それを差し引いても「損保ジャパンの社内体制や風土はいずれ自律的に改善されていくんだろうな」というイメージは持てないまま辞める形となり、私にとっては損保ジャパンでの在籍時代は思い出したくない暗黒史となっていました。

その後、私は数年間メンタルの不調を抱えつつ、元の業界へ戻ったり右往左往した結果、現在では全く別の業界で起業して地味ながらも自分の会社を経営している状態なのですが、今回のビッグモーター問題での損保ジャパンに関する一連の報道を見て「あー、やっぱり何も変われなかったんだなぁ」と、なんとも虚しい気持ちとなりました。

損保ジャパンの今後

誤解のないよう書いておきたいのですが、そんな損保ジャパンの内部にも、当時とても少数ながらも問題意識を持ち、体制や環境を変えていこうと奮闘されていた方々もおられました。ただ、そのような志を持った方の多くは孤軍奮闘の状態で、結局は自滅してしまったり部署異動させられたりした現実も目にしました。

いたずらに希望めいた事は書きたくないので、最後に率直な思いを述べますと、損保ジャパンは今後も変われないと私は捉えています。
その理由は、上記で述べた同社固有の風土や構造だけが原因でなく、日本の金融業界が「護送船団方式」時代から本質的には何も変われていない事に最大の闇があると思っています。

さらに言えば、その護送船団方式の頃に確立された従業員の高収入待遇を維持するために、逆算して会社維持のための体制やシステムが設計されており、最終的には保険料率を通じてユーザーが支払う保険料に転嫁されているというカラクリだと、少なくとも私は捉えています。

その点を語り出すとキリがないのですが、私個人はもはや損保業界にはほとんど関心が無いため、今後その部分について何かを書く事は無いと思います。

ただ、一言・二言、言いたいのは、損保業界もお客様あっての商売なのですから、「自分達もあたかも被害者のような振るまいで煙に巻くな」「自分達だけ安全圏内で甘い汁を吸っていなかったか胸に手を当てて考えてみなさい」という事だけです。
それができないようであれば、いずれどこかで想像を超えたしっぺ返しが来る時代に確実に変わってきているのですが、損保ジャパンがそのような時代の変化に自覚的とはほとんど思えないのが、率直な感想です。

(おわり)







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